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第四十九話 魔界将軍

なんか2021年って2月がなかったらしいです。

3月は……がんばります




「さあ、ここからは私のターンよ」



 手に持ったハンマーをくるりと一回転させて、エボニーは早速インベントリから素材を取り出した。



「防具職人についての説明は……武器職人とあまり変わらないし、異なる点だけ説明するわね。まず最も大きな違いは、キャパシティの有無。武器を作る際には素材のキャパシティ値を超える能力を付けられないという縛りがあるけれど、防具職人にはそれが存在しないの」


『そうなのか』

『へー』

『むしろキャパシティを初めて聞いたわ』

『同じく』



 最初に聞いたときは防具職人って特殊な感じなんだなって思ったけど、実はキャパシティは武器職人だけの物だったりするのかもしれない。そんなことはないとは思うけど、他の職の工程はよくわからないからそれも想像でしかない。

 まあ、防具は複数部位に装備する関係上、一つの部位につく装備スキルの数は少ないだろうし、キャパシティがないのはそういう理由なのだろうというのは何となくわかるけど。



「勿論、だからと言って大量の素材を使えば要求されるステータス量に見合わない性能になってしまうのだけれど」


『結果的に武器職人とあまり変わらない感じ?』

『どっちも難しそうだわ』

『オート生産ならどうにかなるだろうけど、マニュアルはな』

『武器種みたいな縛りがない分防具職人の方が楽なのでは』


「ふふっ。確かに武器種のような職ごとの縛りはないのだけど、防具職人にはそれとは別に種族ごとの縛りがあるのよ?」


「種族ごとの?」


「ええ。簡単に言うと、種族間の体格差ね。同じ種族での体格の差程度ならいい具合に調整してくれるけれど、種族間の差までは流石にどうにもならないのよ。種族によっては角が生えていたり羽が生えていたりするもの」


「あー……確かに」



 ファンタジーとかで尻尾が生えてるキャラはよくいるけど、そのズボンとかがどういう仕組みになっているのかというのは結構議論されていることがある気がする。

 多腕種族の袖とか、変身する種族の服とか、猫耳キャラに人の耳がついてることとか。

 ……最後のは違うかもしれない。


 一応このゲームでは、全ての防具は装備することでそのプレイヤーに適した形状になるというシステムがあるけど、身長や筋肉のつき方なんかはともかく、構造から違うようなものに関しては同じ防具でも別データとして存在しているのだろうし、プレイヤーが作るとなればその辺に障害が生じるのは仕方ないことなのだと思う。



「だから、防具は基本オーダーメイドで作っているの。武器のように沢山の種類がシステムで区別されているわけではないけれど、その分こちらは種族毎に形状を考える必要がある。……結局のところ、どちらも難しいというわけね」


『なるほどなあ』

『それはそれで面白そうではある』

『というか店売りの防具って種族の制限あるんだっけ』

『確か実装されてる防具は全種族に合うように調整されるらしい』

『キャットシッカー用のズボンをエーラが履いたらケツが……』

『てか、地味に防具生産見るの初めてだ』

『どうやるんだろうな』


「防具は、最初にベースとなるモデルデータをマネキンに流し込んで、それからそこに合わせるように作っていくというやり方が一般的ね。普段はプレイヤーの体型データをそのまま流し込んでるけど、今回はとりあえずサンプルにある平均的なエーラのデータを使うわ」



 そう言いながらエボニーが手元のウィンドウを操作すると、緑色の線で表現された人体が表示されて、切り替わるようなエフェクトと共に灰色のマネキンが現れた。

 アリスフィア・フラグメンツの世界観で最も一般的な人族であるエーラを模したものらしい。



「配信中に全身作るのはちょっと時間がかかりすぎるから、今回は頭だけ作っていくわ」



 エボニーがマネキンの頭部に手を添えると、いとも簡単に首から上が分離する。

 その生首を作業台に置いて、彼女は早速素材の加工を開始した。


 まず手をつけたのは、見るからに重厚そうなインゴット。

 黒嘶鋼という名前のそれを慣れた手つきで加工しながら、エボニーが言う。

 


「こうやって素材を叩いているときって落ち着くわよね」


「わかる」


『わかるんだ』

『職人の間でのみ通じるのか』

『まあでも叩いてる音は何か作業用にはいいよね』

『ヒーリング音声にしてはちょっとやかましいけどまあ言わんとしてることは分かる』

『実際いつもは作業しながら聞いてるよ』



 最近はラーニングシステムの実装で、インゴットから叩いて成形するというのはほとんどしなくなってしまったけど、一定のリズムで響く金属音は何となく落ち着く。

 特にエボニーは常に一定のペースで叩いているので、それも相まってヒーリング音声のような感じが強くなっていたり。

 私はどうしても不規則な感じになってしまうので、流石はエボニーという感じだ。


 やっぱり鎧ともなれば、普段の私が武器生産でやっている以上に金属の加工が必要になるだろうし、ファンタジーの装備と言えばやはり鎧で、タンク職が身に着けるような重鎧でなくとも軽鎧などを使うジョブは多いはず。

