第65話 次の標的はお前だ!狙われしメリクリ
シーカーのホームへと戻ったが、シーカーの体力が回復する事はなかった。ずっと息が荒いままソファーに横たわっていた。アルが心配そうに見つめていた。
「シーカー……大丈夫?」
「だ、大丈夫だ……でも、何かリアルな感じで疲れが身体に来ているな……普通はこんな事ないんだがな」
Syoはシーカーを見ながらもそのディスクをノートパソコンで調べていた。
「……これは」
「何かあったの?」
「うん、これを見て。何かの動画のようだ」
二人の前に持ってきて、とある映像を見せてきた。
3……2……1とカウントダウンが始まり、動画が始まった。暗い画面の中に一人立っているのは、笑顔で後ろに手を組んでいる凰姫であった。初めてみる凰姫の姿に全員が困惑した。
「だ、誰だこいつ?」
『私を見て誰だこいつ?って思った貴方ぁ!私は骸帝様直属の側近の一人凰姫ちゃんです!!」
「凰姫……骸帝……メリクリが言っていた奴のことか」
『そうそう骸帝って奴の側近ですよ〜!』
Syoの反応一つ一つに反応する凰姫がちょっと不気味であり、超能力的なものを感じた。だが凰姫はそのまま話を続けた。
「何で俺の言葉に反応すんだよ、不気味だな……」
『貴方達は私の試作品Aを破壊しちゃってちょっと怒っちゃったけど、次の刻印を持つ彼も危ないんじゃないのかな?』
「……刻印を持つ彼……まさか!」
三人が過った刻印を持つ彼。それはただ一人……メリクリであった。すぐにSyoが連絡を入れようとするが、連絡は送れない状態になっていた。
『じゃあ、貴方達のご武運を祈っているわよ。因みにこのディスクは再生終了後1秒か2秒または10秒程度で破壊されま〜す!じゃあね〜』
凰姫は手を振りながら投げキッスして、ディスクの再生は終了した。
「ちょっ!ま──」
まだ色々と聞きたい事があるのに、勝手に終わっていく動画にSyoはディスクを取り出そうとするが、ディスクは半分に割れてしまった。
「くっ……」
シーカーも無理に身体を起こして、状況を把握しようとした。
「つまり、その凰姫って奴も敵って訳か……」
「あぁそのようだが、全貌はまだ遠くにあるって事だな」
「……こりゃまた厄介な事だな……」
「メリクリの奴は今どこに……」
*
メリクリはシーカーの家とは違う場所にあるヘイカ海で一人ボートに乗っていた。麦わら帽子を被り、白いシャツに短パンを履いて晴天の中、呑気に釣りをしていた。
バケツの中には10cmも満たない小さな魚がいっぱい入っていた。それを見て本人は満足気な顔をしていた。釣った魚を見て、魚のデータを調べ初めてこれまでに釣った種類で大きさを調べていた。
「いっぱい釣れたけど、記録更新とは行かないな。みんな海に戻っていいよ」
バケツを海へと優しくひっくり返し、魚達を全て海へと返した。
満足したメリクリはボートを沖へと戻して、のんびりと海を眺めた。青く綺麗な海に一人酔いしれていた。
でも、頭の中には骸帝の事が過っていた。本当はこんなのんびりしている暇はない。敵の動きをもっと知りたい。でも、現状で敵の動きを知る方法は全くない。これもメリクリならではのリラックスだ。
すると、メリクリの目が突如鋭く細くなり、口を開いた。
「……誰だい、僕のクールタイムを邪魔するのは」
「ケケケ……音もなく忍び寄ったのに、オラの気配を感じるとは。流石は刻印の持ち主だ」
真後ろに独特な高めの声の喋り方をする誰かがいるのは分かっている。それも何か鋭利な物を突きつけられている。でも、メリクリは落ち着いた様子で対応した。
「君の名前は」
