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43.腹部に大ダメージ[兄視点]

二話投稿

2/2




「……やはりお前はサツキさんの兄なんだな」

「今更どーしたよ」


 泣き疲れた皐月が眠ってしまって、ベッドに運んだ後。香菜ちゃんと俺、そしてアヴェルは他にすることもないので三人揃って食卓を囲んでいた。

 厳密には俺には放棄していた仕事の続き、があるのだけれど、それはまあ後輩くんに色々と握らせて任せてきたので問題ない。

 純金のアクセサリー数点。俺の努力の賜物だ。金塊を売ろうとしたら危うく通報されかけた苦い思い出から生み出された努力の結晶、素晴らしい出来である。

 売ればそこそこ美味しい思いができるだろう。できなかった場合? まあ、それはそれだ。彼女にあげるもよし。自慢するもよし。後輩くんは了承して受け取ったのだから、そこまで面倒は見切れん。


「辛いし、怖いだろうとは思っていたが……俺には上手く慰めることも出来なかった」

「そりゃあお前、年季が違いますよ年季が。何年あいつの兄ちゃんやってると思ってんだよ」

「あれあれ~、確か『お兄ちゃん』を放棄した時期があった人が得意げに何か言ってるなあ~~」

「あああああアーーーッやめてくださいよしてください後生ですから!!」

「うるさい、皐月ちゃんが起きるでしょ」

「ハイ……」


 アヴェル相手にドヤ顔ぶっこもうとしていた俺を、突如鋭利な刃物が襲った。言葉という名の刃物である。

 正直言えばそれはマジで古傷をえぐられるので迂闊に言葉に出すのは勘弁してもらいたい――んだけど、今回のは皐月が怪我したってのが理由だろうから俺からは減刑を願うことくらいしかできない。

 死刑囚の気分。自業自得だけどな。


「前から思ってたんですが、カナさんとソウタはどういう関係なんですか?」

「看守と囚人じゃねえの」

「ん? つまり創兄は今の生活を罰だと思っているってこと? ひど~い、サイテー、プランクトン以下、塵」

「ちっ、違いますー、今のは言葉の綾ですー俺はバリバリ毎日ベリーハッピーですー!」

「結論としてよく分からないということですね」


 喚き出した俺に、アヴェルは爽やかな笑顔で会話の終了を図った。こいつ、面倒くさそうだからってぶった切りやがった。

 皐月にはそういうところ殆ど見せたがらねえくせに。猫かぶりマンめ。猫かぶり殻こもり拗らせマンめ。


「まあいいよ分かんなくて。複雑なんだよこっちは」

「私と創兄のことはどうでもいいんだよねー、大事なのはあいつらをどうするかってことだから」

「どうするっつっても、どうせ香菜ちゃん色々考えてんだろ? 俺に出来ることってあるかなー」

「例えばー」

「例えば?」

「ファラリスの雄牛を作る、とか」

「やめてあげて」


 有名所をチョイスしてきたあたり、本気じゃないんだろうけどさ。

 流石にこっちの処刑器具までは網羅してないアヴェルが聞きたそうな顔をしているので、適当に調べた画面を見せてやった。

 もはや一から説明する気にはなれない。最初の頃、皐月がいないところでどれだけ質問攻めされたか。向こうで多少教えておいてよかったと心底思ったぜ。


 そりゃまあ? 裸を見るなんつー失礼極まりない行為を働いた相手に、飯の世話までされて更に一から十まで教えを請うなんて迷惑行為こいつが出来るはずがねーんだけど?

 でも俺だったらやってもいいかと言うとそうではないんだよアヴェルくん。よって俺はもう手助けしないぞ、頑張り給えアヴェルくん。


「……何をにやついているんだ、お前は。薄気味悪いぞ」

「えー? 別になんでもないよ?」


 満面の笑みで答えると、アヴェルは一瞬顔を顰めた後に、諦めたように溜息を吐いた。

 そういうことにしておくって顔だ。ぜひともそういうことにしておいてくれ。


「実際のところ、くるみちゃんは卒業まで針の筵で過ごせって言ってたけどこんなことになってそこまで優しくしてやれないよね」

「そうさなあ」

「体の傷は治っても、心の傷はそう簡単にはいかないし」

「……そうさなあ」

「心の傷はそう簡単にはいかないし」

「二回言うのやめてもらえます!?」


 くっそー心が抉られる。今日は当たりが強い。ものすごく強い。とんでもなく強い。つらい。

 分かってるよ、だから俺もなんとかしようとしてる訳じゃん。なんとかね。なんとかしろよアヴェル。途中までは俺が手伝ってやっから。

 たったひとりの殻を壊す為に、大国魔導師連中相手の鉄壁を破ろうって頑張ってる俺、めちゃくちゃ優しくない? 優しい。誰も言ってくれないから言っておこう。


「だから『あいつら本人』にやり返した後は、『あいつらそのもの』に消えてもらおうと思うんだけど、どう?」

「それは精神的に? 肉体的に?」

「どっちでも、やりやすい方でいいけど」


 なんてことのない様子で言う香菜ちゃんは、イカと里芋の煮物を口にして、やっぱり美味しい、と微笑んだ。

 本当に、可愛い顔してさらりとえげつないことを言いますなあ、この子は。


 けれども、自転車に乗ってる女の子を横から蹴り飛ばすようなやつも、それを許容するようなやつも、指示するようなやつも、俺は許せる気がしない。許したところで、誰のためにもならなそうだし。

 だったらまるっと消えてもらっちゃうのが、まあ、それなりの優しさってやつだ。

 優しいから、あんまりにも酷い事は見えないところでやることにしよう。ほら、俺って優しさの権化だからな。


「オッケー分かった、現代医学で説明可能な範囲で精神的に消して差し上げよう」

「わーいやったー創兄頼りになるー」

「棒読み世界選手権大会出れるぜ香菜ちゃん」

「駄目兄貴世界選手権大会五位の人がなんか言ってる」


 お腹が痛くなってきた。話題を変えよう。


「そういやアヴェル、お前好きなもの見つかったんだって?」

「なんだ急に」


 アヴェルは携帯の画面から目を離すことなく、明らかに『俺は今これを読むのに忙しい』と言いたげな声で答えてきた。

 ひどすぎない? 勝手にやってるとはいえ俺、お前の為に結構頑張ってんだけど。正確には皐月のためだけど、別にお前のためでもあるじゃん。

 無言の抗議で睨みつけていると、アヴェルは小さく溜息を吐いてから「すまん、気が立ってるんだ」と呟いた。


 あらそう。珍しいこともあるもんね。お前、基本そういうの、なかったことにするくせに。

 明らかに好きなものが見つかった影響出てんじゃん。これもう俺が頑張らなくてもいけるんじゃ?と思わなくもないが、星命石(エストレヤ)があるかぎり、もしくはファブルヘイムがある限りはどうにかはっきりさせた方が良いんだろう。


「んで? 何が好きなのお前」

「……丼」

「はい?」

「丼飯だ」

「………………ヘッヘァ、ヒッ」

「創兄、笑い方気持ち悪い」


 丼飯。王立騎士団内でも訓練生の頃からトップクラスの人気を誇ってたらしい若騎士様が、丼飯が好物。やばい、死ぬほど笑う。つらい。

 どっちにしろお腹が痛くなることに変わりはなかった俺は、その日腹筋の筋肉痛に苦しみつつ眠ることとなった。





(金塊のこと教えて下さった方、めちゃくちゃ遅れましたがありがとうございました)


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