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96. 皆はあなたのために……!

 埼玉県若緑市 一ノ谷邸

 今まで気丈に振る舞っていた一ノ谷家の総大将、一ノ谷十三は、敗戦を告げられた将の如く、驚きと絶望の表情で魔法使いが貼った画像を見つめていた。

 顔バレを防ぐ為に顔の半分以上は黒いスマホで隠し、口には黒いマスクを着けているカケル。顔のほとんどは見えないが、長い前髪から覗く目は鋭く前を……一ノ谷家を睨みつけていた!


「じ、ジイジ……エイトゼロロクって……?」


 英麿が祖父に問いかけた時、掲示板に新たな投稿……そのエイト06を持つ魔法使い、ペケゾーの書き込みだ。


「あ……!」

 弁護士の東が、思わず声を出す……。

 ペケゾーの投稿には、いくつもの音声ファイルが張られていた。


「こ……これって、まさか…………」


 …………英磨が心配そうに聞くなか、確認するしかないだろう……と東がクリックする。




「ちょいと脅せば、言うこと聞くだろう……痛めつけてやれ」



「や、やめろおおおおおお!!!」


 一ノ谷十三が、これ以上ないってくらいの大声を出す……!


「じ、ジイジ……落ち着いてくれ!」


「ど、動画を止めろ!! なんで流す!?

 わしをはめたいのか! 逮捕させたいのか、ええおい!!」


 老将軍は狂ったかのように東の胸元を掴むと、顔をこれでもかと近づけ怒鳴り散らす! 顔面に老人の唾を受けながらも、東は冷静を装い対処する。


「一ノ谷家を陥れる気など、毛頭ありません! あくまでも確認の為です!」

 東が弁明している横で、無情にも音声が流れていく…………。



「鈴木の件では、よくやってくれた! もちろん報酬は払う。手渡しがいい……人をよこしてくれ」



 2X26年2月11日 〈2X24年度卒業生〉ペケゾー

 元法務次官が、反社に報酬を払ってるところもバッチリ記録されている

 それ以外にも、まだまだあるぞ!

 在在センが機能不全に陥ってるから、記録されないと思い油断したか?



「やめろ…………やめろ、やめろ! やめろおおおお!!

 そのファイルを今すぐ消せ! 消せ消せ!! 消せえええええ!!」



 2X26年2月11日 〈2X24年度卒業生〉ペケゾー

 可憐さんへ謝罪しろ!

 そして真実を書き込め!

 あの日、可憐さんになにをしたのか!

 そしたらファイルを消してやる!!



 2X26年2月11日 〈2X24年度卒業生〉一ノ谷英磨

 それじゃどのみち、一ノ谷家は終わる!

 レイプした挙句、その女性が自殺したなんて……

 一ノ谷家は終わってしまう…………!


 2X26年2月11日 〈2X24年度卒業生〉大林美月

 それだけのことをしたんだ! お前は!!!

 可憐がどんな気持ちでビルの屋上から飛び降りたか、

 考えたことがあるのか、貴様!!



「くそ……クッソ! クソ!!」


 英磨はパソコン前の東を押しのけ、悔しさにその身を震わせながら自らキーボードを打つ。


 2X26年2月11日 〈2X24年度卒業生〉一ノ谷英磨

 赤木家には危害を加えない

 酒井可憐の墓参りもする

 約束する!

 だから……見逃してくれ、頼む!!



 今まで好き放題に生きてきた英磨がこの投稿をするのは、屈辱以外の何物でもなかった……。しかし、そう書き込むしかなかった……!

 一片の情けを期待しての投稿だったが、それはあっさりと否定される。



 2X26年2月11日 〈教員〉コジロウ

 てめえの約束なんぞ、アテになるわけねえだろが!


 2X26年2月11日 〈2X24年度卒業生〉大林美月

 見逃しなどするか!

 いい加減、腹をくくれ!!

 男だろ!



「…………くそがよおお……!

 お前らには、人に対する情けってもんがないのか!」


 隣で、うっかり呆れた表情を出してしまった東には気づかず、英磨は更なる書き込みをする。


 2X26年2月11日 〈2X24年度卒業生〉一ノ谷英磨

 なんで……なんで可憐にこだわる?

 赤木、お前はただのクラスメイトだろ

 2年前のクラスメイトことなんて、もう忘れろよ

 忘れてくれよ!!



 2X26年2月11日 〈2X24年度卒業生〉赤木大輔

 可憐さんは、いつもみんなの為に行動してくれていた

 デブでアニオタのおれなんかにも、分け隔てなく優しくしてくれた


 可憐さんは皆のために……


 だからおれ達は、可憐さんのために!



 大輔の言葉に続くように、美月が静かに……しかし力強くキーボードを叩く。


 2X26年2月11日 〈2X24年度卒業生〉大林美月

 皆は一人のために!



 2X26年2月11日 〈教員〉コジロウ

 同じく、皆は一人のために!



 2X26年2月11日 〈2X24年度卒業生〉ペケゾー

 皆は一人のために!



「か、かっこつけるな! 三銃士かよ!!

 皆は……って、四人しかいねえじゃねえか! しかもその内二人は、部外者だ…………。みんな可憐のことなんて忘れてる。

 もういいだろ……! 忘れられた女のことなんて…………」


 泣きべそでもかいてるかのように、叫ぶ英磨……それを隣でじっと見つめる東。


「…………な、なにボ~~っとしてる!

