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124 予選通過者

 トーナメントはAグループとBグループに分かれて行われるらしい。

 現在時点で予選通過した92名のAグループのみトーナメントを組まれていた。


 残りの者たちはBグループに分類される。Bグループの人数が想定よりも多い場合は途中で切られて、順次トーナメントが組まれるとの話だった。


 Aグループ、Bグループともにベスト8まで揃ったところで、2グループをシャッフルして再度トーナメントを組み直すのだという。

「面倒なルールだな。フィールドの中には一人も通過者を出さないところもあるのか」

「フィールドの番人任せですから。フィールドの番人が何者なのかはわかりませんけどね」

 ヒナがモニターを横に出して、トーナメント表を映していた。


「これだけの人数が集まるのは、運営側も予想外だったのでしょう」

「そもそも、プレイヤーがこんなにいるとはな。RAID学園の宣伝力か・・・」

 予選敗退者が続々帰ってきて、ギルドのメンバーに励まされているのが見える。

 中には挑戦者がすべて敗退したギルドもいるようだ。カメラに映ると、悔しそうな表情で目を背けていた。


「たぶんなのですが、蒼空様が闇の王になってから、一気にプレイヤーが増えたのだと思います。RAID学園の生徒の配信は、全員リスナーの数が跳ね上がりましたし・・・」

 ヒナが予選で壊れた防具を修理しながら言う。

「噂を聞いて、こちらの世界のギルドも各地から集結したのでしょう。みんなアクシデントが好きですから」

「ふうん」

 頬杖をついて、背もたれに寄りかかる。


 時折モニターで闇の王のネガティブキャンペーンのようなものをやっていた。

 大国を5つほど闇に沈め、生あるものを殺し、この世界を掌握しようとしているのだという・・・。聞いたことのない国も、壊滅させたことになっていた。

 まぁ、全て噓ではないが、ほとんどが退屈な作り話だ。


「今こそ闇の王を倒し、平和な世界を! 我が国は選ばれし新帝エンペラーにはできる限りの支援を約束しよう!」


 オォォォォォォォ


 どこかの国の王子が剣をかざして、ギルドの士気を高めていた。


 バキッ


 ヒナが杖の飾りをへし折った。

「闇の王がどんな人なのか、あの者たちに見せつけてやりたいです」

「ヒナ」

「わかってますよ。私は蒼空様を危険にさらすようなことは絶対にしないのでご安心を」

 盛り上がっているギルドメンバーを睨みつけながら言う。



「ねぇねぇ、あの子じゃない?」

「ギルドに所属していないで予選通過するなんて」

「ほら、RAID学園の生徒だ。すごいな、彼女が勝利に導いたんじゃない? 水瀬深雪みたいにさ」

「俺は深雪よりもあの子のほうがいいな。小さくて可愛い」

 一部の観客と闘技場の予選通過者の視線が結花に集まっていた。


「こんなことになるなんて・・・RAID学園の指示には従っていないので隠れていたいのに・・・」

「もう難しいだろうな」

 結花が肩をすくめて三角帽子をかぶっていた。

 ギルドが無所属でRAID学園の生徒ということが珍しいらしい。えまとりまからインタビューを受けて、逃げるようにこちらに戻ってきた。

「消えた奴らのこともある、俺と行動するのはお前も危険だ。いざとなったら迷わず逃げろよ」

「大丈夫です。ちゃんと上手くやりますから・・ただ、目立つのが苦手なだけです。インタビューとかあまり話せないですし、本当に苦手です」

 顔を真っ赤にしてメガネをかけ直していた。

 結花はヒナのように要領がいいわけじゃないからな。


「ハンス様はすぐモテてしまうのが難点です」

「ん?」

「何でもないです。独り言です」

 ヒナが結花のほうを見て、頬を膨らませていた。

「あの・・・・」

 結花が周りをきょろきょろ見ながら口を開く。

「無所属って本当にいないのですね。予選通過者はみんなギルド名を紹介されていますし、なんか変なのでしょうか」

「そりゃそうでし」

 キキが尻尾を巻いて、ガラスの椅子に座る。

 足をぶらぶらさせると、草に土が落ちていった。


「お前までギルドに入っているとは・・・」 

「ギルドに所属しておいたほうが何かと便利なのでしよ」

 キキペペは魔族のギルド『テンペスト』に所属しているらしい。

 魔族の予選通過者が、キキペペに挨拶に来ていた。


「魔族にもちゃんとギルドはあるでし。あたしたちは他の魔族みたいに依頼は請け負っていませんが」

「籍だけ置いてるでし。魔族は自由を好むので、みんなそんな感じでし」

「セレナ様は別でしがね」

「・・・・・・」

 ペペが俯いてつま先を眺めながら言う。


「魔族は闇の王を倒すことが目的なわけないでし」

「ここにいれば闇の王に会えると思って来るでしよ」

「どうして、お前らがそんなに闇の王に執着するんだよ」

 キキペペの魔力が一瞬高まる。

「!」

「あの呪われた種族を・・・」

「根絶やしにするためでし。セレナ様がいなくなってしまった今、闇の王しかいないのでし」

「呪われた種族?」

「・・・キキ、落ち着くでし。ここで力を漏らせば・・・」

