113 転生したらモブだった男
俺の目的は2つあった。
1つはキキペペを探し出すこと。
もう1つは新帝についてだ。
クリエイターたちは元いた帝に代わる何かを作り出す気なのだろうか。
「闇の王は闇を使う。光属性の君が頼りだ」
「あぁ、必ず俺が・・・」
周辺の戦士の会話が聞こえてくる。
女神リテは敵の多さを知り、ここで俺に死んでほしかったんだろうな。
「蒼空君、いえ、ハンスさん、本当に、本当に大丈夫ですか・・・? あの、この人たちみんな闇の王の討伐で集まっているらしいのですが」
「蒼空でいいよ、聞いてないだろ。もうエントリーしたし、なるようになるって」
腕を伸ばす。
人が多い場所は、どうも居心地が悪い。
「そ、そうなんですけど、なんか私、緊張してきまして。まだこのゲームに入ったばかりでレベル上げしてなくて・・・でも回復薬だけはたくさん持ってます」
結花がモニターで装備品を確認していた。
「結花が気を張る必要はないって。相手が悪ければすぐに棄権すればいいんだから・・・・」
『次は、『ノアの箱舟』!!!!』
観客の空気が一気に変わる。
「闇の王を倒すのは俺たちだ!!!」
「新帝は俺たちのギルドから出る!!!!」
「この世界を必ず闇の王から守るぞ!」
オオオオォォォ!!!!
「あいつらなんだ?」
歓声の声がひと際大きくなった。結花が画面を切り替える。
「様々な種族がいる巨大ギルド、ノアの箱舟の戦士たちですね。RAID学園からもたくさん所属しています」
「いつの間にそんなギルドができたんだ?」
「多分、他のゲームでチームを組んでいた人たちが中心に集まったんです。SNSも使って拡散したんでしょうね。私はあぁゆうノリは苦手です」
「なるほどな」
ざっと見て、1,000人くらいだろうか。一国の軍みたいになっていた。
「闇の王が居るのに、闇の王の討伐の話をするとはな」
「意外と気づかれないものなんですね」
えまがギルドの名前を呼ぶと、闘技場にいたバトラーが誇らしげな表情をしていた。
ほとんどのバトラーがどこかのギルドに所属しているらしい。
魔法を打ち上げたり、幻獣を召喚して、力を誇示するような者もいた。
おそらく、今俺が死んでも、また闘技場に戻ってくるだろう。
大きな流れは変えられないようだからな。
「・・・この闘技場での戦闘からは逃れられない・・・か」
「え?」
「いや、こっちの話だ。それより、この人数でトーナメントを組むのか?」
「多すぎる気がしますね。1週間はかかりそうですよ」
「1か月はいくだろ。どこかのサーバーがダウンしそうだな」
ギルドの紹介が一通り終わると、えまとりまの間にウサギのような耳を持つ少女に現れた。
本のようなものを持って、マイクを近づけた。
『初めまして。このゲームの審判を務めるここりるです。主催者の皆さまと協議したところ、誠に恐れ入りますが、ここで、ルール変更をさせていただきます』
「ルール変更?」
会場がざわつく。
『本来、トーナメントを組む予定でしたが、予想以上の人数が集まってしまいまして、今回は予選を取り入れさせていただきます』
バン
巨大モニターに地図が表示された。
『今からここにいる皆様を”最果ての地”へ飛ばします。”最果ての地”には様々なフィールドが用意されていて、それぞれの地に居る番人が課題を出します。番人に認められた者だけが、予選通過者となりトーナメントに加わることができます』
地図には9つの地が丸で囲まれていた。
『”最果ての地”でのプレイヤーごとの配信は禁止となっています。ご了承ください』
『課題は番人に任せております。なお、戦闘不能になりましたらすぐにこちらに転移させられます。”最果ての地”での皆様の安全は保障しますのでご安心ください』
えまとりまが深々と頭を下げる。
「質問だ!」
ここりるの前にいた剣士が手を挙げる。
『はい、なんでしょう?』
「転移するフィールドはランダムで選ばれるのか?」
『はい。でも、中にはチーム戦を求める番人もいるでしょう。基本的には、ともにエントリーした者とは離れることはありません』
ここりるが耳をピンとしながら話していた。
「ふぅ・・・よかったです。転移早々棄権しようかと思っていました」