 つまりはそれだけ鎧を作っているということであり、エボニーの金属加工技術が私の数段上を行っているのも当然のことだった。



『相変わらず凄いなー』

『技術力がエグい』

『本職の人?』

『もうそれっぽくなってきてるな』


「凄いよね。流石にこれは私にはできないな」


「ふふっ、褒めても何も出ないわよ?」



 そう言っている間にも作業は進み、やがて兜の形が出来上がった。

 黒と金の二色で形作られた兜には二本の角が生えていて、全体として見る者を威圧するような重厚な雰囲気を纏っている。

 既に防具として使える出来に見えるが、しかし、これで完成ではない。



「さあ、最後の仕上げをしましょう」



 そう言って彼女が取り出したのは、凶相頭骨という名のアイテムだ。

 形状やサイズは人の頭骨に極めて近く、しかしその表情は鬼神の如く歪んでいる。

 最近出回り始めたらしいアイテムで、私も存在は知っていたものの、武器に活かすアイデアが思いつかなくて特に使っていなかったのだけど、確かに兜には適していると思う。頭骨だし。


 とはいえそのまま使うわけではないらしく、エボニーは新たな道具を持ってきた。

 大きめの包丁のような見た目をしているが、その柄の端からはコードが伸びており、金床のソケットに接続されている。炉の魔力を使うタイプの物だ。

 エボニーがダイヤルを回すとそれに合わせて刃が青く発光し、その状態で凶相頭骨に刃を添えると、まるでバターでも切るかのようにスッと両断されたのだった。



「それいいね。最新の道具?」


「防具職人のギルドクエストで手に入るものよ。設定上は試作品という立ち位置だったから、多分そのうちだれでも買えるようになるんでしょうけど」


「へー。……ギルドクエスト? 何それ」


「武器職人のギルドは入っているでしょう? ジョブのレベルに応じて受けられるクエストで、中級職に上がった段階で説明されるはずなのだけど……」


「初耳」


「そのようね……」



 思い返してみると、確か中級職になった頃ってかなり慌ただしかった気がする。

 魔剣を作るために中級職になる必要があったんだっけ。そういえば細かい説明は飛ばしてもらったような記憶があったりなかったり。



「まあ、折角だし受けてみると良いんじゃないかしら。上級職になるために必須って説もあるし……と、これで完成ね」



 話している間に作業を終えていたらしい。

 見てみると、兜の面にあたる部分に髑髏が収められていた。角と合わせて凄い威圧感。



「これが防具生産の大体の工程ね。基本的にはフルセット作ることが多いけれど、部位ごとの注文も受け付けているわ。初めてこの配信を見た人も、興味があれば私宛にメッセージを飛ばしてみてほしいわね」



 エボニーは、「武器が欲しければユーカリに」と付け加えてから、私の顔を見て何やら少し楽しそうに笑った。

 ……なんだろう、嫌な予感がする。



「……貴女、もしかしたら似合うんじゃないかしら?」


「え? 似合うって何が……」



 私が聞くよりも早く、黒い兜を両手で持って、エボニーが笑顔で近づいてくる。

 えっと、これを身につけろと? いや、まあ確かに着るだけならVITとか関係ないけど。


 抵抗する間も無く私の頭部を黒い兜が覆った。

 システム的に装備しているわけではないので、兜を被ると相応に視界が制限される。あと普通に重い。



「試作品として作った他の部位があったわよね。エリス、今すぐに持ってきて頂戴」


「かしこまりました」


「折角ですし大鎌も持ってみませんか!」



 そのような感じでされるがまま、私は髑髏を模した兜を着け、漆黒の鎧を身に纏って赤い大鎌を握らされ、その状態で鏡を見る。

 なんかもう魔界将軍みたいになってた。レベル80くらいの。


『圧倒的強キャラ感』

『これは強い』

『魔王軍幹部じゃん』

『魔王と四天王の間ぐらいの立場』

『数ターン毎に確定即死攻撃使ってきそう』

『かなり序盤で負けイベントとして戦うやつ』

『命のやり取りに生を見出してそう』


「いや、ボスとしてのディテールは考えなくていいから……」



 確かにいそうだけど、そういうやつ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 最初の説明のところが武器職人と防具職人がごっちゃになってる気がする
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