「わかってるでしよ」

 キキペペがこんな風に怒りを露わにするのを見たのは初めてだった。

 ペペが尻尾を触ってぐっと魔力を押さえている。


 魔族に何があったのか、聞いていなかったな。

 『アラヘルム』を追い出した者のことを指しているのだろうか。



「あ、私も一応、ギルドには所属してるんですよ。情報収集には有利ですから」

 ヒナが剣を出して、魔法石の調整をしながら話しかけてくる。

「蒼空・・・えっと、ハンス様、トーナメントは通常通り戦うのですか? ハンス様の一回戦目はプレイヤーなので特に何もないと思いますが」

「そうだな。闇以外の属性の力で戦うつもりだ」

「さすがハンス様です。私も上手く切り抜けられるよう頑張ります」

 配信用のステージを見つめる。

 ここりるが再度トーナメントの説明をしていた。


 俺とヒナの一回戦目はプレイヤー、グレンとキキペペはこちらの世界の戦士、結花だけが近未来指定都市TOKYOのプレイヤーと争うことになっていた。

「気になるのは結花の相手だな・・・」

「はい。近未来指定都市TOKYOなのにRAID学園のプレイヤーではないって・・・おかしいことではないのですが・・・」

 ヒナが口に指を当てる。

「なんで? 近未来指定都市TOKYOはRAID学園の生徒しか入っちゃいけないとか、そうゆう決まりでもあるの?」

 グレンがくるっとこちらを振り返った。


「お前いつまで一緒に行動する気だよ」

「せっかく仲良くなったんだし。ま、闇の・・・とかはビビったけど、ハンスは良い奴だし、いいじゃん。僕はメインキャラじゃないし、自由に動かせてもらおうと思って」

「さっきまで、白目で倒れてたじゃないですか」

「それは・・・あまりに驚いたからで・・・もう、忘れてくれ」

 結花が瞼を重くする。


「ま、驚くのは当然だ。ここにいる者たちは、俺を倒すために集まったんだからな」

「蒼空君・・・」

「自分の話だけど、僕は転生前・・・学生のとき、あまりいい思いをしてこなかったんだ。学校ごとぶち壊してやりたいと思うときなんて、何度もあった。だから・・・っていうのは変だけど、学園の敵になったハンスの気持ちは全くわからないわけじゃない気がして」

「・・・・・」

「とにかく、親近感があるんだよ。ハンスは何者であろうと友達だ」

 強い口調で話していた。左の靴ひもが少し解けかけている。


「好きにしろ。俺は友達とかそうゆうものが苦手だけどな」

「あぁ。よろしくな」

「グレンがそう言ってくれて、よかったです」

 結花がグレンを覗き込んでほほ笑む。


「推し仲間は多いほうが、楽しいって言いますしね」

「推し?」

「こ、こっちの話です。あと、私のことは大丈夫ですよ。近未来指定都市TOKYOのプレイヤーに何を言われようと、絶対に、ハンスのことは言いません。私は何があっても、ハンスの味方です」

 結花が頬を押さえながら言う。


「あ・・・」

 ヒナが少し手元が狂ったのか、魔法石を落としていた。



「・・・・・・・・・・・」 

 楽観的なことは言っていられない。


 結花の対戦相手は近未来指定都市TOKYOのプレイヤーであり、巨大ギルド、ノアの箱舟の1人だ。

 音のフィールドを5番目に勝ち抜いてきた者で、職種ははっきりしていなかった。

 中性的な見た目をしていて、ノアの箱舟の妖精たちを親しげに話しているのが見えた。


 他にも気になる者はいる。

 光の者を集めたギルド『ジアース』の、天使のような姿をした者。

 旧雷帝の称号を持つ青年ライアン。

 ドラゴン族の英雄と呼ばれている少女ジャンヌ、死から蘇ったという老人。


 そして、深雪の『パパ』がマスターを勤めるというギルト『リーネスの馬車』の数名。


『お待たせいたしました。Aグループのメンバーが揃いましたので、これからトーナメント戦を行いたいと思います』


 オオオオォオオオオオ


 えまが言うと、闘技場の真ん中が浮き上がっていった。


 ジジジジジジ・・・・


 闘技場中央にいた人たちが、魔法陣で端のほうに転移させられている。


『記念すべき、最初の相手は、なんと、RAID学園同士の対決です!!! 皆さん、見逃さないようにお願いします! ヒナ VS ユウマ!!!!!!』

「えっ、ヒナさんユウマとですか? ユウマってさっきの?」 

 結花がびくっとする。


「そうみたいだな。ま、ヒナなら引き際もわかるし、心配する必要はないだろう」

「はい。お任せください」

 あくまで、トーナメントでの話だけどな。

「でも、大丈夫ですか? ユウマは水のフィールドで一位通過だった人で・・・『バベル』というゲームでは最高記録を・・・」

「一応、負けるつもりはありません。ハンス様と当たるまでは、勝ち上がるつもりではいますから」

 ヒナが剣を持って立ち上がった。


「では、いってきます」

「あぁ」

 一歩前に踏み出すと、魔法陣が展開された。


 シュンッ


 闘技場の真ん中に転移されていく。

 数秒後、巨大モニターにはヒナとユウマの姿が大きく映っていた。

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