結花がほっと胸を撫でおろす。
慌てたせいか、魔導メガネが傾いていた。
『突然の変更で、まだ質問はあるかと思いますが、だいぶ時間も押していますので、詳細は転移先のフィールドの番人からお聞きください』
『これから先の様子はこちらのモニターに表示します。観客、リスナーの皆さまもどうかお楽しみください』
えまが両手をあげると、頭上から9つのモニターが降りてきた。
『では、お待ちしています』
闘技場の地面が光り出す。
観客席からは割れんばかりの拍手と、応援の声が聞こえていた。
ズン
サアァ・・・・
水の流れる音が聞こえる。目を開けると、噴水の周りに立っていた。
頬にひんやりとした水しぶきがかかる。
「水のフィールドか」
「わ・・・水、水のフィールドだったら、装備品を変えます」
結花がルビーのペンダントを変更していた。
「水か、俺らの得意分野だな」
「そうね。FDDのプレイを思い出すわ」
「武器を揃えるぞ。モニターを表示してくれ」
周りはギルドのパーティーごと転移してきた者ばかりのようだ。
「ありがとう。助かるよ」
「俺、協力する。全て、ギルドの繁栄のため」
オークは素早く錬金した武器人間に渡し、一部のプレイヤーは作戦を立てていた。
「肝心の番人が出てこないな」
「ロード中って感じでしょうか。あ、地図が出ていますよ。森を抜けた先には、廃墟があるようですね。クエスチョンマークがついて、霧のようになっています。ここが課題の場所でしょうか?」
「ねぇねぇ、君たち、ちょっといい?」
いきなり黒髪の少年が話しかけてくる。
「僕は見ての通り、弱小剣士だ。魔導士もかじってる。職業が安定しなくてさ。そうだ。そこの女の子はプレイヤーだよね? モニター借りていい?」
「え・・・あ」
「変なことはしない、僕の自己紹介したくて。こうやって・・・」
手慣れたようにモニターを操作して、自分のステータスを見せてきた。
全体的に低いな。レベル3くらいだろうか。
「このとおり、何の変なところもない剣士だ。クリエイターのメンテからも完全除外されてる。ねぇ、君たちはどこのギルドにも所属してないの?」
「まぁな」
「はい、私たちは無所属で」
「僕、僕、僕も無所属なんだ!」
「?」
食いぎみに言う。
特に強そうな武器は身に着けていなかった。
プレイヤーではないのに、初期配布防具のグライダーブーツを履いている。
「ギルド、入らなかったんですか? 珍しいですね」
「僕、数日前まで靴磨きやってて」
「どうして、このトーナメントに参加したんだ?」
「・・・僕のいた街に紙が回ってきたんだよ。『英雄求む!』って」
そばかすの多い頬を搔いていた。
「モブなりの意地というか・・・挑戦してみたくてさ」
「モブ?」
「あ、そうそう。僕、モブキャラなんだ。転生したらモブキャラになってたってやつだよ。モブなんでプレイヤーと話す機会もないし、あ、このグライダーブーツはプレイヤーが脱ぎ捨てていったのをもらったんだけど」
「転生したのか?」
「うん。ほら、異世界転生ってやつだよ。一応、周囲には内緒でお願いね」
少し周りを気にしながら話を続ける。
「転生前は普通の学生だった。ずっと、ゲームの世界に憧れてたんだ。不慮の事故で死んで転生先選びの時に、ゲームの世界を選んだらモブになってて。ま、特に才能もないから、モブでいいんだけど」
「・・・・・」
「どうして私たちにそんなことを?」
「仲間になりたいと思って。ほら、このフィールド3人以上じゃなきゃ挑めないらしいから」
「!?」
結花のモニターに一つ目のルールが浮かび上がっていた。
~挑戦者は3人以上であること、2人以下の者は即失格とみなす~
「マジか」
「どうして2人以下じゃダメなんでしょうか?」
『それはこれから説明します』
アクアマリンのような瞳を持つ、長い髪の少女が水の上に立っていた。
『私は水のフィールドを任された番人のアリエル。皆さん、新帝を目指す戦士とのこと、よろしくお願いします』
「・・・・・・」
一瞬、静かな殺気のようなものを感じた。
気のせいか?
ざわめきが収まっていく。
静かになると、アリエルが大きな杖を出して説明を始めた。
 




