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130 深雪の記憶装置

「その・・・悪い」

「ま、まさか人が来ると思わなくて、カギ閉めてなかったの私だから・・・・見てないみたいだし、何もなかった。うん」

 タオルで髪を拭きながら言う。


「・・・・・・」

「・・・・・・」

 ものすごく、気まずい。 

 アイスコーヒーを出してくれたが、全く味がしなかった。

 心臓の音が聞こえそうなほど、静まり返っている。


「その・・・」

「あー、えっと、こ、公式配信とか流しておこうかなー」

 深雪がぎこちなく座って、モニターを出した。なんか、出たほうがいいかもな。


 バーンッ


「!!」

「わっ、ごごごごごごごめん。音量最大にしちゃった。こうやってっと」

 指を動かして音量を下げていく。短い髪の毛先から、水が落ちていった。

「俺、出てくよ」

「待って。えっと、蒼空はどうしてここに? あれだけ休息地のプロモーションやってたのに」

「人ごみは苦手だからな」

「そっか。そうだよね」

 壁に寄りかかると、ひんやりと冷たく感じた。


「深雪こそ、どうしてこんなところに? 配信者なんだから、休息地に行って、あとでどんな場所だったか配信したほうがいいんじゃないのか?」

「私だって、一人でいる時間が必要だよ」

 白い腕を伸ばしながら言う。

「ここはなんの監視も無いから、私だけの時間を取れる。休息地なんていったら、絶対に声をかけられるし」

「まぁ、確かにそうだな」

 公式配信ではBグループの予選通過者を映していた。名も知らないギルドの連中が闇の王を倒すと高らかに声を上げている。


「こいつらも、まさか闇の王が闘技場にいるなんて思っていないだろ」

「ふふ、面白いよね。こうゆうの見てると楽しくなっちゃうね」

「・・・意外と性格悪いんだな」

「ある程度性格が悪くなきゃ、配信者ってできないんだから」

 いたずらっぽく笑う。


「ねぇ、蒼空といた結花って子・・・RAID学園の生徒だよね?」

「あぁ」

「どうして、地獄と繋がってるの? 彼女が召喚しようとしたのは・・・」

「この世界に肉体を持たない、悪魔だな」

 やっぱり、深雪には見えていたか。

 長いまつ毛をゆっくりと瞬かせる。


「あれを召喚してたら、ここにいるほとんどの者が死んでた。彼女は何者なの?」

「さぁな。本人も意識せずにやったらしい」

「そうなの・・・見間違えじゃなかったよね。久しぶりに背筋が冷たくなった・・・」

「次、発動しそうになったら止める。心配するな」

「・・・うん・・・」

 タオルを畳んで、椅子に深く腰を掛けた。



「蒼空はこのままトーナメントを進めるつもり?」

「調べたいことができたからな」

「調べたいこと?」

「RAID学園のことだ」

「・・・・聞いてもいいかな?」

 モニターの音をさらに小さくした。


 話して、深雪がどう出るのかわからなかったが、俺のことが漏れていないことを見ると、自分の意志が尊重されているみたいだ。

 何か知っていることがあるだろうか。


「私、絶対誰にも言わないから・・・パパには、ちゃんと隠すから、教えてほしい」

 少し俯きながら、膝の上でタオルを握りしめていた。


「深雪のことは信用してる。もし、何か知ってたら教えてくれ」

「うん」

「実は・・・」

 今まで集めたRAID学園と近未来指定都市TOKYOの情報を伝える。

 近未来指定都市TOKYOが電子世界だということには驚いていなかったが、RAID学園の生徒が消えていると話すと、顔色を変えた。


「死んだわけじゃないことだけは確かだ。記憶からも、消されている」

「そんな・・・・・・・・」

 初めて知ったらしく、しばらく口に手を当てて考え込んでいた。


「そんなことがあったなんて・・・私、全然、気づけなかった。私と同じゲームに入ってた人たちもいなくなってたりするのかな。どこかのデータと見比べたら、せめて消えた生徒の全数だけでも・・・・」

