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114 予選~水のフィールド①

「あの・・・この場ではハンスって、呼んだほうがいいですよね?」

「確かに、他の奴の前ではな」

「わかりました。でもどうして、ハンスなんですか? お気に入りの本の主人公とかですか?」

「昔の俺の親友の名前だ」

「そうだったんですか。蒼空君にも親友がいたんですね。いつも一人だったので、なんだか意外です」

 結花が小声で話しかけてくる。緊張が解けてきたのか、楽しそうにしていた。


「2人とも、番人からの説明始まってるよー」

 少年がこちらを振り返って手を挙げる。

 アリエルの居る噴水の周りには人垣ができていた。


「今行きますね」

「・・・人ごみは苦手なんだが・・・・」

 頭を掻く。

 近くで聞かなくても、モニターに表示されるようになるだろうけどな。



『これから皆さんは、こちらの水のゲートをくぐり、それぞれ知力、体力、魔力を分けた状態になってもらいます。例えば、ある人は知力50の代わりに体力1、魔力1、ある人は体力50の代わりに知力1、魔力1というようになります』

「元の力は使えないのか?」

『はい、ここにいる全ての人が同値になります。戦闘では、ゲートをくぐって配布される武器のみを使用することができます。なお、チームは3人以上、6人未満とさせていただきますので、ご了承ください』

 周囲にいたギルドの者たちがざわつく。

 アリエルが無視して、森の方角に水の輪を出した。


『この先にはクリエイターたちが用意したたくさんのモンスターが居ます。3つの力を使い分けて、この魔法石を手に入れたチームを課題をクリアした者とします』

 ドラゴンの形をしたアクアマリンを手に載せる。


「魔法石は、いくつ用意されてるんだ?」

『9個です。ここに転移されてきた方は1261名いますが、チーム戦となりますので良い人数になるでしょう』

「ちょっと待ってくれよ。同値になるということは、トーナメントで弱小の奴が出る可能性があるってことか? あり得ないだろ」

「そうだそうだ。せっかく装備品を揃えて、レベル上げをしてきたのに、意味がないなんて、どうなってるんだよ」

『今話したルールはここを抜けたら配られるモニターに表示されるようになっています。ご確認ください』

「おい、聞いてんのか?」

 プレイヤーの数名が文句を言いながら、アリエルに近づいた。


『うるっっさいわね』


 ぶわっ


「!?」

 水のバリアを張って、プレイヤーたちを弾いた。

 プレイヤーたちが一斉に吹っ飛ばされる。


「痛・・・・・」

「大丈夫ですか?」

 魔導士の少女が駆け寄る。


『ここでは私がルールです。逆らわないでください。次、番人である私に逆らえば即失格、闘技場に送り返すのでそのつもりで』

「っ・・・・」

『私はガタガタ抜かす、弱い奴らが嫌い。まとめて死ねばいいのに』

 アリエルがひんやりとした目で睨みつけていた。


『・・・本当は新帝エンペラーなんてどうでもいいし、ゴロゴロしたかったのに・・・ここりるには借りがあるから仕方ないけど・・・』

 小声で呟いているのが聞こえた。





「なんかフィールドの番人って意外と怖いんだね」

「はい、私も驚きました。あんな可愛い顔しているのに」

 どこからともなく鳥の鳴き声が聞こえる。

 噴水の水面にさらさらとさざ波が立ち、蝶が飛び立っていくのが見えた。


「そうだ。えっと名前、まだ聞いてなかったね」

「俺はハンスだ」

「私は結花、よろしくね」

「僕はグレン。2人はプレイヤーとこの世界の住人だよね?」

「・・・あぁ、そうだな」

 ゲートの前に並びながら話す。前に並んでいるのは100人くらいか。


 様子見している者がほとんどだった。

 3人で行くか、5人で行くか作戦を立てているようだな。


「プレイヤーってもしかして君、近未来指定都市TOKYOの人間なの?」

「はい。私、近未来指定都市TOKYOのRAID学園から来ました」

「マジか、超優秀じゃん!」

 グレンが前のめりになった。


「優秀って・・・それほどでも・・・」

「僕も転生前は近未来指定都市TOKYOの人とゲームしたことあったんだ。街全体が電子空間にあるってやつだろう?」

「え?」

「夢があるよね。電子空間に人工知能の人間たちで都市を形成したっていうけど、ゲームの中では全然違和感なくてさ。同じギルドにいたけど順応早いし、クエストでもかなり頼りにしてたんだ。懐かしいな」

