131 ファンクラブ
重要な者たちを集める意味・・・この世界の強さを調整するための場所。
深雪は理由を濁していたけどな。
この闘技場には入っていないと言われていた場所は3か所あるのだと話していた。
「”パパ”が絶対に私だけで近づいちゃいけないって。3か所の内、ここなんだけど・・・」
深雪が闘技場の北のほうを指した。
「今は、AグループとBグループで勝ち抜いた者だけが入れるって聞いてる。最終トーナメントのゲートをくぐった先にある場所の・・・上」
「上?」
「そう。上なの。ここだけは、私も一回だけ行った記憶があって、階段の上。もしかしたらRAID学園の生徒もいるんじゃないかって。えっと・・・闘技場ができる前のことで・・・ここがただの『アラヘルム』だったときに、蒼空も入ってたなら、闘技場が無かったこと覚えてるよね?」
「あぁ」
「そのときから、私はここにいて・・・えっと・・・そう、”パパ”が認識してる限りでは、私がRAID学園で一番最初にここにプレイヤーとして入ってたはずで・・・」
記憶を手繰り寄せるように話す。
「あ、上のことなんだけど・・・たぶん、このゲームの運営者がいた、と思う。もう2か所はセキュリティが厳重で通れなくなってる。ゲートがいつ開くのかもわからなくて・・・」
深雪がこめかみを押さえながら言う。
話すほど、辛そうにしていた。
「頭が痛いのか?」
「ちょっとズキズキするだけ。ごめん・・・」
「もういい。あまり無理するな」
「・・・・大丈夫。落ち着いてきた。まだ、話したいことあるの」
ふぅっと深呼吸をして、ハーブティーに口をつける。
思い出させないように操作されているのかもな。
「もうこの話はいい。要はトーナメントを勝ち進めばいいんだろ? 上に行けば、俺が闇の力を解放して、その場所をぶち壊してやる」
「私も協力する。私だってやるときはやるんだから」
芯のある声で言う。でも、深雪を頼るつもりはないけどな。
「蒼空、さっき見せた記憶装置があるでしょ?」
「あぁ」
「次、RAID学園の生徒がいなくなったらわかる。私の記憶は無くなっても、予選通過した生徒の名簿、全部バックアップを取ったから」
深雪がモニターの画面を切り替える。
RAID学園の生徒の名前が52人分書いてあった。
「この人数に変化があれば、蒼空に連絡するよ。確実に行けるのは最終トーナメント確定後だけど、消えた生徒が別の2つの場所に行ってる可能性もあるし。誰かが転移するときに、この2つ場所のゲートが開くかもしれない」
「わかった。2つの場所にいないとは限らないもんな」
「ごめんね。はっきりした情報じゃなくて」
「いや、3か所に絞れただけでも十分だ」
予選を通過したのは52人か・・・RAID学園の生徒はもっといたはずだ。
予選通過できずに、ギルドに戻ったのか?
それとも消されたのかわからないな。口に手を当てる。
「ねぇ、消えた生徒が・・・その、死んだってことは無いのかな? 殺されたとか」
「それは無いな」
「どうして断言できるの?」
「俺、死の神でもあるんだよ。死の神の本に、消えた生徒の名前が書かれた感覚は無い」
「!?」
深雪が驚いて、ハーブティーをひっくり返しそうになっていた。
「し、し、死の神!?」
「そんなに驚くか?」
「驚くよ」
ルーナだった頃の深雪に無理矢理させられたんだけどな。
さすがに、記憶が無いか。
「死の神、闇の王だけじゃなくて・・・死の神。な、なんかすごいね」
「・・・そりゃどうも。とにかく、死んだってことは無いから」
「うん。そっか、よかった」
モニターをスクロールして、公式配信を表示する。
ノアの箱舟の予選通過者の戦闘シーンが映っていた。
RAID学園の生徒が3人映っていて、えまとりまに似たAIロボットからインタビューを受けていた。
『闇の王はRAID学園の生徒なんです。ともにゲームを学んだ仲間であり、現在はこの世界を波瀾に導く存在になってしまった』
そばかすの多い少年がこぶしを握りながら話している。
『俺たちRAID学園の生徒は必ず、新帝になって闇の王を討伐します!!!!』