「オラはゲールだ」
「ふーん、ざっと感じたところ君は最近聞くプレイヤー狩りって奴だね」
少し前にシーカーから聞いた言葉を思い出していた。プレイヤーを狩り、データを消してくるプレイヤーが存在すると、それにプレイヤーが現れた事を連絡を送ろうとしたが、シャットダウンされていた。
「よくご存知で……話が早く進んでオラは嬉しいぜ」
「で、君の要求は?」
「オラの狙いはお前の刻印だ!」
いきなり背中に突きつけていた鋭利な爪の武器クローをメリクリへと突き刺しにきた。冷静な表情のメリクリは攻撃を予測していた為、当たる直前に、軽く背中を横に動かして攻撃を回避して、ゲールの方に振り向きながら手を前に出した。氷の刻印も発動し、徐々に手の先から氷の剣を形成されて、ゲールの方を向く時には剣が作られており、氷の剣で攻撃を仕掛けた。
ゲールは咄嗟に両手に装備しているクローで攻撃を受け止めて、後方へと後退した。そしてメリクリの手の甲の氷のマークを見て、ニヤリと笑った。
「ケケ……それが氷の刻印か……」
「ふん」
ゲールの姿を見た。細く弱々しい身体で両目にはスコープを装着しており、迷彩服が特徴で、猫背な体勢でこちらをいやらしく睨みつけていた。
メリクリはゲールの行動を予測しながら左手に意識を持ち、右手で持っている剣で構えた。気配を感じ取れたとは言え、音もなく背後に回ってきた。つまり相手もかなりのやり手だと、感じ取った。
「この力を試させてもらうぜ……はぁ!!」
声を上げるとゲールはその場から突如消滅した。
メリクリはすぐさま右左上下と全方向に目をやり、敵の位置を確認した。更に耳も済ませて、敵の動きを察知しようとする。
音は聞こえない、地面の砂が靡いている様子もない。更には気配も感じない。
何か危険な予感を感じたメリクリは空いた左手に力を入れて、腕の先まで氷の状態に変化させた。
そしてメリクリは咄嗟に凍らせた左手を後ろへと振り回した。
「はぁ!!」
振り回すと背後から飛びかかってきたゲールの顔面に当たり、身体が宙に浮いた。メリクリはすかさず氷の剣を振り、ゲールの胴体へと一撃喰らわし、海の中へと落ちていった。
メリクリは軽く見下すように微笑みながら呼びかけた。
「ごめんね、結構隙だらけだったもんでね」
海から出てきたゲールの胴体に赤い横線が入っているが、致命傷ではなかった。だが、頰は赤く腫れていた。
「ぐっ……何故オラの場所が……」
「前方や右左は僕の視界に映り、不意打ちで攻撃仕掛けても防御される。上からだと一見攻撃には向いているようだが、影で空にいる事は丸わかりとなり、無防備となり攻撃を受ける。地面からとも言えるが、そんな事をしたら潜ったのがモロバレとなる。なら残ったのは単調だが、奇襲には丁度いい背後となる。芸がない奴は困るよほんと。これが骸帝の手先って呆れるね。話にならないな」
「な、何ぃ〜!!骸帝様の悪口を言いやがって!!」
顔を赤くして怒るゲールを見て、メリクリはニヤリと笑った。
「やっぱり骸帝関連の奴だったか……」
「え?しまっ──」
「単純な奴で本当に助かったよ。ありがとね」
ゲールはうっかり言ってしまい、思わず自分の口をクローで隠した。
メリクリはゲール相手にカマをかけたのだ。普通の奴は骸帝と言ったところで反応はしない。でも骸帝の言葉にゲールは反応した。
「オラをさっきからバカにしやがって……覚悟しろよ!てんめぇぇぇ!!」
ゲールの怒りの言葉を聞く耳を持たずに、メリクリは氷の剣をゲールへと突きつけた。
「さぁて……骸帝の事を少しでも吐いてもらおうか」
「ぐぬぬぬ……」




