第三十話 串焼き
もう何年もバーベキューやってないですが串焼きって楽しくないですか?
数ある具材の中からどれを選ぶか。
どういった組み合わせにしていくか。
自分好みの串焼きを考える時間、そして具材を刺していくあの瞬間が個人的には楽しいです。
例えるならそう……
「バーベキューの叫び THE FIRST 串焼き最高!!」
【東京都千代田区 東京駅丸の内駅前広場】
「ちょっと!そこの一般人!邪魔です!
今すぐにそこをどいてください!死にますよ!」
「えっ、あっ、はい!すみません!」
萌華さんから怒声を浴びせられ、おれは慌ててその場を離れた。
その直後、彼女は真剣な眼差しで悪霊の群れを見据える。
「ここで、是隠先輩より多くの悪霊を祓う……
=わたしの方が優秀な後輩だと桜蘭々様にアピールできる……
=わたしだけが桜蘭々様から褒められる……
=本日の“桜蘭々様からの一日一褒められ”が達成……」
小声でぶつぶつと唱えながら、萌華さんは悪霊の軍勢へと向かっていく。
「……よし!計算は完璧!!
あとは……有言実行あるのみ!!」
悪霊たちの一体──イモリ型・水属性上級悪霊が動く。
口前に水の円形型霊法陣を展開し、そこから無数の水弾を、萌華さんめがけて一斉に放った。
──しかし
萌華さんは、地を這う蛇のように、身をくねらせながら水弾の雨を躱していく。
頭を低く抑え、滑るように前進しながら、鋭い殺気の合間を縫うように、静かに、素早く。
一度、ピタリと動きを止めたかと思えば──
次の瞬間、空気を裂くような鋭さで一気に距離を詰め、毒の精霊短刀を悪霊の脇腹へと深く突き刺した。
「毒の叫び THE THIRD!!
毒伸寂淋斬!!!!」
──瞬間。
“毒の刀身”が、まるで蛇の舌のように鋭く、素早く伸びる。
その刀身は、イモリ型・水属性上級悪霊の体を貫き、その直線上に並んでいた悪霊たちをも、まるで串焼きの具材のように、次々と串刺しにしていった。
そして──毒が巡る。
刺し貫かれた悪霊たちの体は、崩れ落ちるようにして崩壊を始め、体内から悪霊玉が露わとなる。
だがそれすらも毒に侵され、ボロボロと崩れ落ちていった。
──まるで、触れたものすべてを腐らせる猛毒。
おれは思わず息を呑んだ。
萌華さんのかわいらしい外見とは裏腹の、残酷で冷酷無慈悲な攻撃に、戦慄すら覚えた。
──彼女は止まらない。
伸びた刀身を活かし、蛇のようにうねりながら悪霊たちを正確に斬り裂いていく。
逃げようとする獲物を逃がさず、喉笛を狙う毒蛇のように、静かに、確実に。
──まるで戦場を這いずり、すべてを喰らい尽くす毒蛇の女王。
結果的に、是隠さんと萌華さんに向かっていった悪霊のうち、半数近くを、萌華さんが単独で祓ったのだった。
「ふぅぅ……任務完了!
あとは……
桜蘭々様から褒められるだけよ♡萌華♡」
「いやいや、拙者の方が多く祓っただろ」
「なにを言っているんですか、是隠先輩!
どっからどう見ても、わたしのほうが多かったです!」
ふたりはすぐさま揉め始め、しばらくの間、子どもじみた言い合いを続けていた。
「ちょっと、そこの一般人!」
「は、はいっ!」
突然、萌華さんから名指しされ、思わず背筋が伸びる。
「わたしとこの忍者もどき、どっちが多く悪霊を祓ってました!?」
「え、えーっと……」
どちらも同じくらいだったため、答えに詰まる。
「……って、そうでした!
霊力を持たない一般人には悪霊が見えないんでしたね
失礼しました」
そう言って、萌華さんはポンと手を打ち、うーん……と頭をひねる。
「ここは……
直接、桜蘭々様に決めてもらうのが一番ですね。
どちらがより多くの悪霊を祓ったか、そしてどちらがより優秀な後輩だったか……
それでいいですよね、是隠先輩?」
「ふっ、聞くまでもないがな」
「そうですね、わたしの勝ちに決まってますもんね!」
「違うわ!拙者の勝ちって意味で言ったんだよ!」
またしても、火花を散らしながら言い合いを始めるふたり。
……なんだこの二人。
でもまあ、とりあえずは助かった……
そう胸を撫で下ろした、まさにそのときだった。
ドドドドドドドドドッ!!
