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116  予選~水のフィールド③

「ここも結界が張られてますね。進めなくなっています」

 結花が折れた柱を跨いで戻ってくる。

 今まで現れたドラゴンは3体、ドラゴンを倒すごとに透明な壁のようなものが現れて、進めない箇所があった。


「もしかして、なんか間違った場所踏んでるからとかじゃない? 間違ったら、進む場所が狭められてくるとかさ」

「まぁ、ゼロではないが・・・」

 ボードゲームかパズル的なものを想定していたんだけど、ドラゴンが現れる位置に規則性も感じられない。現れた駒が動く様子もなかった。


「はぁ・・・」

「どうした?」

 グレンが柱に寄りかかりながら座り込む。


「一気に力が抜けちゃってさ。もう、僕は駄目だ。怖い怖い怖かった、ドラゴンめちゃくちゃ怖いじゃん。一歩も動きたくない、動いたらまた出てくるかもしれないし」

「でも、そろそろ慣れてきただろ?」

「いやいやいやいやいやいや、無理だって。言ってなかったけどさ、僕、城周辺の雑魚キャラとかも倒したことなかったんだよ。鉄のドラゴンには噛まれそうになるし、炎のドラゴンにはマントを焼かれるし、本当、弱すぎて嫌になるよな」

 マントの端を触りながら言う。


「でも、逃げるの上手くなってきたじゃん。地図見せてくれ」

「にげるのはね・・・お前ら本当すごいな。あんなのに立ち向かっていけるなんて」

「ドラゴンの討伐は、どのゲームにもありますから」

 結花が一つに結んでいた髪を解く。


「すごいよ。ホント」

「やっぱり、白いコマは動かないな」

 グレンのモニターの地図にはドラゴンのコマが4つ並んでいた。

 地属性の茶色、鉄属性の灰色、火属性の赤だ。

 上にあったドラゴンのコマは1つのまま動きがない。対戦相手がいるとしたら、こっちが一手打ったら、動きがあると思ったんだが・・・。


「あれ、こんな位置に聖杯? みたいなマークあったっけ?」

 地図に聖杯のようなマークが浮かび上がっていた。


「・・・あぁ、確かに無かったな。火属性のドラゴンを倒したから出てきたのか?」

「でも、聖杯なんて、何を表してるのでしょう。白いドラゴンと同じ、相手側のコマとかでしょうか」

「さっぱり、関連性がわからないな」

 頭を掻く。


 グレンが描かれたコマをなぞって口を開いた。

「・・・・『傷ついた黒き龍は、水を求めて歩き出す』」

「ん?」

「あ、絵本だよ。僕が住んでたところには大きな図書館があって、そこで子供に人気の本だったんだ。”黒き龍王と水の姫”って物語で・・・」 

 グレンが座り直して、きらきら光る小石を手に取る。


「なんか似てるなって思って。今の状況」

「どうゆうことだ?」

「えっとストーリーはうる覚えだけど・・・」

 ゆっくりと語り始めた。澄んだ風が青々とした草の匂いを運んでくる。



 龍王はもともと人間だったが、横暴な態度に腹を立てた白き女神が、黒き龍の姿に変えられて、はるか遠い場所へ飛ばされてしまう。

 避ける大地から這い上がり、鉄の雨を避けて、燃え盛る炎を収めた黒い龍は、疲れ果てて、水を求めて彷徨う。

 度重なる試練の中でも、黒き龍には月明かりが一つの導きを作っているのが見えていた。


 持てる力を使い果たし、力尽きそうな黒き龍に、水の姫が近づく。

 水の姫は黒き龍を可哀そうに思い、溜めるのに300年かかる貴重な聖なる水を与えた。

 黒き龍が水を飲み干すと、神の呪いが解けて人間に戻ることができた。




「月か・・・」

 長い瞬きをして、物語の情景を思い浮かべていた。


「2人はささやかながら幸せに暮らしましたとさっていうハッピーエンディングなストーリーだよ」

「う・・・その話って、なんか続きがありそうですけど大丈夫ですか? 水の姫が300年もかけて溜めた聖なる水を使うなんて、反感とかなかったんですか?」

「だからうる覚えなんだって。クエストにおけるモブの性能はこんなもんだから、靴磨くのは一流だけどね」

 グライダーブーツの砂を払っていた。


「ハンス・・・どう思います・・・?」

「かなりいい線いってるかもしれないな」

 顎に手を当てる。