「何も知らないならいい。お前は自分のことで忙しいだろうから、この件は忘れてくれ」

「私も協力するよ!」

 深雪が前のめりになりながら言う。


「いや、でも・・・」

「RAID学園の生徒がいなくなってるんでしょ? だって、私だってRAID学園の生徒だもん」

「・・・深雪はRAID学園について、どこまで記憶があるんだ?」

「っ・・・それは・・・・・」

「ほとんど無いだろ」

 口をつぐむ。アイスコーヒーを置いた。

「もともと配信で忙しかったんだから、仕方ない。面倒なことに首を突っ込むな」

「でも、蒼空だってそうでしょ? 今は闇の王なんだから」

「俺は多少無理がきく。RAID学園に特別な思い入れもあるわけじゃないけどな」

 手袋を押さえる。


「ただ、誰かに支配されているようで、気に食わないだけだ」

「それなら、私だって」

「俺とお前じゃ立場が違う。そもそも、水瀬深雪は新帝エンペラーにならなきゃいけないんだろ」

 特に、深雪には”パパ”という存在がいる。

 下手に動けば、あいつらがまた深雪を操作メンテするのではないかと思っていた。


 何よりも、俺と行動すれば深雪に危険が及ぶ。


「この話は終わりだ。俺は戻って・・・」

「・・・私、蒼空と学長室ですれ違ったこと、覚えてるよ。あと、廊下でも何度か会ったことあるの。蒼空は知らないと思うけど、蒼空が思っている以上に、私は蒼空を見てきた」

「?」

「だって、蒼空も忙しかったから、配信の私しか知らなかったでしょ?」

 白銀の髪を耳にかける。


「私ね、蒼空の言う通り、記憶が断片的でね。覚えてないことも多いんだけど、ちゃんと覚えてることもある。今度は絶対に忘れない。ほら・・・」

 手で魔法陣を描き、丸い水晶のようなものを取り出した。


「!?」

「これは、私が誰にも内緒で作ってたもの。私の記憶装置。何があっても、忘れることが無いように、記憶のバックアップっていうのかな」

「・・・・・・・・・」

「人工知能としてしか見ない人たちには、バグって思えるような行動かもしれないけど・・・私は自分で自分を作りたいって気持ちがあるの。リスナーにも”パパ”にも話さない、とても大事なこと」

 透明な石の表面はオーロラのようになっていた。


「誰にも言わないでね」

「・・・あぁ」

 深雪は”パパ”に従順に従っていただけじゃない。

 自分で動こうとしていたのか。


「えっと・・・なんだっけ? そう。だから、私はRAID学園の生徒として、みんなを救いたい。強い生徒ばかり選ぶなんて、絶対間違ってる」

「でも・・・」

「だって、蒼空だってみんなを救おうとしてるんでしょ? 闇の王なのに・・・私は蒼空の願いを叶えたい。上手くやるから、協力させて」

「・・・・・・・」

「お願い」

 真剣なまなざしをこちらに向ける。サファイアのような美しい瞳だった。

 敵わないな。ルーナには・・・。


「わかったよ。じゃあ、共闘だな」

「うん!」

 大きく頷く。水晶のような記憶装置を魔法陣の中に沈めていた。


「といっても、私といたら蒼空が目立っちゃうから、まずいよね」

「そうだな。配信は続けるんだろ?」

「うん。いきなり切ったら変に思われちゃうから。それに、配信だって上手く利用すれば使えると思う。リスナーさんたちは、いろんな人がいるから」

 モニターの画面を大きくする。

 Bグループを通過したRAID学園の生徒が2人映っていた。


「Bグループ通過者もRAID学園の生徒は多いな。まぁ、俺らも含めてゲームに慣れてるから、当然なのかもしれないけどさ」

 顔立ちの整った女の子が、炎のフィールドをどうやって通過したか話している。

 制服のリボンを伸ばしながら、少し緊張しているようだった。

「ねぇ、グレンの話なんだけど・・・・」

「ん?」

「外の世界の学校ってどんな感じなんだろうね? ゲームが無いなら、スコアもないし、配信もないなら、何をするんだろう?」

 ランプの明かりをぼうっと見つめながら話していた。

「そういえば、聞いてなかったな。今度聞いてみるよ」

「うん」

 ふわっとほほ笑んで、立ち上がった。


「よし。今日は夜通し作戦会議だね。まずは、ここを出てどんなふうに蒼空とやり取りするか決めないと」

「そうだな」

「はっ・・・夜通し、密室、2人きり・・・?」

 深雪が急に顔を赤らめて、頬を手で覆った。

「い、いや、いい作戦が思いついた時点で、俺はここから出るから」

「そそそそそ、そうだよね」

「・・・・・・・・」

「うん、わかってる。えっと、何を言おうとしたんだったかな? そう! 私に考えがあるんだけど、いいかな?」

 ふぅっと息を吐いて、『アラヘルム』の地図と闘技場の地図を表示していた。


 気のせいだろうか? 

 なんか深雪が持つ様々な記憶が戻ってきているような・・・。

「この青い部分が、私たちが行ってはいけないって言われているところで。この世界で重要な者たちが集められている場所なの。たぶん、この辺は監視があるから・・・」

「あぁ」

 まぁ、今、考えることではないな。座り直して、深雪の話を聞いていた。

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