地鳴りのような音が響き、地面が揺れ始めた。
しかもその揺れは、秒を追うごとに激しさを増していく。
「な、なんだ!?」
おれはとっさに周囲を見渡す。
遠方──ビルの隙間の彼方から、再び悪霊の群れが迫ってくるのが見えた。
パッと見ただけでも、軽く200体はいる。
しかも、半数が上級悪霊。残りも中級レベルの霊気を放っていた。
「うそでしょ……まだあんなに残ってたの……?」
「だから言っただろ?
夏になると、悪霊の数はシャレにならないって!」
「だからって、一気に増えすぎですってば!
昨日までの平穏な日々が……
桜蘭々様との貴重なプライベート時間が……減っちゃう〜〜!」
「じきに慣れるさ
それに、今年は神戸校と八戸校からの応援があるって、白亜先生が言ってただろ?
全員で力を合わせれば、大丈夫だ」
「そういえばそんなこと言ってましたね……
ふっふっふっ……!散々コキ使ってやろう♪
桜蘭々様との、いちゃいちゃプライベート時間を確保するために!」
「おい、今めちゃくちゃ悪い顔してるぞ、萌華」
「そういえば……
八戸校の人たちがすでにここで戦ってるはずだって、詩音先輩言ってましたけど……
一体どこで油を売っているんですかね!?まったく!
是隠先輩にならともかく、桜蘭々様に迷惑をかけるなんて、許せない!」
「おい……
つまり拙者には迷惑をかけてもいいってことか」
その会話を聞いていたおれは……恐る恐る二人の会話を遮った。
「あ、あのぉぉ……」
すると、ふたりはぴたりと口を止め、同時におれの方を振り向いた——
「あなた、まだいたんですか?
ここは危ないですよ、急いで東京駅に避難を──って、え!?!?」
目を見開く萌華さん。その視線が、おれの制服に釘付けになる。
「その制服……! あなた、もしかして……!?」
「そ、そうです……
八戸校祓い科二年の、佐藤銀河といいます……
よ、よろしくお願いします……!」
おれは緊張で声を震わせながら、慌てて姿勢を正す。
そして深く、丁寧に頭を下げた。
「あなたっ!」
突然、萌華さんがズイッと顔を寄せてきた。
目の前まで来て、おれを睨みつけるように迫る。
「悪霊祓いしないで、なにしてたんですか!?
どこかで遊んでたんですか!?
桜蘭々様に迷惑かけて、生き恥だとは思わないんですか!?
生き恥を晒すくらいなら、日本男児らしく切腹しようとか思わないんですか!?」
「え、えっと……」
あまりの迫力に、思わず一歩……また一歩と、後ずさるおれ。
「す、すみま──」
謝罪の言葉を口にしかけたその時──
ポカンッ!
「いった〜〜〜い!!」
萌華さんの頭に、軽く拳骨が落ちた。
小突いたのは是隠さんだった。
「なにするんですか是隠先輩!?
パワハラだっ!
しかも、乙女のカラダに触れたから、セクハラでもあります!
“パワセクハラ”だ〜〜!
桜蘭々様に言いつけてやる〜〜!!」
「軽く小突いただけだろ……
それより、詩音さんの話をちゃんと聞いていなかったのか?」
是隠さんはやれやれと肩をすくめながら続ける。
「八戸校の人たちがここで悪霊たちを引き止めてくれたおかげで──
逃げ遅れた一般市民、全員を避難させることができたんだよ」
「……えっ?」
萌華さんが、ぽかんと目を丸くする。
その間に、是隠さんが一歩前に出てきて、おれに頭を下げた。
「ありがとうございます、銀河さん
本当に助かりました
あと、うちの後輩が失礼なことを……すみません」
「い、いえ!
そんな……こちらこそ助かりました!
本当にありがとうございます!」
おれも慌てて、同じように深く頭を下げた。
「『うちの後輩が』……?は?きっしょっ!!」
萌華さんがむくれて、是隠さんを睨む。
「わたしは──桜蘭々様だけのものですよーだっ!
べーーっ!」
舌を突き出して、あっかんべー。
「まったく、相変わらず仲が良いな、お前たちは」
落ち着いた声とともに現れたのは、堂々たる風格と微笑みを携えた──
桜蘭々さんだった。
「あっ!桜蘭々様っ♡
先ほどのわたしの活躍、見てくださいましたか!?
