126 ソラ VS ロイ
「随分と華奢な奴だな。じゃあ、こっちは得意な斧でいくか」
ロイが巨大な斧に切り替えていた。自信に満ちた表情で、肩を振り回す。
『では、準備ができたようなので、バトルを開始したいと思います』
えまがすっと離れて、杖をかざした。
パーンッ
試合開始の合図が上がった。
男が斧に炎をまとわせて、地面に向かって振り下ろした。
ゴゴゴゴゴゴオォォォォォ
真っ赤な炎が巻き起こる。
『おっと! ロイの力強い一撃が放たれました。これはかなり強い火力です!!!』
りまが離れた場所から興奮気味に話す。
右手で風を操っていたのか、数秒でフィールド内に炎が広がっていった。
モニターに映るコメント欄が盛り上がり、観客席から驚きの声が上がる。
「すげー、今の炎の上がり方」
「うわっ、熱風がここまで来るな。『コノハナサクヤヒメ』のギルドは確かアポロン帝国に仕えていたエルフ族がいたはず」
「だからプレイヤーがこんなに強い炎を放てるのか。さすが予選通過しただけあるな」
観客席からざわめきが聞こえてきた。
靴の裏に凍てつく氷の波動を付与する。
今のはパフォーマンスのようなものだな。ゲーム慣れしているようだ。
「ロイ様!!!!」
「頑張ってください!」
女性からも人気があるらしいな。
「もちろんだ」
ロイが攻撃を打ち込んだ後、余裕の笑みで手を振っていた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
次々放たれる炎の球を、軽く飛びながら避けていく。
「いつまで逃げる気だ? 早く勝負を決めようぜ」
「・・・・・・」
ドンッ
空中に魔法陣を展開して、炎の軌道を逸らした。
「くっ」
逸れた炎がフィールドの端で燃え上がり、地面が熱くなっていった。
『観客席は安全が確保されています。どうぞご安心ください』
『それにしてもすごい炎です! いいバトルですね!』
りまとえまが甲高い声で言う。
「謎の男だかなんだか知らないが、ギルドに所属しないでそこまでの力を手に入れたか。主要キャラってとこだな?」
「お前には関係ない」
「言うじゃねぇか。そのローブを早く脱いだらどうだ? 自分が何の種族すら伝えないで敗退する気か?」
ロイが指を動かして、斧を巨大化させながら歩いてくる。
カメラから遠ざかったところで、ぐっと距離を詰めた。
「!?」
「お前は近未来指定都市TOKYOについて何か知ってるか?」
カンッ
深淵の剣で斧の動きを止める。
「ん? あぁ、そりゃ知ってるだろ。闇の王によって『イーグルブレスの指輪』の世界に転移させられた都市なんだから」
ロイがモニターを出して斧の形を変形させていた。
「お前はこの世界の者なんだよな? いいよな。アバターなしでこの世界にいられるなんて」
「・・・・・・・・」
剣を弾いて、斧を振り回しながら近づいてくる。
「最高の世界だよ。このゲームは命がけだけど、全身で異世界を体感できる。この世界こそが俺の居場所だ!」
ロイを応援する声が聞こえてくる。
派手な攻撃に引き込まれている、観客の興奮が伝わってきた。
「・・・随分パフォーマンスが上手いな」
「そりゃそうだ。この予選のリスナーの数、ものすごいんだぜ。世界中が注目してるんだよ、全力でアピールくらいするだろう」
「そんなに楽しいのか?」
「あぁ!!」
ロイが斧を大きく振りかざしながら、にやりと笑う。
ドーン
ジュウゥゥゥ
靴の裏で炎を溶かす。
ロイが放った攻撃で、フィールドに亀裂が入り、マグマのようなものが流れていた。赤くなっていくフィールドに、ロイが満足げに笑う。
「俺たちのいる世界は学校ってところにぶち込まれて、落ちこぼれればそのままどこまでも落ちていく。勝者と敗者のいる世界だ。敗者が這いあがる道筋なんて、ほとんど残されていない世界だ」
ロイが金色の髪をなびかせる。
「俺はこの『イーグルブレスの指輪』の世界でやり直すんだ! ギルド『コノハナサクヤヒメ』から、初めての新帝の称号をもらって有名に・・・」
「難しいだろうな」
「!」
剣を持ち直す。何かを感じ取ったロイが、赤くなった額に汗をにじませていた。
「・・・ふん、俺にはまだ力が残ってる。パフォーマンスはここまでだ。次で決めさせてもら・・・」
ドン
