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願い星ー宇宙を駆ける王位継承レース  作者: ネコ雲


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脱獄とヘイゾウ


 盗賊団のアジト。


 戦いが終わり、倉庫には静けさが戻っていた。


 倒れた盗賊たちを見回しながら、セリアが息を吐く。


「……私たちの負けね」


 セリアは、ゆきとサクラを見る。


「約束通り、盗賊団が持っていた星の雫石はあなたたちに渡すわ」


「本当に?」


 ゆきが目を輝かせる。


「ええ」


 セリアが頷く。


「ありがとうございます!」


 サクラが頭を下げる。


「じゃあ、盗賊たちの後始末は俺たちに任せてくれ」


 ヘイゾウが言った。


「盗賊団は宇宙警察が連行する」


「分かった」


 セリアが頷く。


 ヘイゾウたちが盗賊団を拘束している間、ゆきとサクラは星の雫石の反応を探した。


「こっち」


 サクラが手にした星の雫石を見る。


 淡い光が、アジトの奥を指していた。


「まだ中にあるんだね」


「うん」


 二人は星の雫石を頼りに、アジトの奥へ進んでいく。


 やがて、一つの扉が見えてきた。


「ここだよ」


「開けてみよう」


 ゆきが扉を開ける。


 その先には――


 何もない部屋が広がっていた。


「……何もないね」


 ゆきが首を傾げる。


「でも、星の雫石はこの中を指してる」


 サクラが周囲を見回す。


「じゃあ、入ってみよう」


 二人は部屋の中へ入った。


 そして、真ん中まで進んだ、その時だった。


「……え?」


 突然、身体がふわりと浮いた。


「きゃっ!」


「うわっ!」


 次の瞬間――


 ドンッ!


 二人は頭から床へ落ちる。


 サクラは咄嗟に身体を捻り、受け身を取った。


「痛っ……!」


「何が起きたの!?」


 ゆきも身体を起こす。


「分からない……」


 サクラが周囲を見る。


 その瞬間――


「また……!」


 再び、身体が浮いた。


「ええ!?」


 今度は受け身を取った姿勢のまま、二人の身体が落下する。


 ドンッ!


「痛い!」


「また落ちた……」


 二人は呆然とする。


 そして、サクラが気づいた。


「……そういうことか」


「何?」


「この部屋、重力が入れ替わってる」


「重力が?」


「うん。さっきまで下だった方向が、突然上になるの」


「そんなことできるの!?」


「たぶん、何か仕掛けがあるんだと思う」


 その直後。


「また来る!」


 身体が浮く。


「きゃあっ!」


 ドンッ!


 二人が落下する。


「もう!」


 ゆきが頭を押さえる。


「何でこんな仕掛けがあるのよ!」


「気をつけて――」


「もういい!」


 ゆきが立ち上がる。


「それなら、この部屋にある仕掛けごと凍らせる!」


「え?」


 ゆきが両手を広げた。


「氷!」


 ドォンッ!


 凄まじい冷気が部屋中へ広がる。


 瞬く間に、部屋中が凍りついていく。


 パキパキパキッ!


 そして――


 カチッ。


 何かが止まる音がした。


 身体が浮かばない。


 重力も変わらない。


「……止まった?」


 ゆきが恐る恐る足を動かす。


「うん」


 サクラも頷く。


「良かった……止まったみたい」


 二人はようやく息を吐いた。


「次の部屋は、仕掛けがないかちゃんと確認しよう」


「そうだね」


 二人は警戒しながら、次の扉を開けた。


     ◇


「……すごい」


 扉の向こうには、盗まれたと思われる宝石が大量に並んでいた。


「これ、全部盗品かな」


「たぶんね」


 サクラが星の雫石を見る。


 淡い光が強くなっている。


「この部屋にある」


「じゃあ、探そう」


 二人は部屋へ入る。


 さっきのような仕掛けはない。


「今度は何もないね」


「うん。これなら――」


 その瞬間。


 カタンッ。


「……?」


 足元で音がした。


 次の瞬間――


 バンッ!