『彼を止められるのは、RAID学園の生徒だけです』
『闇の王は・・・そうですね。ハーブの調合が上手く、あ、いえ、どんなゲームでも権力を振りかざしていて・・・』
色の白い少女がキラキラしながら、俺の説明をし始めた。どこのゲームで一緒になったのか覚えてもいないが、よくもぺらぺらと話せるな。
オオオォォォォオオオオ
「なんか・・・・観客も、よくここまで盛り上がれるよ」
頭を掻く。
名前も顔も知らない生徒ばかりインタビューを受けていた。
「この生徒たち、確か蒼空のファンだった子だよ」
「・・・は?」
「だって、見たことあるもの。RAID学園内の蒼空のファンクラブ配信会で」
「ファンクラブ配信会って、何の話だよ。冗談だろ?」
「え、知らなかったの? 蒼空のファンクラブがあったの。人数は、女子がやっぱり多いけど、男子もそこそこ入ってた。プレイする姿がかっこいいって」
真面目な顔で言う。
「いや・・・さすがにそれは」
「本当だってば」
なんか変な記憶を植え付けられてるわけじゃないだろうな。
「何かと混同してるんだろ。俺は生徒に疎まれることは好かれるようなことはない。そもそも、どんなゲームに入っても、ずっと単独行動してたし・・・」
「違う! 本当にあったんだよ。確かに、RAID学園非公式だし、みんなこそこそ活動してたけど・・・ほら、ほら・・・」
モニターの少女を指す。
「こんな細かいこと、毎回配信をチェックして、情報交換しているようなファンでもないと覚えてないでしょ?」
「・・・・・・・・・・」
アクションゲームの合間に、数分だけ入ったパズルゲームの話をしていた。
確かに俺も記憶にないようなゲームの話を知っているようだ。よく調べていると言えば、そうなんだが。
そもそも、学園ではほとんどの生徒と会っていないし。
目が合ったら、顔を真っ赤にして避けられたこともあったし。
大体、万が一にもファンクラブなんて存在してたら、真っ先にヒナが調べてくるはずだ。
「ほらね。RAID学園には蒼空のファンクラブがあったの。闇の王になった今だって、ファンはいっぱいいると思う。ただ、みんなの前ではそれを出せないだけなんだよ」
「どうして、深雪がそんなこと知ってるんだ?」
「え?」
「RAID学園の記憶、あまり無いんだろ? 隠れたファンクラブなんて・・・つか存在すら怪しいし、真っ先に忘れるようなことを・・・」
「っ・・・・」
耳がどんどん真っ赤になっていた。
「その・・・えっと、私は・・・ほら、RAID学園の生徒とも良好な関係を築いてるから。聞くこととかあって。私が自分の推しについて語るなんてことはもちろんないから。だって、私自身が有名な配信者だもん」
「?」
途中から早口で何を言っているのか、さっぱりわからなかった。
「この話はこの辺で。そう、私、行くところとかあるの。も、もう時間無いから」
「あ・・・」
急に、深雪が焦りながらモニターを消して背を向けた。ドアに手をかける。
「じゃあね。蒼空、さっき話したとおり、誰かが減ったら連絡するから」
「深雪、話はまだ・・・・」
バタン
深雪がタオルを床に落としたまま、部屋を出ていった。
人前でどうやって連絡取り合うのか、まだ話してないんだが・・・。
「なんか、部屋を乗っ取ったみたいな形になってしまったな」
背もたれに寄りかかって、部屋についたモニターを出す。調整はできないが、公式配信でBグループの紹介をしていた。外の世界のプレイヤーへの応援コメントも多く寄せられているようだった。
戻っても、まだヒナも結花もいないだろうから、まだここで休んでるか。
狭い部屋は落ち着く。
ふと、ランプのほうへ手を伸ばした時だった。
こつんと石のようなものに触れる。
「ん?」
深雪が忘れていったムーンストーンの皿だった。ランプの明かりに照らすと、白い中に青い光沢が現れる。
確か、俺が転生する前に、ルーナが持っていた天秤の片側の皿ななのか?
記憶を失っても、深雪にとっては大切なものなのだろうな。
取りに戻ってくるのを待つか、ここで少し休んでから闘技場に届けに行くか。




