↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
1/7

無駄死にから始まる異世界転生

 俺の名前はミカガミ・アサヒ。どこにでもいるごく普通の高校生――といっても、友達は一人もいないし、休日は大抵一人でゲームをして過ごす。特にRPG、それも剣と魔法のファンタジーものが好きだ。運動なんて今までしたこともないし、これから先もするつもりは一切ない。


 その日は一月二十三日、日曜日だった。いや、正確には俺はいつも通り学校――山田高校の教室にいた。そう、金持ちしか通えないような、あの名門校だ。女子生徒たちの服装なんて、とても高校生には見えない。まるでヴィクトリア朝のフランス貴族の夜会かと思うほどだ。男子の方はといえば、話題は親の職業か、誰が一番金を持っているかばかり。要するに、ただの負け犬の集まりだ。


 俺がこの学校に入れたのは、ある推薦のおかげだった。とはいえ、この見た目じゃ誰も信じないだろう。九十年代の不良みたいな目つき、猫背、そして半分ゴブリンみたいな歩き方。それでも俺は頭がいい。この名門校で学年九位を取れるくらいには。まあ、やっていることといえば、汚いゲームに没頭するか、夜遅くまで勉強するかのどちらかだけどな。


 教科書を抱えて廊下を歩く。廊下は俺の部屋よりよっぽど綺麗で、窓には高級皮革でできたカーテンまで下がっている。周りの生徒たちはいつも通りのくだらない話をしていた。


「ママが新作のコスメ買ってくれたのー!」「野球の試合のチケット取ったんだ」「この制服、私に似合ってると思わない?」


 彼女たちのあの耳障りな笑い声を聞くたびに思う。おかしいのは俺なのか、それとも本当にこいつらがうるさいだけなのか――と。頭を抱えてため息をつく。「過去の俺よ、もう少しマシな選択はできなかったのか。頼むから、これ以上やめてくれ」


 そうやって教室に向かって歩いていると、声に呼び止められた。


「アサヒィィィくん!」


 ……ああ、そういえば、さっき友達がいないって言ったのは嘘だった。声のした方を振り向くと、無理やり笑顔を作る羽目になる。


「お……おはよう、ユキ」


 彼女は幼馴染のヤマザキ・ユキ。身長156センチ、ピンク髪をポニーテールにしている。出会ったのは俺が七歳の頃、父親同士が同僚だった縁だ。誇れる関係とは言い難い――彼女はいつも問題を持ち込んでくるし、とにかくよく喋る。


 彼女は走って俺の前まで来ると、頬を膨らませていつもの顔をした。


「もーっ! アサヒ、なんで今日は待っててくれなかったのよ!」「遅れてきたのはユキの方だろ。十五分も待ったんだぞ」「アサヒ、女の子は準備に時間がかかるものなの! ……ふん、もういい。あんたみたいな一人ぼっちには分かんないでしょうけど!」


 そう言って腕を宙に振り上げる。まるでそれが確定事項であるかのように。


「ユキ、俺を世捨て人みたいに言うのはやめろ」「事実じゃない!」


 ……まあ、間違ってはいない。「目標のない孤独な若者」の見本を挙げろと言われたら、間違いなく俺が選ばれるだろう。


 ユキはそれから見た映画の話を延々と続けた。まるで俺が見る予定であるかのように。


「ねえアサヒ! アサヒ、最近小説を読み始めたの」


 そう言う彼女の顔は、なぜか赤くなっていた。


「なんでトマトみたいに赤くなってるんだよ」「もーっ、バカ! あんたには分かんないの! それより、異世界ものの小説を読み始めたって言ったでしょ」「異世界……ああ、異世界ね」


 俺は言った。


「もう一回説明してくれよ。異世界ってのは、現実で何も持ってない負け組が、自分の情けなさを誤魔化すために、魔法だの化け物だのがいる世界に転生して、なんの理由もなく最強になってハーレム作る妄想をする、あのくだらないジャンルだろ? 遠慮しとくよ、ああいうのは好きじゃない」


