第二十三話 向日葵の開花
葵はキャノン機関の秘密基地に監禁されていた。椅子に縛られて、身動きができない。そして、Jが何やら話してきた。
「こんにちは。吾輩は皆から切り裂きJと呼ばれている。これから君はキャノン機関のスパイになって貰う。勿論逆らえば拷問が待っている……今から二十四時間与える。それまでに吾輩に従うかどうか考えろ」
必死に拘束を解こうとするも硬すぎて解けなかった。Jは部屋から出る。これから二十四時間後、確実に地獄が待っている。葵は気が狂いそうだった。
「うあああああ!」
どれだけジタバタ暴れても全く拘束は解けない。そのうち、葵は体を動かすのをやめた。そしてやる事はもはや、物思いにふける事しかなかった。葵は父の事が頭に浮かんだ。名付け親だ。
「向日葵は光のある方を向き続ける……」
もはや自分のフルネームである日向葵が皮肉にしか思えなかった。両親を失いどん底に落ち、最近やっと楽しい人生を得られたと思っていた。だが時和が原爆症……。もう限界だった。次に母の事を思い出す。
「人生は山あり谷ありだよ……。今は辛くてもこれからきっと楽しい人生が待っている」
「ああああああ!」
またしても葵は発狂した。綺麗事にはうんざりだ。大切な人をまた失うかもしれず、生きる意味がもはや見出せなかった。外で出会った自殺しかけた人には生きろと言ったくせに、自分は今まさに死にたがっている。これもまた、なんという皮肉だろうか。ふと、葵は両親が生前最後に行っていた事を思い出す。
「戦争なんてやめましょう!」
「私は反対です!」
太平洋戦争が始まったとき、両親は必死に反戦活動をした。だがこの日本という国の悪い部分である、同調圧力のせいで、両親は非国民扱いされた。その結果、周囲からいじめられ、食べ物すら碌に買えず飢えかけ、終いには病気に罹り病院でも診て貰えずそのまま亡くなってしまった。
「父さん……母さん……時和さん……僕を置いていかないで欲しかった!」
この先また大切な人ができても結局失ってしまうのか……。だったら最初から誰とも仲良くしない方が苦しまずに済むか。葵はどんどんマイナスな方へ思考してしまう。だがそのうち反骨精神が芽生え始めた。そうだ、このまま終われない。せめてこの世の全ての理不尽をこの手で叩きのめしてから人生を終えたい。今まさに目の前で理不尽を象徴するJを倒す。決意が固まった。
「人生とは向日葵だ。向日葵は光のある方へ向き続ける。光を遮るものは全て排除しなければ、花を咲かす事はできない」
あっという間に二十四時間が経ち、Jが部屋へ帰ってきた。
「答えは決まったかな?」
葵はJの方へ向きただ笑顔で一言を発した。
「死ね」
全力で拘束を引きちぎり、そのままJの腹を殴った。
「ぐあっ!」
Jはすぐに立ち上がり、銃とサーベルを持つ。ドン!ドン!と弾が撃たれたが間一髪で避ける。次にサーベルが振り落とされたが、葵はそれを白刃取りし折った!取れた刃をそのまま右肩に突き刺す。
「ギャアア!」
その隙に銃を奪い取り今度は左肩と両脚を撃った。四肢全てを怪我させ、動けないようにする為に。
「ガアアア!」
「ヘッハッハッハッハッハ!」
葵は発狂し盛大に笑った。倒れたJの上に葵は乗る。
「もう二度と僕に逆らわない?」
「……ぐぐ」
返事がないので、全力で殴った。
「ウワアアア!」
「もう一度聞く。僕に逆らわない?悪さもしない?」
Jの顔は全体から液体という液体が出てグチャグチャだった。かつて色んな人を拷問し無理矢理スパイにしていた男はまさに今無様だった。
「ごめんなさい……もう二度としません……」
葵はもう気が済んだ。こんな奴を痛め付けた所で現実がどうにかなるわけではない。ただただ無感情にその場を去ろうとした。その瞬間。
「隙あり!」
Jは不意打ちした。ドン!と音がした。しかし倒れたのはまさかのJだった。そして今葵を助けた人はまさかの。
「えっ……ソル!」
「久しぶりだね葵君……僕の大好きな君がただいたずらに傷付けられるだなんてそんなの許せないだろう……。キャノン機関の秘密基地の場所はアメリカ兵である僕にしか分からないからね。だからここまで来れた」
「まさかあなたに助けられるだなんて……ありがとうございます」
「助けに来たのは僕だけじゃないよ。外を見てごらん。僕が皆をここまで呼んだんだ」
葵は部屋の外に出た。すると大量のキャノン機関のスパイが倒されていた。そして立っていたのは葵がこの広島で出会った全ての友達だった。人の為に生きろ、そうすれば認められるという時和の言葉は嘘ではなかったのだ。皆が助けに来てくれていたのだ。その結果、葵は救助された。そして時和と再び出会った。
「葵……さっきはあんな話して悲しませてごめんな……。俺やっぱり生きるのを諦めたくないよ……。必死に闘病してみる……。絶対にお前を独りぼっちにはさせない」
「……ごめん……僕捕まっている間色々ウジウジ考えてた。時和さんが今必死に生きようって思ってくれてるのに、それなのに僕は絶望して生きる事を諦めかけてた。……ダサいな僕は」
葵は号泣した。
「せっかく運良くこの世に生まれてきたんだぜ。たった一度きりの人生だ。ダサくても生きろ。綺麗事かもしれねえけどやっぱり人生楽しまないともったいないぜ」
こうしてキャノン機関との戦いは終わった。西王会というヤクザ組織はなくなり、新しく西王建設という会社が生まれた。勿論社長は西王雅馬。会社員は西王会にいた人間と葵が広島で出会った友達でできていた。葵はついに本物の大工になり夢を叶えたのだ。
そして少し時が経ち、葵達は高級料亭にいた。
「遅いわね」
「ほんと、こんな美しい妻を待たせるなんて失礼だな」
そこには西王姉弟もいた。そして蒼太も。
「どうするよ。とりあえずケツに蹴りでも入れとくか?」
すると、時和がようやく来た。原爆症によってその髪の毛は白髪に染まり頬は痩せこけて弱っていた。だがそれでも時和は今日まで懸命に生きていた。
「悪い!待たせた!うんこ長引いちゃって」
「ちょっと!これから食事の時間なんだからそんな汚い言葉使わないで欲しいわ!」
「こんにちは!時和さん!」
こうして西王会の初期メンバーが揃いご飯を食べた。ただ当たり前の幸せな人生がそこにはあった。きっとこれから先も何度も光を遮られるような出来事はあるだろう。だが時和の必死に生きる意思を見た葵はきっともう二度と絶望しないだろう。葵はついに光のある方へ向き続ける事ができたのだ。
広島の向日葵は綺麗に光の方を向いて咲いていた。




