112 女神リテの目的
「RAID学園の生徒はみんな、このゲームに入っています。他のVRゲームに入っていた生徒も集められて・・・えっと、近未来指定都市TOKYOごと転移したので、ゲームどころじゃなくなってたのですが・・・」
結花が落ち着いてくると、ぽつりぽつりとRAID学園の状況を話していた。
「蒼空君が闇の王になったって聞きました。みんな一気に掌を返したように、闇の王を倒すって・・・他のゲームで蒼空君に助けられた人もいたはずなのに・・・」
「煙たく思ってたんだろうな」
「先生まで、闇の王討伐を目的とするなんて、おかしいです。みんな狂ってます」
「・・・・・」
あまり驚きはしなかった。
RAID学園との関わりは薄かった気がした。
「クリエイターたちはどうしてるんだ?」
「『アラヘルム』にいます。既存キャラのメンテしたり、闘技場を作ったり、プレイヤーが闇の王を倒せるように、いろいろ協力してるみたいです」
「へぇ・・・・」
「本当に大事になってるんです。このゲームにたくさんプレイヤーが入ってきて、近未来指定都市TOKYO以外からも・・・プレイヤーのギルドもどんどん増えて、みんな命懸けのこのゲームで英雄になるって」
「そうか」
魔法陣が一区切りついたところで、後ろに手をついた。
「どうしてお前は、俺側につこうとした? 別にゲームなんて助けたり、助けられたりするのが当たり前だ。そんなに恩を感じる必要なんてないだろう?」
「私、蒼空君に憧れてたんです。えと、もし、RAID学園と蒼空君が敵対することになったら、蒼空君のほうにつきたいって思いまして・・・深い意味は無いんですけど・・・」
「ふうん」
「そうです。モニター・・・」
呟くように言いながら、耳を触ったり、指を動かして、何度かモニターを出そうとしていた。
「やっぱりモニターが出てこないです」
「永久封印の中だからな。ここで、お前にできることは無い。もうすぐ終わるから待ってろ」
「はい・・・すみません。役に立てず」
「いや、こんなの解けるの俺くらいだ」
結花が膝を抱えて、星を眺めていた。
魔法陣は解けかかっていた。女神リテが命懸けで作った封印だ、もっと手こずるとは思ったんだけどな。
別のことを目的としているか・・・。
考えすぎだろうか。
ブオン
「わっ」
「完成した」
途切れていたすべての魔法陣が繋がる。結花が思わず立ち上がった。
「封印を解くぞ」
「はい!」
両手を広げて、目を閉じる。
深く息を吐いて、解除の文字を浮かべた。
はじまりの・・・。
シュンッ
体に感覚が戻ってくる。
眩しい光と騒がしい音が聞こえてきた。
ワアアアァァァァァァァァァ
「ここは・・・・・」
「た・・・大変です。蒼空君・・・」
結花が震えながら駆け寄ってくる。
一瞬で理解した。
『アラヘルム』の闘技場だった。大きさは死ぬ前の闘技場の何倍もあったが・・・。
数台設置された巨大なモニターにはギルドの紹介動画が映されていた。
魔導士、剣士、賢者、アーチャー・・・数えきれないほど、多くの者たちが集まっている。
時折、腕慣らし程度の魔法が上がっているのが見えた。
中には配信しながら、闘技場の様子を映している者もいるようだ。
「闘技場に来てしまいました・・・とりあえず、で、出口を探しましょう。このままだと私たちまでエントリーしなきゃいけなくなります」
「いや、このままバトルにエントリーする」
「えっ・・・」
女神リテ・・・。
永久封印と言っておきながら、最初から俺をここに飛ばすことが目的だったのか。
『ん、君はどこのギルドの冒険者ですか?』
「いや、ギルドには入っていない・・・」
3Dホログラムのロボットが話しかけてきた。
闘技場にいたりまとえまと同じ顔の少年だった。
フードを深々と被る。
『無所属ギルドの冒険者か。珍しいですね』
モニターを出して、エントリーを探しているようだった。
「あの、私たち、まだエントリーしてないんです。その・・・エントリーできたと思ったのですが・・・」