「!?」
瞬時にロイの後ろに回り、背中を蹴とばす。
ガッ
「うっ」
ロイに跨って、深淵の剣をフィールドに突き刺した。
斧を握りしめたまま固まる。
サァァァァァァァァァ
魔法が解けて、熱くなっていたフィールドは一気に冷えていった。
「初戦で俺と当たったのが悪かったな」
「っ・・・・」
「十分パフォーマンスはできたんだから満足だろう。今回は俺の勝ちだ」
圧勝で勝てば目立ってしまうからな。
こいつが派手な攻撃ばかり打ってきたから、観客からは互角に見えただろう。
「お、お前、まさか・・・」
地面に頬を押し付けながら、目だけでこちらを見る。
一瞬はっとしたような表情を浮かべて、小さく口を開いた。
「・・・・RAID学園の生徒なのか?」
「!?」
「どうしてそれがわかったって表情をしているな?」
ロイが指を動かして、煙を上げる。
周囲が白く覆われて、会場のどよめきが聞こえた。
「俺は耳がいいんだ。アバターのバグなのか知らないけど、利用させてもらって奇跡的に予選を通過したんだ。近づかなきゃわからなかったが、お前からはRAID学園の生徒と同じ電子音がする」
「電子音・・・・? 何を言いたい?」
「安心しろ。別にどうもしない。ただ、RAID学園の生徒と少し話してみたかっただけだ」
声を低くする。
「RAID学園の生徒に負けたなら、こっちも諦めがつくんだよ。新帝になれなくても、俺は独自の方法で英雄になってやるからさ」
ゆっくりと手を上げて降参の合図を出していた。
バトル終了の魔法弾が打ちあがる。
『勝者、ハンス!!!!!!』
えまの声と、拍手が響いていた。
「俺がパフォーマンスした分、お前の株も上がったんじゃないのか? 謎の男としての、な」
「興味ないよ」
「つまらない奴だな。賞賛を浴びてこそ、バトルは面白いだろうが。ま、RAID学園の生徒はこうゆうのに慣れてるか」
立ち上がって、剣を仕舞う。
俺が勝ったことが相当意外だったらしく、観客席はモニターでバトルのリプレイを望む人で、騒がしくなっていた。
「俺のことは言うなよ。言えば、殺しに行く」
「わかってるって。お前の力は十分認めてるし、これからは謎の男ハンスを応援する側に回るつもりだ。そのまま戦えば、かなり上のほうまで行くだろうなって思ってさ。もしかしたら新帝になるのはお前かもしれない」
「それはないな」
「謙遜するなよ。その実力で」
りまが巨大モニターにバトルのハイライトを映していた。
ロイと俺に対する拍手が沸き起こっている。
思わずフードを押さえた。目立つつもりはなかったんだが・・・。
「お前が新帝になれば、俺は新帝と戦闘したことあるプレイヤーになる。頑張って勝ち残ってくれよ」
「そうだな・・・」
ロイが斧を仕舞って、ふぅっと息をつく。
ローブについた灰を払って、背を向けた。
「じゃあな、俺は戻る。こうゆうのは苦手だ」
「そうだ。媚びを売るってわけじゃないが、いいこと教えてやるよ。近未来指定都市TOKYOで、RAID学園のプレイヤーじゃない者がいるのは知ってるな?」
「ん?」
振り返る。ロイが口角を上げて、白い歯を見せた。
「そいつはゲーム運営者、クリエイターらしい」
「!?」
「あのRAID学園の結花って子、気を付けたほうがいいぜ。RAID学園の生徒の力を測るために、入ってるらしいからな」
「気を付けるって・・・どうしてそれを・・・」
シュンッ
ロイが何かを言いかけると同時に、転移させられて、闘技場の待機席に戻っていた。
鳴りやまない拍手と歓声に、ローブを押さえる。
「ハンス様! おかえりなさい」
「すごいバトルだったな!」
「はい。本当に本当に、さすがハンス様です。あの、斧を華麗に避けるところとか、思わず記録に残してしまいました。ご安心ください、厳重にロックもして・・・」
「すげーじゃん。コメントもかなり盛り上がってたんだよ」
ヒナとグレンが真っ先に駆け寄ってきた。
ロイはギルド『コノハナサクヤヒメ』のメンバーに囲まれていた。
他のギルドのメンバーも駆けつけているように見える。
話を聞きに行ける雰囲気ではないな。
「ハンス様?」
「・・・・・・・・」
結花のほうに視線を向ける。
モニターを眺めながら、杖に埋め込む魔法石の並びを考えているようだった。




