115 予選~水のフィールド②
ガッ
素早くドラゴンの胴体に回り込み、剣を振り下ろす。
ゴッ
鱗が剣を弾いた。配布武器の水の剣はドラゴンの皮膚には効かないということか。手をついて、ドラゴンが振る尻尾を避ける。
「結花! 魔法をぶつけてみろ」
「それがゲージが満タンになるのに時間がかかるみたいで。今溜まりました!」
杖が赤く光る。
― ファイアーボム ―
ボウッ
燃え盛る炎がドラゴンを包み込む。
「わっ・・・全然ダメ・・・」
皮膚を軽く焦がした程度で、すぐに炎を振り払ってしまった。
でも、今、火の中から何か・・・・。
「グレン! ドラゴンから何か見えるものは無いか?」
「えぇっ!?」
グレンが柱に隠れていた。
「おーい、何してるんだよ」
「こ、こ、こ、こ、怖いんだよ! 僕、の、能力ないし」
「知力があるだろ? 見えないか!?」
「なななななな、何かって言ったって」
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
ドラゴンが口の中に火を溜めていた。
まずい、剣での攻撃力しかない俺はシールドを作れない。
「結花、避けるぞ」
「きゃっ」
結花を抱えて、グレンのいる柱に回り込む。
ドゴゴゴゴゴゴゴゴオォォォォォ
赤い炎を吐く。岩が吹っ飛んでいた。
「あ、ありがとうございます!」
「強さが限られてるって不便だな。必ず連携しないと倒せないようになっているのか」
地面に手をついて、ドラゴンの様子を眺める。
あのドラゴンは地属性のドラゴンのはず。
結花が炎で攻撃したから、炎を吹いたのか?
「ぼぼぼぼぼぼ僕も確認したんだけど、剣とか魔法とか何もないんだ。僕、せ、せ、戦闘で仕える能力が無いんじゃ」
「そんなことないよ。知力だって戦闘に必要だから」
ドッドッドッドドド
ドラゴンが歩く音が響く。地面が揺れて、岩の欠片がぼろぼろと砕けていた。
「うわ、来てる来てる」
「結花、俺がドラゴンの注意を惹きつける。お前は今度火属性以外の攻撃をしてくれ」
「はい!」
「グレン、お前は攻撃が入ったときのドラゴンと、攻撃を打ったときのドラゴンを見てくれ」
「み、み見てるだけでしいいのか?」
グレンががくがく震えながら言う。
「知力がお前の能力だ。お前にしかわからない何かあるはずだ」
「・・・わかった」
ドーン
柱の落ちる音がした。ドラゴンの足がこちらに近づいてくる。
「こっちだ!」
グルアアァァァァ
俺を見かけるなり、爪で地面を削りながら突進してきた。俺の剣はこいつには全く効かない。なら、時間稼ぎに徹するか。
階段を上って、ぐらついていた巨大な岩を蹴り飛ばす。
ドドドドーン
ギャァァァァァァァ
岩がドラゴンの首に当たり、悲鳴を上げていた。
「結花、いけるか?」
「はい!」
杖を傾けながら、重なった岩の上に立っていた。ビリビリとした魔力を溜めている。
「私だってやるときはやるんだから!」
― サンダークラスター ―
雷がドラゴンに直撃する。
ジジジジジジジジ・・・・
ドラゴンの体が電流に包まれて光っていた。首を振って、雷を弾く。
「全然、効かない・・・地属性には何がいいんだろう」
「グレン! 何か見えたか?」
「み、見えました! 自信は無いですが、尻尾の付け根のところだけ緑色に・・・でもなんでなのかは・・・」
グレンが自信なさそうに言っていた。
予想通りだ。
知力を扱う者だけが、弱点を見れる。弱点を刺さなければ、ドラゴンが死ぬことは無い。
グルアァァァァァァァ
天に向かって咆哮を上げる。
「うわー、もう駄目だ。僕、駄目だー」
グレンが突然パニックになって、走り出した。
「あ、待ってください。グレン!」
「結花、グレンを頼む。ここで動き回るのは危険だ」
「わかりました!」
魔法を受けて、弱る部分が弱点。俺と結花には見えないが、知力の高いグレンにだけは見えるようになっているのだろう。
グオオォォォオオオオオオ
ドラゴンが体勢を低くしていた。
ビリビリとした雷属性の魔力を感じる。口の中に電気を帯びた魔力を溜めているのがわかった。
剣を持ち直して、飛び上がる。
ズンッ
グフゥウ
「お前に恨みはないが、死んでもらう」
真っすぐにドラゴンの尻尾の付け根を突き刺した。
ドラゴンの動きが停止する。
ジジ・・・ジジ・・・
岩のようなごつごつした鱗が、電子の粒となって消えていく。
ヒントとなるような物は無いだろうか。
顔だけになったドラゴンが口を開いた。
『我は、姫を守りし・・・・』
「姫? お前、話が」
しゅううぅぅぅぅぅぅぅ
近づくと、ドラゴンが居なくなった。
「おーい、終わったぞ」
砂埃が舞う。剣を仕舞って、周囲を見渡した。
姫とはなんだ?
