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魔霧の森の魔女〜オバサンに純愛や世界の救済も無理です!〜  作者: 七瀬美織
第二章 疑雲猜霧のファルザルク王国
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第三十六話 己の身の内に潜むもの②


 香澄は世界を救う『鍵』だという。


 香澄は、世界の崩壊を救わなければならない役目を負っているのだと言われて、自覚も出来ないまま、責任だけ重くのしかかっている様に感じていた。


 元々そういう不安定な世界なのだったのだから、もしも自分の所為で、世界が終わったとしても、仕方ないと思えるのだろうか?

 香澄は常に自問自答を繰り返している。基本的に面倒くさい事は後回し派だというのに、一刻も早く世界を救う算段を立てなければならない。抱えたストレスは、皓輝の分身の小鳥皓輝にだって軽減しきれないだろう。


「そんな世界で……竜族は、わたしをどうしたいのでしょう?」

「そうねぇ……。竜族は、変わらず香澄を引き渡すように要求しているわ。竜族の使者に、香澄がアレクシリスの婚約者になった事を告げたけど、特段の反応はないないわ。竜騎士の半数以上が行方不明になっている事を使者に抗議しても、要領を得ないのよ」

「竜族の使者は、蘇芳さん……は竜族の長だから黄檗さんですか?」


 香澄を崇拝気味な黄檗ならば、少しは話ができるかもしれないと、一縷の望みに賭けてみた。


「それが、初めて使者として来た竜族で、何も分かっていない者だと思うわ」

「竜族に何かあったのは確実だ。メイラビアが探りを入れているが、行方不明になった竜騎士全員が、キプトの町に居るのが確認出来ている。ただ、どうも蘇芳ほか一部の竜族が、町から姿を消しているらしい……」


 香澄は、遊帆とマリシリスティアの会話を聞いて、真っ先に彼の名前の上がらないのが気になった。


藍白(あいじろ)は、今、どうしているのでしょうか?」


 マリシリスティアと遊帆は顔を見合わせて考え込んでしまった。


 香澄は、自分が知り得た事を簡潔に説明した。亜希子と珊瑚、アレクシリスから藍白は『成人の儀』で白竜王に乗り移られてしまったようだと聞いている。


 そして、藍白は事前に対策していたらしいということだ。


「藍白が余計な行動をしたせいで、事態が悪化してるわね。ただ、藍白も『異界の悪魔族』が絡んでいるから焦ったのでしょうけど……」

「竜族のキプトの町を襲った皓輝じゃない方の『黒い霧』は、正確には『異界の悪魔族』ではなく、従い使役される者達だそうです。藍白以外は、互角に渡り合うのが精一杯だった感じなのに……」


 マリシリスティアは、両手でこめかみを揉みながら唸った。美女はどんな姿でも美女だなと、香澄が感心していると、唸っていたマリシリスティアは男前にザッと立ち上がった。


「そっか、だから藍白は『成人の儀』を受けて完全に力を使えるように藍白は成りたかったのね。香澄を守る為に……」

「そんな……賭けみたいな真似をしなくても……」

「白竜王か……。竜族のジレンマだな。竜族の成長を安定させるのに、古代竜族の魔道具の洗礼は必要だ。その起動に古代竜族の白竜王の竜核が必要不可欠だ。それが、白竜王の復活に結びつくとしても、受け入れて続いていた。白竜王の復活は、竜族にとって喜ばしい事、……慶事だからな」


 遊帆の解説に香澄は信じられない気持ちで聞き返す。


「それは、 肉体を乗っ取られる運命の白竜にとっては災難でしかないですよね。白竜に生まれた時から決まった事? そんな事を言われたって、納得出来るはずないです。藍白は、それを知っていて、対策もしていたのですよね。だから、藍白は消えたりしていませんよね!」

「香澄ちゃん、振った相手に対して親身になりすぎるとお互い傷付いちゃうよ?」


 香澄は、そんな風に茶化されるのは心外だった。


「愛だの恋だのは、正真正銘、本物の若者にお任せします。藍白の事は、やんちゃな弟みたいに思っています。だから、助けたいんです」

「うわぁ……。それ、逆に藍白が可哀想かも……」

「えっ? そうですか?」

「女って残酷だよな……」

「遊帆が単純なだけじゃないの?」

「話が脱線してきてますよ。香澄さんと共有しなければならない、必要な話をして下さい」


 何故か、三人の会話はすぐに脱線してしまう。レンドグレイルが、一番冷静に会話のかじ取り役をしている。


「そうね。二日後の面談の注意点を話しておかないとダメだったわ。香澄、宰相のとウインズワース侯爵は、ファルザルク王族派なの。問題は、ジオヘルマン伯爵。伯爵は、三侯爵の内のフィルゼス侯爵派の貴族で、何かと女王陛下の政治を引っ掻き回すのが役目なの。香澄を『落ち人』の慣例と違えて『管理小屋』から出した件も含めて、王弟の婚約者に据えた件もね。あ、香澄が『異界の悪魔族』の眷属と契約した件は内密にしてあるから、それにもしも言及してきても無視してね」

「わかりました。他には何かありますか?」

「あとは、『落ち人』だから分からないで通してしまった方がいい」

「わかりました」


 まだ、この世界にやって来て日の浅い今だからこそ、知らないから許される事もある。香澄が事情通になって、ジオヘルマン伯爵に余計な警戒心を持たれても困った事態になりかねないということだ。


「政治の世界は、よくわかりません。でも、政治でも商売でも、交渉の裏で小さな足の引っ張り合いがある事は、当たり前だと理解しています」


 香澄は、素人に毛が生えた程度の商売人だが、様々な商談に関わってきた。その経験は香澄の財産になり、自信にもなっている。


 まだまだ、問題は山積している。香澄は、この先の展開を考えて長い溜息を吐いていた。



お読みいただき、ありがとうございます。

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