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129 休息

 デンドウはノアの箱舟のギルドに戻ると、結花のほうを気にしながら何かを話していた。

 ノアの箱舟には、他にも近未来指定都市TOKYOのプレイヤーがいてもおかしくないな。


 勝ったが、結花は目をつけられてしまっただろう。


「えっと、私、無我夢中で」

「結花の足元に黒い影ができたのは、知らないのか?」

「そうですね・・・。負けるって思って、無我夢中に勝たなきゃって思ったのは覚えています。あとは意識が朦朧として・・・というか、ここに戻ってくるまで負けたと思っていました」

「・・・・・・」

 結花は戻ってきても特に変わったところはなかったが、バトル終盤での記憶が薄くなっているらしい。磔にされたところまでは覚えていると話していた。

「まさか勝てると思わなくて。気づいたら、勝ってて・・・なんかびっくりです」

「すごいよ。急に向こうが降参しちゃうんだもん、なんか、何があったかわからないけど、きっとすごい何かがあったんだよ」

「そ、そうですか?」

「うんうん」

 グレンが勢いよく、結花に詰め寄っていた。

「でも、その・・・悪魔というのは、ハンス様には見えたのですか?」

「まぁな。でも、覚えてないなら気にするな。見間違いの可能性もある」

「はい・・・・・」

 ヒナがこちらを警戒しているのが伝わってきた。


 結花が嘘をつくようには思えないが、あれは偶然で呼び出せるようなものではない。

 俺はあの地獄から出てくる実体を持たない悪魔の存在を、転生前に鷲の姿をした巨人の像、フレースヴェルグから聞いたことがある。人の妬みや憎悪が電子世界で形を持ち、地獄で悪魔として魂が与えられるのだという。


 アレを召喚できるのは、魔女しかいない。

 アリアやリーランとは違う、かつて地獄の悪魔と契約したことのある魔女だ。

 もし、召喚していたら、この闘技場は半分以上は地獄へ引きずり込まれていただろう。


 結花はやはり・・・。


「ハンス様、すみません。かえって心配をかけてしまって」

「いや、俺が変にプレッシャーを与えてしまったからな。もし、お前が負けても何とかする・・・」

「違います! ハンス様が勝てると思えって言ってくれたから勝てたんです。私、ずっと勝てるって、何度も何度も頭の中で唱えてましたから・・・」

 目をキラキラさせながら話していた。


「自分でもびっくりです。私、勝てました。勝てちゃいました」

「あ、あぁ・・・・」

「ちょっといいですか? Bグループの予選通過者が出そろったみたいですよー」

 ヒナが瞼を重くして近づいてくる。

 結花のほうを見て、少し頬を膨らませていた。

 2人はあまり相性が良くないんだよな。性格は合うと思うんだが。




『Aグループのトーナメント戦は、ここでいったん休憩となります。次のバトル2時間前にはご連絡しますので、皆様どうぞお休みください』

『代わりに、ここりるからご報告が』

『お待たせしましたー!』

 えまとりまの間から、ここりるが現れた。


『Bグループの予選通過者は256名で確定となりました! 参加くださった皆様、本当にありがとうございます』

 ここりるが軽快な口調で話す。

『たった今、バトルフィールドに集まりました、”最果ての地”の番人が与えた難題を、見事通過した皆さんに拍手を!!』



 オオオォォォォォ


 会場が振動するほどの熱気と拍手に包まれた。

 さっきまで結花が戦っていたフィールドは綺麗に整備され、Bグループ予選通過者が集まってきている。各ギルドが、観客席から自分たちのギルドの予選通過者を讃えているのが見えた。



「256名って、Aグループの倍以上じゃないか」

 グレンが巨大モニターを眺めながら言う。

 配信では多くの投げ銭がされているようだった。コメントもほとんど読めないくらいの勢いで流れている。


「どんな奴が通過したんだろう。256人もいれば僕みたいな、モブっぽい奴もいそうだけど・・・」

「256人・・・RAID学園の生徒はどれだけいるのでしょうね」

 結花が目の前にモニターを出して、予選通過者の一覧を出そうとしていた。


「見れるの?」

「ロード中です。アクセスが殺到して重いですね」

「しばらくそのままかもな」

「ふわぁ・・・長い戦いになりそうです。なんだか、少し眠くなってしまいますね」

 ヒナが目をこすりながら、小さくあくびをしていた。



『本選が始まって24時間が経過しました。バトラーの皆様は、適宜休息をとってください。休息地の準備が整いました。緑の魔法陣から、ゆったりと休める休息地まで転移できるようになっています。なお、休息地に入れるのは予選通過したバトラーのみとなっていますので、ご了承ください』