この廃墟は、何か意味があるのだろうか。
「ほら、もういなくなりましたから」
「すみません。僕・・・こうゆうの体感するの初めてで」
グレンが結花に引っ張られて、岩を避けながら歩いてくる。
「というか、本当、ごめん。真っ先に逃げてしまって・・・情けない」
「まぁ、ゲーム慣れしてないなら当然だよ。気にするな。結花、いい動きだったよ」
「はっ、ありがとうございます!」
結花が満面の笑みを見せた。
「・・・はぁ・・・僕は本当、モブだね。最初のドラゴンを見ただけでこんなふうになるなんて、この先どう頑張ったって無理な気がしたよ」
震える自分の手を見て、ため息をついていた。
「あーあ、やっぱり靴磨きして、適当に景色を眺めながら過ごす毎日しかないよな。つか、転生したときから、そうゆう運命だったんだ。変なことに首突っ込んじゃったけど、モブはモブらしく・・・・」
「戦闘は慣れだ。慣れていることがいいことでもない。ちゃんとお前は自分の役割を果たしたんだから自信を持て」
「ん?」
「俺はグレンが羨ましいよ。代われるなら代わりたいくらいだ」
闇がある限り、俺はこの力から逃れられない。
石段を下りると、グレンが駆け寄ってきた。
「お前、いい奴だな。なんかめちゃくちゃかっこいいしさ、絶対モブじゃないだろ。本当は何者なんだ?」
「え? いや」
後ずさりして、フードを被る。まさか、俺の正体に勘付いて・・・。
「そうですよ。ハンスはとっても素敵な人なんです」
「本当はどこかの王子とかなんじゃないか? それでさらわれた姫を探してるとかさー」
グレンがにやけながら言う。軽く咳ばらいをした。
「そ、それより、グレン、地図は見れるか?」
「あぁ。そうだったね」
グレンがモニターを出して、地図表示する。
「あ!」
ドラゴンを倒した場所は、茶色いドラゴンのコマのようなものが描かれていた。
「ドラゴンの絵が描かれてる。これって倒したからか」
「闇雲に倒しても、魔法石は手に入らないのかもしれませんね」
「・・・・・・」
挑戦者の能力を全てを同値にして、ここに転移させたということは、戦闘がメインの課題ではないのだろう。何か目的が・・・。
「え!? 見て、今、地図の上のほうにも白いドラゴンが!」
「ん?」
「ほら・・・・」
指さす先に、白いドラゴンのコマが浮き上がる。
「どうして? 倒したドラゴンがここに描かれるんじゃないの?」
「・・・それは正しいと思う。でも、同じようにコマが浮き上がったってことは、単純に考えて、誰かもドラゴンを倒したということだろうな」
地図には遺跡が描かれていたが、線で区切ればボードのように見えなくもない。
「え? 他の挑戦者はどこにも見当たらないけど」
「見えないだけか、AIが敵になっているか・・・」
「えー!?」
「ルルシア遺跡・・・何か仕掛けがありそうですね」
結花が顎に手を当てる。
あのコマが何を意味しているのか、だ。どんなルールなのかもはっきりしない。
「この課題は、まだ情報が少ない。もう一度、この辺を歩いて戦闘してから、どんなゲームなのか探る必要があるようだ」
「そうですね」
腕を組む。もう一つのドラゴンが表示されるまで1分だった。
次の戦闘から同じコマが表示されるまで、1分以上かかっているとしたら、対戦相手はAIである可能性が高い。
トライアンドエラーで探っていくしかないな。