 板が二人の顔へ向かって跳ね上がった。


「えっ!?」


 板の先端から液体が噴き出す。


「きゃあああああっ!」


「いやあああああっ!」


 液体が二人へ直撃した。


「くっさーーー!!」


 二人の叫び声がアジト中へ響き渡る。


 そして、その声は外にいたセリアやヘイゾウのところまで届いた。


「……何だ?」


 ヘイゾウが振り返る。


「ゆきたちじゃない?」


 セリアが苦笑する。


「大丈夫かしら……」


 しばらくして、二人が出てきた。


「見つけた!」


 サクラが星の雫石を手にしている。


「やった!」


 ゆきも続く。


 だが――


 外で待っていた全員が、二人を見た瞬間に顔をしかめた。


「……」


「……」


「……」


 二人が固まる。


 ゆきの顔がみるみる赤くなった。


「……」


 サクラも顔を赤くする。


 恥ずかしさに耐えられなくなり、二人はその場に蹲った。


「……最悪」


 ゆきが涙目になる。


「こんなの……恥ずかしすぎる……」


 サクラも俯いたまま動かない。


「……ごめん」


 セリアが二人へ近づく。


「ちょっと待ってて」


 セリアは近くの店へ走っていった。


 しばらくして――


「これを使って」


 セリアが消臭玉を持って戻ってきた。


「ありがとう」


「ええ。これなら臭いを消せるわ」


 セリアが二人に使ってあげる。


 嫌な臭いが少しずつ消えていく。


「……助かった」


 ゆきが顔を上げる。


「ありがとう、セリア」


「気にしないで」


 セリアが優しく笑う。


「女の子には、ちょっと辛いわよね」


「……うん」


 サクラも小さく頷く。


 二人はようやく立ち上がった。


 だが――


 その表情は、さっきまでとは違っていた。


「……」


 ゆきが拳を握る。


 サクラも無言で前を見る。


「どうしたの?」


 セリアが尋ねる。


「……ちょっと、やることがある」


 ゆきが歩き出す。


「私も」


 サクラが続く。


     ◇


 盗賊団のボスは、宇宙警察に拘束されていた。


「……」


 二人がボスの前で立ち止まる。


「何だ?」


 ボスが顔を上げる。


 次の瞬間――


「えいっ!」


 ゆきが巨大な氷を作り出した。


「何だ!?」


 ドゴォン!!


 巨大な氷がボスの頭へ落ちる。


「ぐはっ!」


 ボスが倒れる。


 サクラも続いた。


「……これで終わり」


 巨大な光の拳が生まれる。


「え?」


 ドゴォンッ!!


 特大の拳がボスの顔へ叩き込まれた。


「……」


 ボスは白目を剥き、口から泡を吹いて完全に気絶した。


「……すっきりした」


 ゆきが満足そうに息を吐く。


「私も」


 サクラも満足そうに頷く。


「……」


 ヘイゾウたちは、ただ呆然と二人を見ていた。


 セリアたちも苦笑している。


「……元気ね」


 セリアが呟いた。


「さて」


 ゆきが振り返る。


「盗賊団も退治したし、こうきたちを釈放してもらおう」


「そうだね」


 サクラも頷く。


「戻ろう」


 ゆきとサクラは宇宙船へ向かって歩き出した。


 ヘイゾウたちも盗賊団を連行しながら後を追う。


 セリア、ガルド、ノアも続いた。


     ◇


 宇宙船へ戻る途中。


 ゆきがヘイゾウへ声をかけた。


「ヘイゾウさん」


「何だ?」


「盗賊団も壊滅させたし、文句ないでしょ?」


 ゆきがヘイゾウを睨む。


「こうきたちを釈放してよね」


 ヘイゾウは淡々と答える。


「さっきも言ったが、それはあいつら次第だ」


「……」


「……」


 ゆきとヘイゾウが睨み合う。


「どういう意味ですか?」


「そのうち分かる」


「……」


 二人はそのまま歩き続けた。


     ◇


 やがて、宇宙船が見えてきた。


「……?」


 ゆきが足を止める。


「何か騒がしくない?」


 宇宙船の停まっている辺りから、大きな声が聞こえてくる。


「おーい!」


 聞き覚えのある声。


「ゆきー! サクラ―!」


「こうき!?」


 こうき、ひろき、みずきの三人がこちらへ向かって走ってくる。


「逃げるぞー!」


 こうきが叫ぶ。


「え?」


 ゆきとサクラが顔を見合わせる。


 そして――


 二人の視線が、ヘイゾウとぶつかった。


「……」


 ヘイゾウは三人の姿を見つめる。


 そして、小さく呟いた。


「ほう……あれを破ったか」


「……!」


 その言葉を聞いた瞬間。


 ゆきとサクラの顔が青ざめた。


「……これ、まずいんじゃない?」


「うん」


「逃げよう!」


 二人はヘイゾウから逃げるように走り出した。


 ヘイゾウは追わなかった。


 もともと、こうきたちを釈放するつもりだったからだ。


「こっち!」


「早く!」


 五人は宇宙船へ向かって走る。


「面白い連中だな」


 セリアが三人を見る。


「また会いたいものだ」


 ガルドが笑う。


「確かに」


 ノアも頷いた。


     ◇


 ようやく宇宙船の前で、五人が合流した。


「早く乗るぞ!」


 こうきが急かす。


「うん!」


 ゆきが頷く。


 五人が宇宙船へ乗り込もうとした、その時――


「待てぇぇぇぇ!」


 遠くから声が響いた。


「……!」


 五人が振り返る。


 宇宙警察の宇宙船から、見張り番として残っていた二人の警察官が走ってくる。


「ヘイゾウ警部!」


 一人が叫ぶ。


「容疑者三名が、我々の宇宙船を壊して逃げ出しました!」


「……何?」


 ゆきの顔が引きつる。


 こうきたちを見る。


「何してんのよ!」


「いや、これは――」


 こうきが言い訳しようとする。


「説明は後だ!」


 ヘイゾウの表情が一変する。


「待て、お前たち!」


 ヘイゾウが走り出す。


「宇宙船を壊した容疑で逮捕だー!」


「うわあああ!」


 こうきが叫ぶ。


「早く乗れ!」


「急いで!」


 五人が一斉に宇宙船へ飛び込む。


 扉が閉まる。


 エンジンが唸りを上げる。


 ゴォォォン!