 3Dホログラムの人型ロボットが歩きながら話す。


『休息地内での配信はご遠慮ください。あくまでも皆様の体力を回復させるためのスペースとなっていますので・・・』

「わぁ、やったー」

「バトラーのみの休息地って、確か公式配信でも案内してたよな? 美味しそうなローストビーフが出てたよ」

「そうそう、疲れを癒す温泉もあるとか」

「いいなー私は予選落ちだから入れないけど、るーちゃん、せっかくだから行ってきなよ」

 後ろにいたギルドの連中が、休息地の話で盛り上がっていた。


「お、温泉・・・・・・」

 ヒナと結花があからさまに行きたそうな顔をしている。


『休息地には温泉もあり、『アラヘルム』が直接契約する宿もございます。その他、何かご不明なことがありましたら、ご相談ください。皆様には闇の王を倒していただくため、快適なバトルを・・・』

「だってよ。ヒナ、結花」

「え・・・・」

「行ってきなよ。ずっと気を張ってたんだから、疲れて当然だ」

「でも」

「ん?」

 俺と結花を交互に見ながら口をもごもごさせた。


「あの・・・」

 結花が髪を触りながら、恥ずかしそうに視線を逸らす。 

「私、しばらくお風呂に入っていなくて、さっきから汗臭いですし・・・もし、シャワールームとかあれば行きたく、温泉とかも、できれば・・・」

「そうだよね。私もさっきから、埃っぽくて」

 ヒナが急に前のめりになる。

「では、ヒナさん、一緒に行きませんか? 私、実は方向音痴で、迷ってしまったらどうしようって」

「うん! 一緒に行こう。ハンス様はいいのですか? 休息地は配信も切られるはずなので、落ち着けると思いますが・・・」

「俺はその辺散策して休憩してるよ。次のトーナメントまで、まだまだ時間があるんだからゆっくりしてきてくれ」

「はい!」

 ヒナと結花が珍しく会話しながら、階段を下りて行った。


「グレン、お前はどうするんだ? 行かなくて・・・って」

「ぐがぁああ、んご?」

 グレンがいつの間にか寝ていた。


「・・・嘘だろ。こんな騒がしい場所で寝れるとか・・・逆に、すごいな・・・」

「ん・・・・・」

 椅子をソファーのようにして寝転んでいた。

 本当、こいつの立場っていいよな。記憶を持ったまま転生したから、引き際はしっかりと理解しているし。


 転生先を選べたら、俺はどうするんだろう。

 深雪の言っていたような、冒険ができる環境を選択あれば・・・。

 まぁ、関係ないな。立ち上がって、緑の魔法陣とは逆のほうに歩いていく。




 

 キィ・・・


 休みたい者は皆、休息地へ転移しているのか、バトラーの控室はしんとしていた。

 中央にいた案内役の3Dホログラムでさえ、目を閉じて休息モードになっている。


 Aグループのバトラーはみんな休息地に行ったようだな。

 一部、Bグループの紹介を眺めている者もいたが、わざわざここに来る者はいないだろう。


 部屋を見渡す。

 回復の魔法陣が光り輝いているだけで、誰かがいる気配すらない。

 奥のほうに一つ一つ区切られた部屋があるのは、仮眠室だろう。


 誰もいない静かな場所にいるとホッとした。

 俺は闇そのものなのだから、当然と言えば当然だけどな。騒がしい場所は苦手だ。


 しばらく、ここでゆっくりすることにしよう。

 闇の力を押さえるのは、無意識に神経を使うからな。



 カツン カツン カツン




 フードを取って、奥のほうの部屋に向かう。自分の足音だけが響いていた。


「ふぅ・・・・」

 手をかざして、ドアを開ける。

 小さな部屋にシンプルな寝るスペースとシャワールームがついていた。

 シンプルな作りで、ほのかに花のような香りがした。落ち着く場所だな。


 鍵をかけて、マントを脱ぐ。キキペペは『リムヘル』にたどり着いたのだろうか。

 いや、今は何も考えずに頭を休めよう。闘技場の音が一切しないこの部屋で・・・・・。



 ガタン


「?」

 シャワールームから音がした気がした。

 AIの誤作動か? Bグループの発表で、アクセスがパンクしてるだろうから、控室の機器にも影響が・・・。


「ふわぁ、さっぱり・・・」

「!?」

「・・・・・・・」

「あ・・・あ」

 湯気の中から、水瀬深雪が一糸まとわぬ姿で出てきた。

 白い肌に・・・って・・・。


「きゃっ」

「うわっ・・・」

 慌てて後ろを向く。勢いでランプを吹っ飛ばしそうになった。

 なんでここに? つか、どうして気配が無いんだよ。いや、深雪は強いから、気配を消せば俺は感じ取れなくて当然で・・・。闇の力を解放すれば・・・って。

 混乱して頭が回らない。


「蒼空君・・・どうして、み、み、み、見た?」

「見てない! 湯気で全然見えなかった」

「そ、そうだよね。よかった。うあっ」

 動揺の声とバタバタと何かが落ちる音がした。


「・・・・・・・」

 本当は全部見てしまったんだけどな。胸とかも・・・。


 今、ここで正直に言ったら、本気のバトルになってしまう。

 バトルで隠し通して、控室から闇の王の正体を明かすとか、洒落にならない。

「待ってて、えっと、今、今着替えるから」

「あ・・・あぁ」

 小さな椅子に腰を下ろす。

 机から落ちそうになっていたランプを、音を立てずに元に戻した。

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