9.ゲータ・ロス副団長
副団長は、本人不在の団長室でお茶をすすめてくれた。
いいのだろうか?
アーツは受付の人のニュアンスと、目の前の副団長の様子、あまりに違う団長への対応に戸惑っていた。
二つのカップを置くと、アーツの目の前のソファに腰掛けた。そして、自己紹介を始めた。
「それでは!改めまして。僕は、ゲータ・ロス。第三騎士団の元団長です。今は副団長ね。団長の座を、ヴァルに奪われて、断腸の思い!なんちゃって!」
……。どうしよう。笑うところ?誰か……。助けて……。
ちらちらと扉を見る。でも、誰も入ってはこなかった。
「ま、冗談だからね。僕がヴァルをスカウトしたんだよ。僕の次くらいに魔法剣の才能がある公爵令息がいるって聞いてね!第一騎士団にとられる前に、猛ダッシュ!あふれる熱意で、しぶしぶ来てもらったんだ!」
「ブフゥっ」思わず笑ってしまった。渋々頷いたヴァルを想像できたからかもしれない。
「僕ねぇ。天才魔法剣士なわけ、だからって団長にならされたんだけど、会議とか、ほんっとに向いてなくてさぁ。魔物倒してるほうが、なんぼもマシってね!それで悩んでたら逸材に出会ったってわけ。僕ほどの天才じゃないけど、公爵令息なら団長の肩書に不足なし!ってね!」
なんだか、楽しくなってきたかも。この人、いい人かも。
「ムラノ団長くらい神経が極太に出来てたら、王族を交えての会議なんかでも、へっちゃらなんだろうけどねぇ。僕なんか、神経が脆いからさぁ。ま、という訳で、ヴァル様、恩人様な、訳!」
口を開くたびに面白くなってくる。この人好きかも。クスクス笑って聞いていると、
「ロス副団長、いったい何をやっているんだ?」
血が凍るような声がした。愉快な会話(かなり一方的だけど)を止めたのは、この部屋の主だった。
「あ、ヴァル、お客様をおもてなししてたんだよぉ」
「お客様!?僕、お客様じゃないです。入団のオファーお受けしようと思って、それを伝えたくって。突然来てしまって、すみません。僕、予約とか必要なの知らなくって……」
「構わない。君ならいつ来ても。受付に言っておく。それから、入団の件、了解した。改めて書類が届くように手配しておくので、指示に従って手続きしてくれ。以上だ」
「は、はい!よろしくお願いします!」
アーツは、『以上だ』の言葉に、瞬時に敬礼のポーズをとって、退室した。
第一騎士団で見慣れた、上官からの指示を受けた部下の動きだ。
自分でこれをやることになったんだ!と密かに感動して、退室したアーツは、部屋のなかで驚いたまま固まっているロスの存在を完全にスルーしていた。
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驚きから復活したロスは、あの子は誰?入団って何?と、とりあえずの疑問をぶつけた。
本当は、『君ならいつ来ても構わない』というセリフが一番引っかかったんだけど、後回し!
どうやら、ロスが団長職から自由になって、魔物討伐三昧している間に、王都では面白いことが起こっていたようだ。
経緯を聞くと、突っ込みどころが満載だった。ヴァルなりに、いろいろ回りくどく言っていたが、要約すると、第二騎士団にストーカーに行き、第一騎士団に、『俺のかわいこちゃんに手を出すな』と威嚇をした、らしい。
これは……。ムラノ団長やフリント団長を訪ねて詳細を聞き出さなければ!
楽しい日常が、かわいい少年とともにやってくる!ロスの足は軽快なステップをふんで第二騎士団へ向かっていた。




