123 切り開く未来
「闇の王・・・うわっ、闇の王!?」
「しー、蒼空君は悪い人じゃありませんから、落ち着いてください」
「どどどどどどど、どうして。闇の王が新帝に?」
「大丈夫です。一緒に行動して、怖いところなんてなかったでしょう?」
「そ、そりゃ、ハンスはいいやつだけど・・・でも、え? え?」
結花が目を覚ましたグレンに、小声で事情を説明していた。
グレンが気づけ薬を飲みながら、深呼吸をしている。
控室の端のベンチに座っていた。
ハルトたちは、ほかのRAID学園の生徒たちと闘技場へ戻った。結花に、自分たちとは関わらないようにと話していたらしい。
『ギルド『アルメリア』より、風のフィールドの激戦を勝ち抜いた4名の予選通過者が戻ってまいりました!』
ウオォォォ
人気のギルドから予選通過者が出たらしく、観客席も公式配信のコメント欄も盛り上がっていた。祭りみたいなものだな。
たぶん、今、闇の王のことなんて気にしてる奴はいないだろう。
「消えたRAID学園の生徒・・・ですか?」
「あぁ、水のフィールド予選通過で1位通過したハルト、ユウマ、ヒナタが言ってたらしい。幼馴染のクウザという者が消えたけど記憶が薄れてるって」
ヒナが口に手を当てる。
「クウザ・・・高等学部3年の・・・・そうですね。このクラスのデータは何か改ざんされている部分はあります」
「何か知ってるのか?」
「はい」
モニターの名簿を出して、重い口を開いた。
「・・・実は私もRAID学園については、色々調べていたんです。蒼空様が心配すると思って、情報がすべてそろってから話そうと思っていたのですが」
「ヒナ、そうゆうことはちゃんと話せって」
「すみません。蒼空様に心配かけたくなくて」
「・・・・・・」
ヒナは謎が多い。
たぶん、抱えているものはこれだけじゃないんだろうけどな。
「いいか、ヒナ」
「はい・・・」
「俺のことは信用しろ。何があってもお前のことは必ず守る。何度生まれ変わってもな」
「えっ? う、生まれ変わっても?」
「ん?」
何か変なことを言った覚えはないが、ヒナが顔を赤くしてきょろきょろしていた。
頬をぺちんと叩いて、咳ばらいをする。
「ご、ごめんなさい。えっと、何の話・・・あ、そうそう。彼らはスコアが低い順で消えているみたいなんです」
「低い順か・・・今までやったゲームのスコアってことか?」
「はい。これが、私が調べていたいなくなった生徒の名簿です。誰が見ているのかわからないので、すぐに消します」
周囲を確認してから、手をかざして一瞬で消した。
「今ので、わかりましたか?」
「56人、高等学部2~3年の生徒が多いのか」
「はい。ちょうど、蒼空様が近未来指定都市TOKYOをこちらに転移させて数日経ってから・・・RAID学園の生徒が招集されて、『イーグルブレスの指輪』に入ってきた時期に重なります」
ヒナが膝を抱えて座る。
「みんな死んでしまったのでしょうか? そんなこと考えたくないのですが・・・」
「いや、それはないな。死の神の本にはRAID学園の生徒が書かれていない」
「じゃあ・・・」
「強くなるよう、クリエイターたちが何か操作しているか、もしくはどこかに集められて、表に出てこないようにされているか・・・」
「・・・・」
心当たりが全くないわけではなかった。
ワァァァアァァァァァ
「皆さん、純粋にゲームを楽しんでるのですね」
「そうだな」
魔導士ギルドの予選通過者が闘技場に花火を打ち上げると、割れんばかりの歓声が上がっていた。
「知ってたか? 俺たち近未来指定都市TOKYOは電子空間に存在する都市だったって」
「・・・はい、なんとなく。調べていくうちに、私たち近未来指定都市TOKYOの人間が他プレイヤーとのズレがあるのはわかってたんです」
「・・・・・・・・・・」
髪を耳にかけると、翡翠のピアスが揺れていた。
「でも、私はこうやってRAID学園で蒼空様といられるのは幸せですし、ゲームも楽しいですし、不満はありませんよ。蒼空様は闇の王になってからも、私をそばに置いてくれますし、優しいですし」