『そうだったんですか。申し訳ございませんでした。実はエントリー者が多すぎて、申請が重くなってるんです』
ロボットがモニターを動かしていた。
『今から受付をしますね。あと10分で締め切りだったので、間に合って良かったですね。少々お待ちください、接続が重いようですね・・・』
「結花・・・お前もエントリーするのか?」
「ここはバトラーしか入れないようです。今から出ようとしたら怪しまれてしまいますし、私もエントリーします」
結花がモニター横に浮かんでいる注意事項の文字を指していた。
「あまり無理はするなよ。強いと思ったらすぐに棄権しろ」
「はい」
びくびくしながら話していた。
「私も顔は隠さないと・・・蒼空君に迷惑がかかってしまうかもしれないので」
指を動かして、魔導メガネを装備する。
あまり変わらないように見えた。
パパパパパパーン
花火のような魔法が打ちあがった。えまとりまが闘技場の中央に現れる。
『皆さま、今日は『アラヘルム』の闘技場にお集りいただき、ありがとうございます。このゲームの審判をさせていただく、AIロボットのりまと・・・』
『えまです。他にも私の兄弟たちが、このトーナメントを円滑に進めるためのサポートをさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします』
闘技場にいたAIロボットたちが深々と頭を下げていた。
モニターのコメント欄が滝のように流れている。
うおおおおおおおおおおおお
観客の歓声が響き渡る。りまの横で、えまが周囲に手を振っていた。
『『イーグルブレスの指輪』、闘技場にはなんと、世界中、及びプレイヤーから10万人ほどのバトラーの皆様にお集りいただいております』
拍手が沸き起こる。
ギルドの者たちが、プレイヤーに声をかけているのが見えた。
「10万・・・そんな・・・どうしてこんな短期間で」
「思った以上か?」
「はい。正直、この世界に来ているプレイヤーは1万人くらいだと思っていたので、こんなに来てるなんて・・・それに、たぶんRAID学園の生徒もこのトーナメントに参加しています。どのくらいかはわからないのですが・・・」
結花がモニターをつけて唖然としていた。
『イーグルブレスの指輪』公式配信には、エントリー総数が106,102人と表示されている。
ジジジジジジ・・・
マイクの電子音が響く。
『改めて今回のトーナメントの目的をお伝えします。ここで選ばれる、3人の英雄には新しい帝の称号が与えられます』
「!?」
顔を上げた。帝だと・・・?
『新帝には、賞金のほか、闇の王を倒すための力が与えられます。力の詳細はもちろん、ここではお伝え出来ませんが、必ずや新しい世界を築くのに役に立つでしょう』
『『イーグルブレスの指輪』の闇の王は復活してしまいましたが、これから力を合わせて、平和な世界を築き上げるのです。お集まりいただいた勇敢な戦士の皆さま、どうか、力をお貸しください』
オオオオオオォォォォ
『知力、体力、仲間との絆、持てるすべてを動員し・・・』
『是非、このトーナメントを勝ち抜いていってください』
腕を組んで、周囲を眺める。
茶番だな。
闘技場に居る者の士気が高まるのが伝わってきた。
「あ・・・・・・・」
「結花、大丈夫か?」
「え・・・私はだ、大丈夫です。でも、蒼空君、こんなことになってこ、怖くないんですか? ここにいる人たち、闇の王討伐で集まってきたんですよ」
「まぁ、俺、強いからな」
「え・・・で・・でも・・・・」
結花が不安そうに声を震わせていた。結花を巻き込むつもりは無かったんだけどな。
周囲を見渡す。俺が通った時間軸とはだいぶ違うようだな。
深雪はパパとかいう奴らと、この闘技場のどこかに居ることは間違いない。勝ち上がるだろうな。
トーナメントで当たることは、避けられないのか。
ポケットから手袋を出してはめる。
りまとえまが巨大なモニターを操作して、集まった有名なギルドの紹介をしていた。