 ユキは瞬きしながら、じっと俺を見つめた。


「な、なんだよ、なんでそんな目で見るんだ」「あ、いや……あんたにその特徴、全部当てはまってるなーって思って、ちょっとショック受けてるだけ」「はぁ? どういう意味だよ」「だから、その特徴、全部あんたに当てはまってるってこと。これ、結構ヤバくない?」


 そう言って、うるさく笑い出した。


「はいはい、もういい。教室戻るぞ、休み時間終わるだろ」「はーい、アサヒ!」


 そう言ったあと、彼女は振り返って俺の前に指を突きつけた。


「ねえ! 放課後、橋のところで待っててね。話したいことがあるの」


 ……は? 何の話だ? いつも通り家まで送らせるつもりかと思ったが、今日はどこか様子がおかしい。彼女はもじもじと落ち着かず、頬を赤らめたまま、俺と目を合わせようとしなかった。


「なあユキ、本当に大丈夫か? 具合悪いのか?」


 彼女は激しく動揺しながら答えた。


「わ、私は……大丈夫だから!」


 その時、休み時間終了のチャイムが大きく鳴った。


「あっ! チャイム! もう教室戻らないと!」


 そう言って俺を思いきり押しのけると、


「おい、なんで今日はそんな変な態度なんだよ」「なんでもないから!」


 押しのけたと同時に走って離れていったが、途中で立ち止まって叫んだ。


「忘れないでよ! 橋のところで待っててね! 来なかったらぶん殴るから!」「わかったわかった、行くから」


 彼女はさっきよりずっと明るい笑顔を浮かべて、走り去っていった。


 教室に戻り、席に着く。頭の中は「ユキはどうしたんだ」でいっぱいだった。あいつ、いつもと様子が違う。……いや待てよ。まさか、告白か? ユキが俺に告白するっていうのか?! いやいや、あり得ない! 十年の付き合いだぞ、兄妹みたいなもんだ……でもそれって、逆に脈ありってことじゃないか? いや、あり得ない! ああクソ、こういうの本当に苦手だ!


 そうやって頭の中で悶々としていると、先生の声が聞こえた。


「アサヒくん!」「は、はい?」


 黒板の問題を解くよう指名されたらしい。立ち上がって解き始め、六分ほどで解き終えた。


「おお、さすがアサヒくん、今日も見事だ!」


 軽く頭を下げて席に戻る。……よし、ユキのことは一旦忘れよう。あとで全部わかることだ。


 時間は瞬く間に過ぎていった。一時間、二時間、三時間、四時間……そしてついに、放課後を告げるチャイムが鳴った。みんなと一緒に立ち上がり、荷物をまとめて教室を出る。頭の中では「なんでよりによって橋で待ち合わせなんだ」という疑問がずっと渦巻いていた。


 校門に急ぎ、靴を履き替えて外に出た。橋に近づくにつれ、心臓の鼓動がどんどん速くなる。緊張のせいで、待ち合わせ時間よりずっと早く着いてしまった。あたりを見回す。空はよく晴れていて、オレンジ色に染まり、気候も暖かかった。


 ユキを待っていると、強い風が吹いて、服と髪が大きくなびいた。そうやって物思いにふけっていると、橋の向こう側から声が聞こえた。怯えた女の子の声だ。振り向いた瞬間、目に入ったのは――橋から落ちようとしている女の子の姿だった。


 気づいたら体が動いていた。理由なんてわからない。俺は基本、他人のことに首を突っ込まない主義のはずなのに。駆け寄ってその子の腕を掴み、安全な方へ押しやった。だが自分の足がもつれて、そのまま――落ちた。


 落ちる寸前、橋の反対側に、こちらへ駆けてくるユキの姿が見えた。だが長くは見ていられなかった。すぐに、俺は落下していったから。


 落ちていくあいだ、自分の人生の出来事が次々と目の前を流れていった。父との最初の記憶、初めて歩いた日、初めて学校に行った日、ユキと初めて出会った日、そして好きだったすべての顔。あとは、ずっとやりたかったのにやらなかった、くだらないことの数々。生まれて初めて、心の底から後悔した。自分の人生を、何の意味もないことに費やしてしまったことを。涙がこぼれた。もう一度、人生をやり直せたらいいのに――それが俺の唯一の心残りだった。


 そして――


「いてっ! ここどこだ? 頭が痛い……」


 目を開ける。……待てよ、俺は本当にどこにいるんだ? 真っ白な部屋の中にいた。何もない、ただ真っ白な空間。……ここは天国か?