「岩のドラゴンが消えるとき『我は、姫を守りし』って言ってたんだ。ドラゴンの属性は岩、鉄、炎だし、物語とつじつまが合うんじゃないか」

「まぁ、奇跡的に一緒ってだけかもしれないけど」

「ドラゴンを倒すたびに通れない場所が増えていく理由はわからないけどな。とりあえず、聖杯に向かって進んでみるか」

「随分、ポジティブだね。そもそも、こんな微妙な位置にいきなり現れた聖杯なんて、罠かもしれないだろう? 落とし穴があって、巨大生物に喰われるとか」

 グレンが肩を丸くして言う。


「次こそゲームオーバーだ・・・絶対ゲームオーバーになるに決まってる」

「ネガティブすぎだろ・・・」

「きっとお腹が空いてるからですよ。何も食べてませんもん」

 結花が杖を両手で持って、隣に座る。小石が転がっていった。


「そういえばな。休憩にするか」

「え? いいの? 急がないと、ほかのチームに先越されない?」

「だって、月の導きって言ってただろう? 物語が元になってるならまだ月がないんだから、聖杯にはたどり着けない」

「あ・・・あぁ、そっか」

 日の傾いた空を見つめる。雲が途切れて、遠くの雲がオレンジに光っていた。


「次はボス戦になるかもしれないし、グレンも今のうちにゆっくり休んでろ」

「ボス戦!?!?」

「いちいちビビるなって」

「こほん。料理は私がやりますね。RAID学園で配られた野宿セットがあるんです。待っててくださいね。この辺で、展開っと・・・」

 結花が張り切って、薪と鍋と包丁を出していた。袋には、米と野菜、肉が入っていて、ほのかにハーブの香りがした。

「わぁ・・・いいねいいね。近未来指定都市TOKYOのキャンプ飯。かなり美味しいって噂に聞いたよ」

「あはは、料理人の腕によりますけどね。でも私は、大丈夫です。自信があります」

 ぎこちなく、まな板を岩の上に置いていた。包丁がカタカタ揺れている。

「蒼空君に食べてもらえるチャンス・・・頑張らなきゃ」

 小声で呟いているのが聞こえてきた。


「近未来指定都市のキャンプ飯か。俺も食べるのは久しぶりだな」

「え? 食べたことあるの?」

「あ、えーっと、あれだ。酒場で似たようなご飯食べたって意味だ」

「だよな。僕の街にもあってさ、ぼったくりじゃないかってくらいのお金で提供してたよ」

「・・・・・・・・」

 口を滑らせるところだった。

 グレンが鈍いから、ちょくちょく命拾いしてる気がするな。


 ぼうっ 


「ぎゃっ、火が」

「手伝うか?」

「だ、大丈夫です。ソ、えっとハンスは座っててください。あれ、なんか間違っちゃったかな」

 骨付き肉が丸焦げになっているのが見えた。料理、したことないんだろうな。

 RAID学園から配布される食料で、変なものができることはないと思うが・・・。


「グレン・・・悪いけど、期待するものは出てこないかもしれない」

「いいって。こうやって冒険の途中で仲間と一緒にってのがいいんだからさ」

 声を潜めて話すと、グレンが笑っていた。


「あーあ、ボス戦無視して、ご飯食べたら寝てたいな」

「それじゃトーナメント上がれないだろうが」

「そうだけどさ」

 後ろに手をついて、空を見上げる。焦げた匂いが漂ってきた。

「ハンスはどうしてトーナメントで勝ち上がりたいの? 闇の王を討伐して英雄になるため?」

「ん・・・まぁ、そんなところだ」


 カチャン カチャン


「ふぅ・・・・これで骨は取れたのかな? きゃっ、火がすごい。ごほごほっ・・・」

「・・・・・・・」

 さっきから結花の包丁さばきが気になって仕方ない。

 何切ってるのかは知らないが、びちょっとか生々しい音が聞こえてきた。


「へぇ、ハンスならなれる気がするな。英雄に」

「は?」

 グレンが目を輝かせた。

「だって、かっこいいだろ、強いだろ、頭が切れるだろ、度胸があるだろ。きっと、この世界のメインキャラはお前みたいなやつだって。自覚がないのかもしれないけどさ」

 肩をぽんと叩かれた。


「はは・・・そうか」

「?」

 立ち上がって結花のほうへ歩いていく。焦げた謎の実を取り出して、鍋の火を弱めていった。

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