第五十七話 響け怨嗟の歌
武器製作の流れを一話にしようとするとかなり長くなりそうなので二話に分割してるんですけど、それはそれで短くなってしまう問題
「えっと、つまり……歌う剣を作って欲しい、と」
「ああ、そういうことさ。舞い踊るような斬撃に、賛美するかのような歌声――この僕に相応しい武器だ」
煌びやかな青色の衣装を纏う、オペラにでも出てきそうな装いの男装の麗人――アリア=リューエは、その出で立ちに違わぬ仰々しい身振りをつけながら答えた。
そんな彼女とは対照的に、私は心の中で頭を抱える。
「……全く想像ができない……」
これまでいろいろな武器を作ってきた私だけど、これにはさすがにお手上げだった。
一応、これまでにも現実に存在しない武器というものは何度か作っている。撃盾とか魔剣とか。
ただ、これはなんというか……あまりにもかけ離れ過ぎてる。
「まず、そもそもどんな素材を使ったらいいのか……」
「ああ、それなら使ってもらえそうなものを用意してあるんだ」
彼女はインベントリからいくつか濃い紫色の石塊のようなものを取り出し、机に置いた。
光沢があるので金属系素材、だと思うんだけど……すごい音が聞こえてくる。
なんだろう、瓶の口に息を吹きかけたような音だったり、軋むような音だったり……というか、声みたいなものも聞こえる。
アリアが同じものをインベントリから取り出すたびにうるさくなっていくので一つだけ残してしまってもらって、それからアイテムを見てみる。
————
ネルフラの怨嗟鉱
墓標都市ネルフラの亡霊が持つ、核のようなもの。
金属と同様の性質を持つ。生者を妬む怨嗟の声が響き続ける。
————
「どうだろう、作れそうかな?」
「うん…………無理かな」
「そんなっ」
アリアが大袈裟な動きでショックを受ける。
そんな悲しそうな顔をされても、流石にこれは難しい。
確かに声はずっと聞こえているけど、掠れるような声であーとかうーとか言う程度で、これを歌と言ってしまうと全国の歌手に怒られかねないし、かといってこの怨念めいた声に賛美歌を歌わせるような技術もない。
仮にこれで作ったとしても、呪われた武器にしかならないだろう。
そう伝えると、アリアは納得した様子で手を合わせた。
「それならそれでも良いさ。亡霊の咎を背負いながらも気高く生きる僕……。少しダークではあるが、主役らしくて良いじゃないか!」
それで良いらしい……。
最初から分かっていたことだけど、この人も中々に癖の強い人だ。
この前の梓萱は明らかにロールプレイのキャラ作りだったけど、この人の場合はこれが素なんじゃないかと思ってしまう。ポジティブなのは良いことだけど。
視界の端に追いやったコメント欄を見てみると、視聴者はこの独特な雰囲気を気に入っているようだった。
みんなこういうの好きだよね。梓萱のときもかなり盛り上がってたし。
これは余談だけど、梓萱の店は生配信以降客が増えまくっているらしく、タダ券とともにお礼のメッセージが来た。
私はまだ行けてないんだけど、落ち着いたころを見計らって行こうかな。
あ、当然だけど、アリアに配信の許可は取ってある。
というかそもそも配信に映りたくて私のところに依頼しに来たらしい。わざわざ私のところに映りに来なくても自分で配信やれば伸びそうなものだけど。
それはともかく、武器について。
一口に剣といっても色々あるので、今使っているものを見せてもらうことにした。
柄は青、スラリとした純白の剣身が美しい、よく出来た武器だ。既存のもののようだけど、シンプルながら細かい部分の装飾など中々凝った作りをしている。
興奮した様子でアリアに武器の入手経路を聞くシダを眺めつつ、武器をもっとよく観察してみる。
名前はエスカレムナスで、必要STRは47。
システム的には直剣に分類される剣だけど、一般的な直剣と比べると剣身が長く、幅が細い。
ゲームによっては細剣と括られることもあるような形状だ。一応、アリフラにおいても武器種というカテゴリーの中で区別されていないだけで、通常の直剣に比べて必要STRが低く、若干攻撃力が低いという差がある。
正確なステータスについては後で聞くつもりだけど、あまりSTRに振るようなビルドではなさそうだし、形状はこれに近しい形になりそうだ。
「武器種は同じでいい?」
「ああ。できれば必要STRは62以下で頼むよ」
「了解。ネルフラの怨嗟鉱は使うとして、他に何か細かい指定とかは?」
「ふむ……出来ればでいいのだけど、剣身は赤くしてもらえるかな。この素材では赤くできないかもしれないし、無理にとは言わないけれど」
「なるほど……多分、出来ると思う。やったことはないから分からないけど」
そのまま使えば紫色になるだろうけど、合金製錬釜の性質を利用すれば赤色にできる気がする。
そのうえで、細剣……うん、なんとなく固まってきた。
「舞い動く青き衣と、敵を切り裂く深紅の剣。赤と青のコントラストがこの僕の下で一つになる……ああ、もう既に美しい!!」
自分の世界にトリップしてしまっているアリアをどうにか現世に引き下ろしてから、私は武器を作り始めたのだった。