 呆然としてあたりを見回していると、扉が開いて、白い髭を蓄えた禿頭の男が、目を閉じたまま白いローブ姿で現れた。妙にドラマチックな仕草で降りてくると、しばらくの間、俺とその男は無言で見つめ合った。


「あの、失礼ですが、あなたは誰ですか?」


 男は激しく咳き込んだ。俺は思わず一歩後ずさりする。それから、彼はこう言った。


「アサヒくん、だね?」「な……なんで俺の名前を知ってるんですか?」(これが俺の最初の疑問だった) 「知らないわけがないだろう」「私が、君を殺したのだよ」


 そう言いながら髭をいじり、続けた。


「私が、君を殺した」「はぁ?! どういう意味ですか、俺を殺したって?!」(思わず声を荒げた) 「落ち着け落ち着け、説明するから」「でも、俺は自殺しようとしてた女の子を助けたはずです、そうですよね?」「残念だが、違うのだよ……あの子は自殺しようとしていたわけではない。風で帽子が飛ばされただけだ」


 信じられない思いで彼を見た。


「つまり、俺は何の意味もなく死んだってことですか?!」「そうだ! 面白いと思わないか?」「俺の死のどこが面白いんですか、このバカジジイ!」


 そう叫んだ瞬間、膝から力が抜けて、その場に崩れ落ち、頭を垂れた。


 老人は言った。


「まあ待て、心配するな。ちゃんと解決してやる! 何しろ、私は――神なのだから」「あなたが……」(俺はもう一度繰り返した)「……神様だって?!」「そうだ、私は神だ! よく聞こえなかったか? 死んだショックで耳までおかしくなったのか? まあいい……」「なあアサヒくん。君の人生はろくなものじゃなかった上に、その死の原因は私にある。詫びとして、君を別の世界に送ってやろうと思うのだが、どうだ?」「……どういう意味ですか? まさか、異世界ってことですか?」


 彼は頷いた。


「そうだ、君たちの言葉で言うところの、な」


 俺は心の中で思った。異世界転生って本当にあるのか……? そして叫んだ。


「魔法とか、モンスターとか、魔王とかいるんですか?!」


 神は笑って言った。


「それどころじゃない、何でもあるぞ! 詫びとして、君をその世界でとびきり強く、名のある存在にしてやろう。どうだ?」


 俺は床に座り込み、あぐらをかいて考えた。「まあ、どうせもう死んでるんだ、今さら泣いても仕方ない。それに、これはずっと望んでいたチャンスじゃないか……」


 だが最後まで考えを口にする前に、神が言った。


「送る前に、一つ謝ってもらおうか」


 俺は彼を見た。


「謝る? 何をですか? どういう意味ですか?」「君はいつも、異世界転生に憧れる人たちを『負け組』呼ばわりしていたな……今の君は、まさにその一人なんじゃないか?」


 顔が赤くなった。


「本当に神様なんですか、それ?!」


 彼は微笑んで言った。


「冗談だよ! さあ聞け、異世界で必要なものは全部やろう」


 そう言って杖を呼び出す。それは金と、見たこともない赤い素材でできていた。杖を手にすると、彼は唱えた。


「転移!」


 白い光が俺を包み、体が消えていくのを感じた。神は俺に向かって手を振った。


「アサヒくん、体に気をつけて、しっかり人生を生きるんだぞ。いいな?」


 俺は彼に微笑み返した。


「はい、神様。ありがとうございました」


 アサヒの姿が消えた瞬間、扉から白髪の美しい天使が現れた。翼は高級クッションのように真っ白で、彼女はこう尋ねた。


「神様、彼のこと、転移させたんですか? それとも転生させたんですか?」


 神は間の抜けた顔で彼女を見た。


「え……お、俺も……知らない!」「知らないんですか?!」


 天使は彼の顔を平手打ちして言った。


「本当に頼りにならない神様ですね、まったく!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。