是隠先輩を超えた、あの素晴らしい活躍をっ!」
「ああ、ちゃんと二人の活躍、見ていたぞ
よくやったな」
桜蘭々さんは優しく微笑むと、是隠さんと萌華さん、それぞれの頭に手を置いて撫でる。
そして、ふと視線をこちらへと移す。
「君が、白亜先生から聞いていた応援派遣の子だね?
妾からもお礼を言わせてくれ、ありがとう
妾たちが到着するまで、よく耐えてくれた
おかげで、一般市民の方々を一人も死なせずに済んだ」
──その言葉とともに、桜蘭々さんは深々と頭を下げた。
「い、いえ! そんな……
こっちこそ、もうギリギリの状態で……
本当に、助かりました!」
おれも慌てて、深く頭を下げ返す。
「ふふっ♪
白亜先生が言っていた通り、真面目でいい子だな君は
遅れてしまって、すまなかった
ちょうど別の場所でも悪霊が湧いてな、数が多くて手こずっていたんだ」
「……白亜先生から話は聞いていましたけど、まさかあそこまでとは……
あの数は、本当に驚きました」
「まあ、毎日ってわけでもないがな」
ドドドドドドドドッ!!!
地響きが、さっきまでとは比べものにならないほど激しくなった。
悪霊の群れが、すぐそこまで迫ってきている。
大地が唸り、空気がざわめき始めた。
「さて、三人とも、下がっていろ」
桜蘭々さんはすっと一歩、前へと歩み出る。
雷の精霊長刀を握り直し、その雷の刀身に宿る霊圧が、びりびりと空間を震わせた。
「あとは、妾一人で──」
そのときだった。
彼女の動きがぴたりと止まる。
眉間にかすかな皺を寄せ、静かに、真正面の悪霊の軍勢を見据えた。
まるで、何か”異質なもの”を見つけたかのように──
「どうかされたんですか、桜蘭々様?」
「悪霊たちの様子が、なにやらおかしいな」
「え……?」
言われて、おれも目の前の悪霊の軍勢に目を凝らした。
確かに、何かが変だ。
攻めてこようとしている……というよりも──
なにかに追われて、必死に逃げているように見える。
そのときだった──
悪霊の群れの後方から、甲高い少女の声が響き渡った。
「きゃあああああ♡
待ってぇぇぇぇぇぇーーー♡
わたくしの愛しいダーリンたちーーー♡」
あまりの異様さに、おれは思わず絶句した。
そこに現れたのは──
一人の少女。
黒髪ストレートのロングヘアーに、淡い水色の六花結晶の髪飾り。
しかも、着ているのは──
おれたちと同じ、十文字学園祓い科の制服だった。
紺のスカートに、紺のブレザー……なんだけど。
……あれは、すごい。
牙恩のような胸好きの男性陣なら、誰もが鼻血を吹き出しそうだ。
というのも、彼女の制服の着こなしが、どう見ても“規格外”だった。
ブレザーは、一番下の第三ボタンだけがかろうじて留まっていた。
だが、その上はもう──
完全に壊滅状態だった。
信じられないほど巨大な胸が、ブレザーを内側から押し上げ、盛大に張り出している。
その膨らみに押しつぶされるように、白いYシャツの布地が苦しげに歪み、胸元はまるで張り裂ける寸前だ。
首元には紺色のリボンがちゃんと結ばれているのに、Yシャツの胸の部分には、ボタンが……どこにも、ない。
いや、最初から無いわけじゃない。きっと、あったんだ。
ただ──胸が大きすぎて、ボタンたちは無惨にもどこかへ弾け飛んだのだろう。
ブレザーもシャツも、サイズ的にまったく機能していない。
その結果として──
形のいい、きれいな色白の谷間が、服の隙間から堂々と、たっぷりと、あらわになっていた。
胸を隠す気なんてさらさらない……というより、もう隠しきれない。
そんな胸を前に、思春期真っ盛りの男子として目を逸らすのは──正直、無理だった。
※キャラクター紹介
プロフィール追加
名前:田中 刹那
髪型:黒色長髪・ストレートヘアー
頭に薄水色の六花結晶の髪飾りを付けている
(お嬢様をイメージ)
服装:上下制服
上衣:紺色ブレザー(ボタン3つ)
一番下のボタンだけかけている(胸がデカ過ぎるため一番上と真ん中のボタンはかけられない)
白色Yシャツ
首元には紺色のリボン
胸部分のボタンだけかけておらず、谷間が見えている(胸部分のボタンが弾け飛んでしまったため、そもそもボタンがない)
胸がデカ過ぎるため、自然と胸が強調された着こなしとなっている
下位:紺色スカート(ひざ上)
靴下:無地の紺色ハイソックス
靴:ブラウン(茶色)の革靴