↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/81

第二十六話 飯田亜希子

 


 皓輝は、外に出ると、他の事には目もくれず、一目散に走っている。行く手を阻む少年達を、皓輝は蹴散らしているらしい。香澄を腕に抱いたままの攻撃は、青年の姿になっても苦戦を強いられているようだ。


 香澄は、ぎゅっと目を閉じている。少年達は、禍々しい雰囲気と無表情な顔をしていた。異界の悪魔族などという、謎生物 …… 生物なのかもよくわからない存在だ。しかも、基本的には少年皓輝とそっくりなのだから、始末が悪い。見た目は、青年皓輝が少年皓輝軍団と争いっているのは、香澄の精神に極めて悪い光景だった。


 突然、皓輝が立ち止まって、チリチリとした殺気を放ちはじめた。


「香澄ちゃん …… 」

「藍白? 無事なの?」


 香澄は、はっとして、声がした方に視線を向けた。すると、藍白が両方の手や腰に、黒い少年達を貼り付けてぼんやりと立っていた。


「えっ? どうして、仲良くしてるの?」


 香澄は、我ながらバカな質問だと思った。しかし、藍白は香澄の質問に、答えてはくれなかった。


「香澄ちゃんを離せ、皓輝! 香澄ちゃんは、僕の番になる女性だ。触るな、離れろ!」


 いつもキラキラと輝きながら香澄を捉える藍白の金色の瞳は、ドロリと濁ってさえ見える。多分、正気ではないのだろう。さっきまでの、蘇芳と黄蘗が変だったように、藍白も何かされているのだろう。


 藍白の姿が、ゆらりと揺れて白い竜の姿が現れた。黒い霧で薄暗い空の下で、淡く輝く白い巨体が、翼を広げて街へと続く道を完全に塞いだ。


 ほぼ同時に、背後の藍白の家が、轟音と共に崩れた。瓦礫の中から二体の竜が現れる。赤い竜が蘇芳で、明るい黄土色の竜が黄蘗なのだろう。竜の姿になった蘇芳達の周りを、黒い少年達が、まるで虫の様な動きで取り付いていき、ドロリと溶けて黒い物質に変わった。黒く粘度の高い物資がは、二つの竜体の動きを邪魔して絡みついていた。

 上空の黒い霧の塊が、地上に降りてきて渦巻くと、新たな黒い少年達が現れて、どんどん増殖していくのだった。


『藍白! 正気に戻れ!』

『香澄様、街の中心へお逃げ下さい!』

「あら、まだ捕まらないの?」


 蘇芳と黄檗に続いて聞こえたのは、甘く艶めいた女性の声だった。


 香澄は、皓輝の肩越しに振り返った。黒い霧の闇の中でも、袴の緋色が鮮やかな巫女装束の美女がいた。長い黒髪を前髪から後ろにキリリと一つに結び、切れ長の眼元が印象的な美しい日本女性だ。


「初めまして。川端香澄さん。わたしは、『死者の王』、飯田《いいだ》亜希子《あきこ》です。せっかく、穏便にご招待しようとしたのに、紅茶はお気に召さなかったかしら?」


 巫女装束の美女は、にっこり微笑み自己紹介をした。香澄は、『亜希子』と言う名前に聞き覚えがあった。


『亜希子 …… 君は何を言っているんだ? まさか、君が異界の悪魔族の影響を受けるなんて …… 』


 蘇芳の声は、動揺もあらわに掠れて震えていた。


『蘇芳様、我々も奴等の精神侵食を受けましたが、簡単なきっかけで戻れました。亜希子様と藍白も、きっと戻せます!』

『黄蘗の言う通りですね。黄蘗、藍白から香澄様を守りなさい。亜希子は私が相手をします!』


 どうやら、彼女も正気ではないらしい。香澄と皓輝は、白竜の巨体に行く手を阻まれている。後ろの蘇芳達と合流するにも、『亜希子』と黒い少年達が大量動員されていて逃げ道は少なかった。


「皓輝、逃げよう! 森の中へ!」

『はい。香澄様、しばらく我慢して下さい』

「えっ? ハグッ!!」


 皓輝は、香澄をしっかり抱え直した。次の瞬間、香澄は風圧と重圧感で息が詰まった。目も開いていられなくなり、ただ必死に皓輝にしがみついていた。


 藍白の叫びとか、風の音に混じり、何かが壊れたり打ち付けられる音や地響きがしている。

 皓輝の下半身が、黒い霧状になったかと思うと、香澄の視界は真っ暗になった。皓輝は、黒い霧の塊になって一直線に魔霧の森に向かっていき、森の木立の間に飛び込んでいった。その後ろを、黒い霧の少年達がぞろぞろと追って来る。少年達は、足を全く動かさず、宙に浮いた状態で身体が移動していく様は不気味で、香澄は悲鳴を上げそうになるが、必死に口元を押さえて息をころした。


 実は、香澄と皓輝は、まだ魔霧の森には入っていない。森の手間の低い茂みの中に身を潜めている。皓輝は、香澄を抱き締めて気配を消していた。


『(香澄様、魔霧の森の中は、安全とは言えません。私の魔力を分離して森の中へ送り込みました。しばらくは、奴等も囮を追ってくれるでしょう)』

「(皓輝、ありがとう)」


 香澄も、魔霧の森の中は入るのは、心配だった。どうやったら出られるか方法は聞いているが、時間の流れが変わってしまい、出てきたら百年後とかになっては困ると思った。とっさに、皓輝が判断してくれて助かった。ウチの子最高だ! わたしの皓輝、賢い、偉い、いい子。

 香澄は、口に出して伝えようとした訳ではなかった。しかし、皓輝に伝わったらしく、こんな時なのに嬉しそうに、頬を染めて笑顔を見せた。

 香澄は、鼻血を吹くんじゃないかと思った。破壊力抜群な美形青年の笑顔を間近に見て、赤くなったであろう自分を残念に思った。そんな場合じゃないのだ。これから、どうすればいいのか、次の手が思い浮かばない。香澄は、茂みから顔を出すわけにいかないので、藍白や竜族達の様子を確認する事も出来なかった。


『(香澄様、魔霧の森の中に一ヵ所だけ安全な場合があります)』

「(魔霧の森の中なのに?)」

『(ただ、一度その場所に入ると迎えが来なければ出られません)』

「(迎え? 魔霧の森の中に? 誰が迎えに来てくれるの? もしかしたら、一生そこから出られなくならない?)」

『(はい。可能性はあります)』

「( …… 最後の手段にして下さい)」

『(申し訳ありません。今すぐ、決断して下さい。香澄様)』

『(ええっ?!)』


「かくれんぼ? なら、みい〜つけた!」


 飯田亜希子の声が、香澄の頭上から愉しげに響いた。皓輝は、香澄を抱き込み後ずさる。


 香澄が子どもだった頃、よく仲間と遊んだかくれんぼは、見つかっても鬼に捕まらなければ、逃げていいルールだった。


「追いかけっこも楽しいけど、疲れたから帰りたいの。香澄さん、私達と一緒に行きましょう …… 」


 飯田亜希子は、艶やかに微笑みながら両手を広げ、手のひらに魔方陣を展開した。彼女は光り輝く二つの陣を、香澄に向けようとした。瞬間、巨大な赤い鱗の尾がすり抜けて、彼女の身体をなぎ払った。黒い少年達も巻き添いになり、黒い霧になって霧散する者もいた。


『目を覚ませ! 亜希子!』


 蘇芳の怒声と共に光の柱が立った。


 香澄が稲光と轟音に身を竦ませると、皓輝がしっかりと抱きしめた。




お読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。