70話 サクリへ降り立った悪魔
よろしくお願いします。
「あれは町を創ろうと私が駆けずり回っていた、数十年前に遡ります。」
フィルスに背を向け昔を思い出すように目を細め窓の外を眺める町長。月明かりに照らされたその儚い姿は本当の伽話に出てくるようで幻想的なまでに美しかった.....
「あの日も暑かった。帝都付近では珍しい猛暑が続いておりました。まぁ、それは不死鳥フェニックスが復活した時でしたからな。いか仕方のないことと言えばそうなのですが.....」
あの日も暑かった。照りつける太陽が痛いほど肌に襲いかかり、汗をかいても直ぐに蒸発して水分を大量に奪われた。
帝都はそんな暑さに苦しめられ、王都はその頃寒波に襲われていたという。
町長であるサクリ・リザースは資金援助を求め商業ギルド、知り合いの貴族、商売で儲けている者達へ頭を下げに走り回っていた。まだ40代後半ほどだというのに白髪を生やし、疲労が目に見えて分かるほどであった。
「ふむ.....サクリ殿はどのような町にしようとお考えで?」
「自然豊かで、眩いほどに綺麗な街並みを造りたいと思っております!」
力説。そう言わんばかりに力の籠った言葉で説明をする。だが、誰もがこれを聞くとため息を吐きこう言う....「そんな夢物語.....もういい歳なのですから.....」と。そのせいもあり資金援助はほぼゼロに近かった。貴族は賭けより護り。保身の高い方を選ぶ.....ここでもし資金援助などしようものなら心中も良いところだ。
「そ、そこをなんとか!」
「ダメダメ!商売してる身からすれば、町は美しさより便利さなんだ。美しい街並みなんてものは二の次。そんな夢物語を語るのは他所にしてくれ!」
誰もがそう答え、話をろくに聞かず追い返した。途方にくれながら帰る日々がしばらくは続いた.....ある日、不死鳥フェニックスが封印されたと聞いた。何気ない噂ではあったが暑さが無くなったのは好ましいことだ。だが、急激な温度変化に誰もが体を壊した。風邪、熱、吐き気、下痢....ありとあらゆる症状が出て誰もが苦しんだ。
ふと....本当にふと、資金援助を頼んだ貴族宅を訪れた。するとその貴族は病に伏せ苦しんでいた。
「.....また君かね。すまないが今は見ての通りだ.....何も出来やしないよ.....」
「お身体のほどお察し申し上げます.....」
ほんの冗談でついた嘘.....だが、病に伏せる者にとっては聞き捨てならない言葉であった。
「っ!?わ、私は死ぬのか?!だ、誰から聞いたのだ?!私はそ、そんなことき、きき、聞いてないぞ??」
凄い慌てぶりに少し驚いたが、その頃にはサクリの心に闇が芽生えた.....
「えぇ、お辛いとは思います.....ですが、貴方を不安にさせまいと主治医が口止めをしていたそうです。」
「そ、そんな.....」
このままでは何時かは嘘だとバレてしまう.....サクリはお見舞いにと買ってきた林檎に似たアーリプという果物を持ってきていたのを思いだし、貴族にそれを見せた。
「まぁ、私はこうして死ぬと分かっている貴方にそれを伝えた.....何故だか分かりますか?」
「.....た、助かるのか?!き、君なら助けられるのか??!」
嘘だ!心が叫ぶ.....だが、首は縦に動き相手に希望を持たせる.....だが、助かるのは本当だ。ただの風邪なのだから.....そんなことも知らない貴族は希望に満ちた顔をした。だが、ここからが悪魔の所業であった.....
「ですが、困りましたねぇ~.....これは奇跡の果実と呼ばれるほどの回復力を持ち、どんな病でも治せはするのですが.....今、手持ちがこれだけで、しかもかなり高価.....易々と渡すわけには.....」
「そ、それはそうだな.....わ、分かった!君の町作り協力させてもらう!資金援助だってする!」
その言葉を待っていた.....人とは実に単純だ。自分の命を惜しいと思えば思うほど死を前にしたとき何も考えられなくなる。サクリはその言葉を聞くとただのアーリプを貴族に手渡し、口封じの意味を込めてこう言った.....
「でも、主治医や家族の方々を責めないで下さいね。貴方が助からないことに泣いていたのを私は見ましたし、元気な貴方を見れればそれで安心すると思います。それにこの果実はあまり知られてはならない果実.....他言無用でお願いしますね。」
「あぁ、本当に助かった.....資金援助は必ずさせてもらうよ。」
それを聞いたサクリは綺麗な微笑みを浮かべ頭を下げた。後に、サクリへの資金援助が増えたのは言うまでもない.....
そして数年後.....先ずは城壁を造り安全確保をした。この時には数々の土魔法を持つ職人を集めて数週間というスピードで終わらせた。ここでまたサクリの脳裏に新たな悪魔が降り立ったのであった.....
ありがとうございました。
なんと!70話突破です!早いですね~・・・・・・これも読者の方々のお陰です!ありがとうございました!そして、これからもよろしくお願い致します!




