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怒り  作者: 神尾 点睛
7/7

結論

  気がつくと、視界が真っ白だった。

  あぁ、ここが天国か、と彼は思った。

  頭がぼんやりとする。

  なにやら騒がしい声が聞こえてくる。

  そういえば、罪を犯して死んだのに、なぜ天国にいるのだろうか。もしかしたら、これから地獄に落とされるのかな。


  ふと、妙なものが視界に映った。見たことがあるものだった。

  蛍光灯。へー、天国にもこんなものがあるのか。

  その時だった。急に大きな叫び声が聞こえた。

  「……! 意識が戻ってる!? 大至急院長を呼んできて!」

  インチョウ…………? 何の話だ?

  誰かがバタバタと走ってくる音がした。

  「結城さん! 結城さん! 意識ありますか?」

  誰かの声がした。男の声だった。

  次の瞬間、白衣を着た男性が、視界に入ってきた。首には聴診器を掛けている。

  彼は驚いて飛び起きた。


  見るとそこは、天国でも地獄でもなく、ただの病室だった。右手には窓があり、そこから暁光が射し込んでいた。

  「ここは……?」

  「はぁ、意識が戻って良かった! ここは病院ですよ」

  「病院……、どうして……死んだわけじゃなかった……?」

  その時また一人、病室に駆け込んできた。

  「結城くん! 目を覚ましたっていうのは本当か!」

  彼の友人だった。

  「あぁ、どうやら本当に生きてるようだ! 一体僕に何があったんだい?」

  「何があったも何も、君は一週間もずっと意識不明の重体だったんだよ」

  「意識不明? 一体どうして?」

  「本当に覚えていないのかい? 君はあの日、レストランで一緒に食事をとった日、喧嘩を止めに入っただろ?」

  「うん」

  「その後、君はワインを飲み過ぎて、帰り道の階段で転んで頭を打ったんだ。結構酷く頭を打って、君は意識不明の重体になった。脳挫傷による外傷性くも膜下出血が原因だよ」

  「そんなことが…………」

  彼はハッとした。

  「……! ということは、今まで見ていたものは夢だった……?」

  「夢を見ていたのか?」

  「あぁ、自分が死ぬ夢」

  「えっ!」

  「何かよく分からないけど、途中から君の視点になってたような……」

  「はぁ」

  「それより僕、君に言わなければいけないことがたくさんあったんだ。君に色々謝らなければいけないことが」

  彼の言葉はそこで途切れた。彼はその先を続けることが出来なかったのだ。

  視界が歪んで、滲んでいった。

  気がつくと、大粒の涙が彼の頬を伝っていた。

  「……どうした?」

  友人は、狼狽えた様子で聞いた。

  「……いや、…………夢で良かった……、死んでなくて……」

  「えっ?」

  「……じゃなきゃ一生、……後悔してた」


  彼は少し気持ちを落ち着かせ、夢の話を友人にした。全てを包み隠さず打ち明けて。

  もう彼は、友人に真実を話すことに、抵抗はなかった。

  友人は、最初相槌を打ちながら話を聞いていたが、途中、話に合わせて笑ったり、泣いたりして聞いていた。

  夢の記憶は、自分でも驚くほど鮮明だった。滞りなく友人に話すことができた。

 

  漸く話終えたときには、二時間も経っていた。今まで隠してきたこと全てを打ち明けたので、何だかとても清々しい気持ちだった。

「……そうか、そんなことが…………」

  友人は話の余韻を味わった後、声を発した。

  「夢のお陰で、今死んだらたくさん後悔するって気付かされた」

  「……結城くん、よく聞いておくれ」

  「何だい?」

  「不意打ちにあったんだよ、甥は。柔道の試合で甥に負けた相手が、逆恨みして仲間と共に甥を突然襲ったんだ。抵抗する余裕も無かったそうだ」

  「まさか……」

  「つまり、正真正銘、君のせいではないよ」

  「嘘だ!」

  「嘘じゃない! 君は知らないかもしれないが、あの後、暴行を加えた少年が裁判でそう証言している」

  「そんな……」

  「だから…………、だから、君は生きろ! せっかく怒りとも向き合えたんじゃないのか?」

  「…………」

  「そうだ、君を心配している子達がいるよ。君が意識不明の間、何度も大勢でお見舞いに来てた」

  「……!」

  「その子らの為にも、まだ生きなきゃなんないんじゃない?」

  「…………、そうだな」

  「よし、それじゃあ、早く退院して会いに行ってあげなよ。君の意識が回復したのは、私が伝えとくから」

  「ありがとう!」


  いつの間にか太陽は高く昇っていた。空は、春らしく霞んでいたが、彼の心に広がっていた厚い雲は幻だったのか、心はすっきり晴々しかった。

皆さん、初めまして。神尾点睛です。

『怒り』を最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


さて、この小説を書き始めたきっかけは、何となく怒りという感情の存在意義を再確認したかったからです。

この小説の主人公、結城は、怒りこそ諸悪の根源だという考えでした。この考え方は、僕の小さいの頃の考え方に似ていました。僕の小さいの頃の考え方は、結城ほど極端ではありませんでしたが、みんながみんな怒るのをちょっと我慢するだけで、みんな幸せになれるんじゃないかと思っていました。よく、親や先生が子供に叱るときに、「怒りたくて怒ってるんじゃないよ!」と言いますが、「じゃあ、怒るなよ!」と子供の頃思った方も多いと思います。そんなイメージです。

けれども、大人になるにつれて、段々と、怒ったり、怒られたりということも、必要なことなんだと理解していきます。それが理解できなかったのが結城なのです。ある意味子供なんですね。ですが、それは決して悪いことではないと思います。よく言えば、子供のように素直だということです。


最後に一つ、この小説の執筆中の裏話をお聞きください。

第6話から第7話の展開に驚かれた方も多いかと思いますが、実は当初、この小説の結末は、主人公が自殺して終わるという予定でした。ですが、それだと暗くなって、つまらないかなと思い、どうしようか迷っていたとき、うっかりそのまま微睡みに落ちてしまいました(笑)

起きたときに、ふとこれは使えるかもと思い、急遽第7話を追加し、一転主人公を生き返らせました。

第4話の途中から、友人の視点なのは、その名残です。


長々と書いてしまいましたが、読んでくださり本当にありがとうございました。よろしければ、感想をお聞かせください。お願い致します。

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