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悪魔憑きのクエスト

 俺はルカと別れて一度ログアウトした。石井さんからメールが来ていたので、大学近くの食堂でランチ。午後の講義が始まるまでは、ゆったりと過ごす事にした。

「鍋島くん、落ち着いたね」

「え、そ、そう?」

「ずっと必死になってたのが、余裕ができたみたい。何か進展があったの?」

「進展というか……」

 今回のサーバー停止が選挙ではなく、年齢制限の倫理審査が絡んでそうだと言う事と、海外サーバーなら今もログインしてゲームできる事を伝えた。

「そうなんだ。海外サーバーかぁ、英語苦手なんだよね」

 日本の教育で習得する英語は、あくまで文法であって日常会話とはかけ離れているという。

 ゲーム内で会話するには、やはりハードルが高いのが現状だ。

 文字チャットなら単語の羅列でも何となく意思の疎通はできるが、ヒアリングが入ってくると難易度は上がる。

「英会話もゲームと捉えられたら変わるんだろうか……」

「どうなんでしょうね。受験英語と就職してから必要な英語が違うのが面倒よね。最初から使える英語教えてくれたらいいのに」

 それは国語で漫才を教えるようなもので、色々と難しいのだろう。


「それにしても……その選挙云々の話は、例の彼女かしら?」

「え?」

「なんだか嬉しそうに話してるからさ」

「え、そうかな……彼女と話すのは怖いんだけど」

 内心を見透かされて、行動を誘導されて、それに気づかない。それを後で知らされて、さらなる恐怖を抱かされる。

「そっか、怖いのがいいんだ」

「違うよ、そんなんじゃ、ないよ?」

 その後も石井さんによる追求に晒されるはめになった。早いうちに二人を会わせた方がいいのだろうか。そうすれば誤解を抱くこともないだろう。


 紹司と合流したら、彼も早速ALFへとログインしたようだった。

「とりあえずゲームができるのは一安心だな。そのCEROが原因って話が本当なら、時間が解決してくれそうだし」

「法案が成立したとしても、実際の施行には一年くらい掛かるのが普通だって」

「それもそうか。民間が対応するまで利益を上げれないとなると問題だもんな」

 一気に楽観的な雰囲気が広がる。ただルカはもう少し危惧していた。

「でもこうした法案が一つ通ると、次々に規制が出来て窮屈になるかもって」

「お役所は前例主義とか言うもんなぁ。一つ道ができたら、そこを進むというか」

「ルカはそれを許していいのかって聞いてきたけど」

「それこそ俺達が動いてもどうにもならないだろう」

「だよなぁ。選挙なんて何万人の意思が動くんだし、俺ら一人に何ができると」

「多数の意見に流されるしかないよな」

 本当にそうか?

 ルカはそんな感じで聞いていたが、俺にはどうしようもなく感じられていた。



 俺は俺のやれる事をする。

 ひとまずは『悪魔憑き』の習得だ。クエストをクリアすると獲得できるそうなので、攻略サイトで調べてみる。

 そういえば錬金術の爆発物系レシピも、クエスト報酬の一環だったんだなと改めた気づいた。

 後続のために公開したいところだが、あの錬金術師が有名になると、我が家の前が賑やかになってしまう。

 自分の便利さを優先させたけど、もっと静かに過ごせる場所を探すべきだろうか。


 思考が脱線するのを、攻略ページを見ることで引き戻す。悪魔憑きを習得する為のクエストは、森の奥にある洞窟で行われる集会(サバト)に参加するものみたいだ。

 何だかおどろおどろしい雰囲気だが、そこまで残虐な事が行われる訳でもないらしい。

 キャンプファイヤーを囲んで歌い、踊ると書いてあるのを見ると、それはそれでどうなのかと不安になる。

「問題はクエストの進行が英語になるのかどうかか」

 ルカの説明だと現行は3Dモデルは共用で、見えてはまずい部分に視覚フィルターをかけてごまかしている状態らしい。実際の接触には、ハラスメント表示で双方に同意が必要となっている。

 どのように対策されるにしても、多少の時間はかかるので日本サーバーが再開される時期は読めない。

「ダメ元で挑戦してから悩むか」


「当然、私も連れて行ってくれるわよね?」

 講義が終わり、俺が調べモノをしていたのを見ていた石井さんに聞かれた。

「そ、それは構わないけど、悪魔の儀式だよ?」

「それはちょっと怖いけど、ケイとなら大丈夫かなって」

 そういってくれるのは嬉しいけど、本当にいいのだろうか。断れる雰囲気はないので、どうしようもないか。


 俺達は米国サーバーの自宅のある場所で待ち合わせて合流する。米国サーバーでは、スラムにもチラホラとプレイヤーハウスが建っている。

 定期的なディフェンスゲームも楽しんでいるプレイヤーが一定数いるらしい。

 中には高い塀に、物見櫓が建ち、固定式の弩や投石器が設置されているところまであった。

 グレードがいくつくらいでここまでの装備が必要になるのかは気になるところだった。

「おまたせ」

 一週間以上ぶりに見るセイラの姿。思っていた以上に、石井さんの面影が感じられた。俺達以外にもリアルが割れる可能性がありそうだ。

「でも今からキャラを作り変えるのもね……」

 当初の現実での友達を作るという目標は達成されている。現在の姿に固執する気は無いようだ。

 ただ培ってきたキャラクターとしての経験は失いたくはないだろう。

「何か整形し直す方法があるのかもね。今度調べてみよう」

「そうね」


 鬱蒼と木々の生い茂る深い森の中、ミニマップで周囲や方向を確認できるから良いものの、本当にこんな森に入っていたら脱出できないんじゃないかと思う。

 小高い丘になった場所に、クエストのある洞窟があった。目的の場所かを確認する前に、その人物の登場により正解だった事を知る。

「ふむ、女連れで来るとは、わかってるのか、わかってないのか判断つかないな」

 小柄な黒ローブがそこでは待ちうけていた。

「はじめまして、ルカさん」

 子供の姿をしていると伝えてはあったが、実際に見ると戸惑いはあるだろう。ただそのニヤリと笑う顔には、あどけなさなど微塵も感じず、邪悪な存在だと肌で感じさせられる。

「さて、八割わかってないと思うから教えるが、米国サーバーの集会(サバト)は日本のモノよりハードだよ」

「ハード?」

「日本の場合は、歌や踊りでトランス状態にするディスコのようなものだが、こっちではもっと性的な興奮をベースにしている」

「ふぁ!?」

「女キャラが一人で参加するのはかなりアブナイ。私が側に居れば、未成年保護システムに守られるから襲われる事は無いわけだが……」

 米国では日本よりも未成年への保護が厚い。児童ポルノなどへの取り締まりが厳しいのだ。そのためALFでも外見が幼いキャラクターには、触れることはおろか近づくのもある程度の制限がある。

 試しにルカに手を伸ばしてみると、見えない障壁で囲われたようになっていた。

「私が許可を出せば、手を繋ぐくらいはできるようになって、その状態なら保護の範囲が接触者にまで広がる。周囲から襲われる心配はなくなる」

「なる……ほど」

 つまりルカは俺がこのクエストを受けることを見越したうえで、ここで待っていてくれたのか。底知れぬ不気味さを持ちながらも、心根には優しさを感じる。ただこちらが甘えた素振りを見せようものなら、牙を剥くのだろう。

「さて、どうするかな。オススメは、日本サーバー再開まで我慢する事だな。次にケイ一人でクエを進行する、私とケイとでクエを進める、3人でクエを進める……クエを無事に終わらせたいなら、私と二人をオススメだな」

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