「・・・・・・・・」

「しばらく、モブキャラだったからこうゆうのワクワクするんだ。そういえば、結花以外にもRAID学園の生徒と会ったことあってさ、サインもらっちゃったよ」

 グレンが肩掛けのバッグからメモ帳のようなものを取り出していた。


 結花と目が合う。

 近未来指定都市TOKYO自体が電子空間に存在するというなら、今まで疑問に思っていたことも筋が通る。おそらく、ずっと外の世界の人間たちの生活を、真似ていたのだろう。

 『イーグルブレスの指輪』の中に転移させたときも、思った以上にスムーズだったしな。


 後列に並ぶ、プレイヤーを眺める。

 外から来たプレイヤーはみんな知っていることなのだろうか。


「ハンス、電子空間・・・え・・そ・・・あの、ハンスはみんなが・・・」

「まぁ、今はそんなこといいだろ。あと少しで順番回ってくるぞ」

「はい・・・そうですね」

 不安そうな結花に、グレンが首を傾げていた。




『次、ハンス、結花、グレンの3人でいいですか?』

 アリエルが真っ白な岩に、足を組んで座っていた。

「あぁ」

『では、この門をくぐったときから、バトルは始まります。用意ができたらくぐってください』

 こちらを見ずに、欠伸をしながら言う。見るからにやる気が無いな。

 水の輪がぷるんと波打っていた。




 しゅぽっ


 水に全身が漬かるような感覚になった。

 門をくぐると、目の前には岩の積まれた遺跡のような場所があった。

 木々で見えなくなっている可能性もあるが、人影一つない。

「おわっ」

 グレンが転びそうになっていた。

「ふぅ・・・街にいた頃はこうゆう魔法に触れることなかったからなんか新鮮だよ。つくづくモブだったんだな」

「なんかぞわわってしましたね」

「全員同じ場所に来るというわけではないみたいだな」

「蒼・・・じゃなくて、ハンス、見てください。ステータスが変わっています」

 結花がモニターを表示して、3人のステータスを映す。


「俺が体力100、あとは1、結花が魔力100、他は1、グレンが知力100、あとは1、みたいだな」

 手袋を取って自分の手を見つめる。確かに闇の力は通じない感じだ。

 無理やりこじ開ければ出て来そうではあるが・・・今ではないな。


「うっ・・・僕が知力専門か。なんか地味だね。モブの引き寄せってあるのかも」

「考えすぎですよ。私もRAID学園の中ではモブに近いですよ。ゲームでハイスコア取ったのだって、運の要素が強いですし、どんなに努力しても全然目立ちませんし」

 結花が自虐的に笑っていた。 


「ハンス、とりあえずこの遺跡を散策してみますか?」

「そうだな。ここで適当に歩いていたら何らかのモンスターに会うだろう。試しに戦ってみて、感触をつかんだほうが良さそうだ」

「あ、僕のモニターには地図が表示されてるよ。今いるところは、ルルシア遺跡って書いてある。つか、もしかして知力担当のスキルってこうゆう地味なことばっかなのかもしれない・・・マジで」

 指を動かしながら、肩を落としていた。


「ルルシア遺跡・・・グレンはどこかで聞いたことあるか?」

「ごめん。僕、マジで靴しか磨いてなかったから何も情報が無いんだ」

 グレンが両手を伸ばしながら、前を歩く。


「まぁ、歩いてみようよ。遺跡なんだから宝箱もあるかもしれないし」

「待てって。先に自分の武器を確認・・・・」



 ドドドドッドドドドド


「!?」

「きゃっ」

 地面がうねるように動き出した。結花が柱にしがみつく。


「なにこれ」

「グレン! 下がれ!!」

「うわっ」


 ガガガッガガガガガ ドーン


 地割れに堕ちそうになったグレンを引っ張り上げる。

 柱が倒れて、真っ二つになった地面から、岩の鱗を持つドラゴンが出てきた。

 2階建ての建物と同じくらいの大きさだろうか。



 グルアアアアアアアアアア 



 鋭い爪を遺跡の岩に食い込ませる。

 天を仰いで咆哮を上げると、風が巻き起こり砂が飛んだ。


「あわわわわわわ、ど、ど、ドラゴン・・・で、でかすぎる・・・」

 グレンがよろけて、岩の階段に尻もちをつく。


「まずは戦闘みたいだな」

「はい!」

 剣を出して、前に出る。配布武器は澄んだ空のような水色の剣だった。

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