 宇宙船が一気に浮かび上がった。


「待てぇぇぇ!」


 ヘイゾウの声が遠ざかっていく。


 宇宙船は、そのまま空へ飛び立った。


     ◇


 ヘイゾウは飛び去っていく宇宙船を見上げていた。


 やがて、小さく息を吐く。


「……今回は、あの娘たち二人に免じて見逃してやる」


 隣にいた二人の警察官が驚く。


「よろしいのですか?」


「構わん」


 ヘイゾウは宇宙船を見つめたまま続ける。


「それと――」


 小さく笑う。


「ヴァレリア。お前からの頼みは、果たしてやったぞ」


「……?」


 警察官二人が顔を見合わせる。


「ヘイゾウ警部?」


「何でもない」


 その時だった。


 地下道への入り口から――


 ドォォォォン!!


 巨大な爆炎が噴き上がった。


「な、何だ!?」


 セリアが驚いて振り返る。


「何なの、あれ?」


 ノアも爆炎を見る。


 ヘイゾウの表情が変わった。


「あいつだ」


「知ってるの?」


 セリアが尋ねる。


「ミンミンだ」


「あの何でも燃やすといわれている一つ星の?」


 セリアがヘイゾウに確認する。


「そうだ、あいつを逮捕する為にこの星にきたんだ、盗賊団の小物などついでだ」


 ヘイゾウが真剣な面持ちで答える。


 爆炎の向こうから、一人の男が歩いてくる。


 名前とは裏腹に、見た目は完全にヤンキーのような風貌だった。


 鋭い目つき。


 乱れた髪。


 荒々しい雰囲気。


 両手には、サッカーボールの二倍ほどもある巨大な火の玉が浮かんでいる。


「俺を逮捕するつもりか?」


 ミンミンが笑う。


「それなら――」


 両手の炎が激しく燃え上がる。


「お前ら、全員燃やしてやるよ!」


 ヘイゾウは動じない。


「お前などに、我々を燃やすことはできん」


「何だと?」


 ミンミンが踏み込む。


 その瞬間――


 両手に浮かんでいた炎が、急に小さくなった。


「……?」


 炎がさらに小さくなる。


 そして――


 スッ。


 二つの炎が消滅した。


「なっ……!」


 ミンミンが目を見開く。


「俺の炎が……?」


 次の瞬間。


 ミンミンが身体を動かす。


 その身体から――


 ピッ。


 一筋の血が流れた。


「……何だ、これ」


 腕。


 肩。


 脚。


 身体のあちこちから、次々と血が滲む。


「何をしたぁ!?」


 ミンミンが叫ぶ。


 ヘイゾウは静かに右手を上げた。


「わしのゼウスで捕らえただけだ」


 ミンミンの身体が動かない。


「わしのゼウスは――」


 ヘイゾウの目が鋭くなる。


「全てを捕らえ、全てを切り裂き、全てを封じる」


 ミンミンが歯を食いしばる。


「くっ……!」


「お前ら悪党を捕まえるためのゼウスだ」


 ミンミンは抵抗しようとする。


 だが、身体は動かない。


 そのままヘイゾウの前に拘束される。


「……」


 セリアが息を呑む。


「流石は、警察一のゼウスの使い手……」


 ヘイゾウを見る。


「二ツ星のヘイゾウ警部ね」


 ヘイゾウは何も言わない。


 ただ、拘束されたミンミンを見ていた。


 ミンミンはそのまま宇宙警察に連行されていく。


     ◇


 一方、その頃。


 無事に宇宙へ飛び立った五人は――


「……」


「……」


「……」


 こうき、ひろき、みずきの三人が正座させられていた。


 目の前には、腕を組んだゆき。


 その隣にはサクラもいる。


「せっかく三人が釈放されるように頑張ったのに」


 ゆきの声は低い。


「何してくれてんの?」


「俺たちだって、鎖を壊すの頑張ったぞ」


 こうきが反論する。


「そういうことを言ってるんじゃない!」


「……」


 三人が黙る。


「私たちがどれだけ頑張ったと思ってるの?」


「……」


「それを、最後の最後で台無しにして」


「……」


 こうき、ひろき、みずきは顔を見合わせる。


 これ以上言い返してはいけない。


 三人は、ゆきが本気で怒っている時は、黙って頭を下げるのが一番だと知っていた。


「……申し訳ございません」


 三人が揃って頭を下げる。


「……よろしい」


 ゆきが腕を組んだまま頷く。


 サクラはそんな四人を見て、思わず笑った。


「もう、次はちゃんと気をつけてね」


「はい……」


 三人が揃って答える。


 こうして――


 ノクティアでの騒動は、ひとまず幕を閉じた。


 五人は新たな星の雫石を手に入れ、再び宇宙へ旅立った。


 そして、次に待つ星には――


 また新たな戦いが待っている。

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