第二十話 飲料水の改善
リーゼロッテへのアキラの相談はまだ続いている。
飲料水に関する改善である。
過酷な条件を課せられた操縦士たちのストレスを、少しでも緩和するため、アキラは心を砕いているのだ。
「ミルク類は日持ちしないからやめておいたほうがいいわね。万が一腐ったら目も当てられないわ」
「そうだろうなあ」
「……で、保存性を上げて味をよくするには、いくつかの薬品を組み合わせるという手があるわ」
「うん、それを聞きたかった」
「まずは砂糖。砂糖も立派な薬品よ。それに、砂糖の100分の1ほどの塩ね」
砂糖の甘さを際立たせると同時に、塩分の補給にも役立つわけだ。
「あとは、酸味ね」
「濃縮したレモン汁とかかな?」
「それは結構いけると思うわ」
『《デハイドレーション》』を果汁に使うことで濃縮ができる。
水分量を10パーセントくらいまで減らせれば、かなり日持ちするはずなのだ。
蜂蜜も持っていければ、優秀な飲料水ができる。
「仮に、来週必要になるならその線か……」
ぐずぐずしていると、どんどん日が短くなっていく。
もう秋分を過ぎ、昼と夜の長さが逆転しており、日が過ぎれば過ぎるほど行動可能時間が短くなる。
が、一方で、中間着陸地点を確保できたため、行動範囲は確実に広がった。
* * *
「そうそう、アキラ、そんな計画に朗報だ」
ハルトヴィヒが嬉しそうに話しだした。
「『フジ改2』が完成したんだよ」
「えっ?」
「居残りだったオットーが手掛けてくれていたんだが、今朝完成したんだそうだ」
「で、性能は?」
「なんとか8000メートルを達成しているようだ」
「それはすごい」
フジ改2 双発単葉機
乗員 :1名(操縦士)
定員 :3名(乗客)
全長 :10.1メートル
全幅(翼幅):11.2メートル
全高 :4.2メートル
空虚重量 :2550キログラム
最大離陸重量:3000キログラム(推定)
エンジン :ハルト式8段回転盤エンジンx2 (ハルト式ロケット推進器4基)
巡航速度 :時速300キロメートル
最高速度 :時速500キロメートル
上昇限度 :およそ8000メートル
航続距離 :魔力が尽きない限り飛べる
最大積載量 : ー
となっている。
定員数を4名から3名に減らし、推進器をハルト式ロケット推進器2基から4基に増やした。
これにより、上昇限度が7000メートルから8000メートルに増えたというのである。
「これなら『Weihe』に付いてこられるぞ」
「つまり……」
「3機体制で飛べる」
「ということは……」
「中間着陸時の物資運搬ができるということだ」
『垂直離着陸機(VTOL)』ではないので着陸はできないが、最初の中間着陸地点まで物資を運ぶことは可能だ。
「落下傘を付けた箱を投下することになるだろうが……」
「それはちょっと難しそうだな」
「まあ失敗しても構わないようなもの……水とか乾パンとか……なら構わないだろう」
「うまく投下できればよし、失敗しても計画は破綻しない、ということか」
「そういうことだな」
「『Weihe』をもう1機作るのは?」
「うーん……それが一番なんだよな。やってはいるけど、間に合いそうにない」
「そうか……」
そうそう何もかもうまくいくわけではないな、とその点はアキラもあきらめた。
が、年内に探検飛行が実現するという魅力には抗えない。
「そのあたりは近衛騎士団長閣下がうまく計画を立ててくれるだろう」
「そう期待するしかないな」
計画次第で、日が短くなっても探検飛行は可能なはず……である。
「あとは、今回の偵察飛行でルートがはっきりしたから、飛行速度を上げられるしな」
「ああ、それは大きいな」
「僕としても『Weihe』の最高速度をあと20パーセントくらい上げたいと思っているんだが……」
今の『Weihe』は巡航速度時速250キロ、最大速度時速360キロ。
巡航速度を時速300キロ、最大速度を時速400キロに上げたい、とハルトヴィヒは言った。
「できればもっと上げたいけどな、欲を言ったらキリがないし」
「それはそうだ」
前回は、地図を作成しながらだったため、速度は時速150キロから200キロくらいだった。
これが時速300キロになれば、翔破できる距離は1.5倍から2倍と、ぐっと伸びるわけだ。
「行きに2日、帰りに2日。向こうに滞在するにしても最大で3日、計1週間で帰ってきたいものだな」
「そうすると、帰りの飲み物が問題ね。粉末茶、ハチミツ水、砂糖水はいいとしても果汁か……濃縮はいいとして、粉末か……うーん……」
滞在先では水しか得られないという前提で考えている。
すぐには思いつかないが、研究はしてみる、とリーゼロッテは言った。
「助かるよ、リーゼ」
「あまり期待しないでちょうだいね」
とリーゼロッテは言うが、アキラとしては期待せざるをえない。
そこで、1つ提案を行う。
「……一応『フリーズドライ』という製法を聞いたことはあるんだが、具体的なやり方はわからないんだ」
「言葉からすると、凍らせて乾かすのよね?」
「うん……だけど、凍ったものを乾かすってのがどうもピンとこない」
「そうね……」
考え込むリーゼロッテ。
「それについても、研究してみるわ」
「頼むよ」
こうして、飲料水に関する改善は、リーゼロッテに委ねられたのであった。
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次回更新は2026年5月9日(土)10:00の予定です。