「・・・・・」
えまとりまが公式配信のコメントを読み上げている。
予選通過者を4人出した、ポセイドン帝国のギルドへの賞賛が上がっていた。
「もちろんRAID学園から消えた人たちは心配ですが、受け入れるしかないので。仕方ないって納得するしかなくて・・・・私もRAID学園の生徒ですから、もし、スコアを落としたらそうゆうふうになっても・・・」
「ヒナ、本当にそう思ってるのか?」
「え?」
真っすぐにヒナを見つめる。
「俺はRAID学園が嫌いだ。でも、消えた奴らが仕方ないなんて思いたくない。ヒナだって本当は辛いだろう? 調べれば調べるほど、RAID学園は理想で作られた夢の学園だって情報が出てくるんだからな」
「!?」
グレンの話で察しがついていた。
電子空間に作られた近未来指定都市TOKYOは誰かの理想の世界だ。
外の世界の者たちが勉強する教科とは違う、配信やゲームなどの世界を学び、配信しながら電子空間の世界の美しい部分を伝える。
この世界観にいらない者は排除されているのだろう。
グレンの話すようなモブは、存在しない、主役のみを集めた学園を作ろうとしているような気がした。
右手を握りしめる。手袋の中から、闇の力が漏れないように押さえつけていた。
「蒼空様は、どうしてそれを・・・?」
「なんとなく、勘づくこともある。俺も色々と見てきたからな」
公式配信のモニターに映った、水瀬深雪を見つめる。
「何もかも外側から決められるなんて虫唾が走る。俺が必ず、お前がスコアを落とそうが関係ない、そうゆう世界にしてやる」
「・・・・・・・」
「話せないことがあるのはわかるが、1人で抱え込むな。相談くらいはしろよ」
ヒナが目を丸くしていた。
自分の道は自分で切り開くと決めた。運命がどう決まっていようとな。
「そ・・・・蒼空様は闇の王としても忙しいのに、RAID学園も守ろうとするのですか?」
「俺は闇の王だ。王にそれくらいの特権はあるだろ」
「そ、そうですよね。ふふ、さすがだと思いまして。やっぱり、蒼空様はすごいです」
制服のリボンを触りながら立ち上がった。
結花がこちらをちらっと見て、グレンに何か言われていた。
少しムキになりながら、強い口調で言い返している声が聞こえた。
「では、どうしましょうか? トーナメントは辞退して、『アラヘルム』を見て回りますか?」
「いや、このまま参加する」
キキとペペがふわりと飛びながら近づいてくる。
「ソラ様、いえ・・・ハンス、調べてきましたでし」
「確かに話していた通り、この闘技場の地下は空洞になっていたでし。アラヘルムの木の根が伸びていたでしよ」
「やっぱりな。ありがとう」
キキが地面に足をつける。
「どうゆうことですか?」
「『アラヘルム』の木と『リムヘル』の木は外の世界との結びつきが特に強いんだ。だから、クリエイターが何かするとしたら、木の根の近くにあると思って、2人に調べてもらったんだ」
「あたしたちは、ステルス系の魔法は得意でしから」
ペペが指先のみ透かして見せていた。
「転生前にユグドラシルの樹という巨大な木があって、根が這う地下には、クリエイターの作りかけの者たちがいたんだ」
「作りかけの者?」
「あぁ、"ヒトガタ"という、一部だけ体を持った異形の者たちだ。おそらく、クリエイターたちと一番繋がりやすいのだろう。あいつらは、捨てられた者たちだったけどな」
もしかしたらRAID学園の消えた生徒たちも、『アラヘルム』の地下にいるのではないかと思っていた。捨てられた、とは考えたくなかったが・・・。
確証はないが、何も動かないよりはマシだ。
ピピピピ ピピピピ
3Dホログラムの執事のような恰好をしたロボットが目の前に現れる。
『回復を終えましたら、森のフィールド、水のフィールドの予選通過者は闘技場のほうへお戻りください。Aブロックのトーナメントが確定しました』