 書け! 書き込め、東!」


「は、はい……!」

 聞こえぬほどの小さな舌打ちをした東が軽快に文字を打つ。



 …………英磨の新たな書き込みを見た大輔が反論しようとキーボードに手を伸ばす………………が、その手が止まった。

 掲示板にまた新たな書き込みが投稿されたが、それはブラマスのメンバーでも英磨のアカウントでもなかった。




 2X26年2月11日 〈2X24年度卒業生〉佐藤守

 酒井可憐さんのこと、忘れてないぞ

 高校二年生の時のクラスメイトだ



 え……? 佐藤、守…………って…………


 あ! 家に引き籠って、ほとんど学校には来なかった人……。



 2X26年2月11日 〈2X24年度卒業生〉佐藤守

 保健室登校をしていた時、会いに来てくれた

 挨拶程度の話だったけど、嬉しかった

 今でも自分はヒキコモリだけど、酒井さんのことは忘れてない

 忘れてないから!!




 佐藤君…………可憐さんのこと、憶えててくれたんだ……。

 そして、書き込んでくれた……! ありがとう。



 2X26年2月11日 〈2X24年度卒業生〉一ノ谷英磨

 佐藤って誰だよ!

 お前らが、わざわざ呼んだのか?

 それとも自作自演か? せこい手使いやがって!



 2X26年2月11日 〈2X24年度卒業生〉赤木大輔

 人聞きの悪いことを言うな!

 可憐さんを思ってるのは、おれ達だけじゃないってことだ!



 2X26年2月11日 〈2X24年度卒業生〉一ノ谷英磨

 どっちにしたって、関係者三人だけじゃねえか!

 三人で皆とか言うな!



 そう書き込み、投稿する英磨陣営。

 投稿と同時にスレッドが更新される。その更新されたスレッドに表示されたのは…………




 2X26年2月11日 〈2X24年度卒業生〉西村浩二

 酒井さんは、同じ教室で共に学んだクラスメイトだ

 決して忘れ去られた人なんかじゃない!

 忘れてない、忘れてないぞ!!



 2X26年2月11日 〈2X24年度卒業生〉大山まつり

 酒井さんのことは忘れてません!

 酒井さんと同じ、吹奏楽部でした

 上手く演奏できずに、みんなの足を引っ張ってばかりだったわたしを酒井さんはいつも励ましてくれた

 これからも絶対に忘れない!!



「な…………!」

 唖然とする英磨……。しかし、卒業生達の投稿は続いていく……!



 2X26年2月11日 〈2X24年度卒業生〉岩城純子

 酒井さんが亡くなった時、なにも力になれなかった

 忘れてなんかないよ!

 酒井さんのことも、なにもしなかったあの時の自分も……!

 ごめんね、酒井さん 本当にごめんなさい




「…………みんな……!」

 モニターを見つめる大輔の目から一筋の涙が流れ…………やがてそれは、大粒の涙へと変わっていく……。

 それは大林美月も同じだった。


 東京のマンションの一室、美月は更新されていくスレッドを溢れる涙越しに見ていた。


「みんな…………みんな、忘れないでいてくれた……! ありがとう……ありがとう!」


 ギフテッドのハッカーコジロウは、それを満足げに見つめ……学校に通ってないヒッキーのカケルは、酒井可憐の同級生達の思いに後ろめたさを感じながらも、琴線キンセンを震わせていた。

 若緑高校のスレッドには、わずか17歳で悲痛な最期を遂げた酒井可憐への想いが、次々と綴られていく……。




 2X26年2月11日 〈2X24年度卒業生〉鮫島夏帆

 酒井さんとは一年の時、クラスが一緒だった

 明るく優しい性格で、誰からも好かれていた

 飛び降りて亡くなったと全校集会で聞かされた時は、涙が止まらなかった

 忘れてなんかないよ!!



 2X26年2月11日 〈2X24年度卒業生〉井出百合恵

 酒井さんは誰にでも優しい人だった

 一ノ谷君! そんな人に、なんであんな酷いことをしたの?

 棺の中で眠っていた酒井さんの顔を今でも思い出す……!

 絶対に忘れないから!!



 2X26年2月11日 〈2X24年度卒業生〉森山賢二

 健気で、可愛くて……みんなのアイドルだった

 レイプされたって話を聞いた時は、ショックでなにもできなかった

 恐かったろうな……悔しかったろうな!

 忘れるわけないだろ! ずっとずっと忘れない!!


 皆は一人のために!!




 …………美月は、赤くなった目より溢れる涙を何度も手で拭いながら、一人呟く……。



 可憐……あなたはきっと、天国に行っている……。

 その天国から見てくれてるか?

 みんな、あなたのことを忘れていない……!



 若緑高校を卒業して、約一年……。

 スレッドに流れてくる同級生達の名前を見る毎に、高校時代の思い出が走馬灯のように頭に浮かぶ……。



 制服を着て通った通学路

 その先に聳え立つ若緑高校の校舎

 登校する生徒達のざわめき、教室の窓に注ぎ込む陽射し……

 なにもかもが眩しくみえた、あの頃…………。

 そこにはいつも……友達がいた。

 頑張り屋で、優しくて……いつも笑顔で自分を迎え入れてくれた人…………。


 あなたと帰った夕暮れの道……その道は、ずっと未来まで続いてるものだと思ってた。

 ともに歩き、ともに大人になっていくのだと思っていた。

 だけど……その道の隣に、あなたはいない。


 あなたと共に人生を歩むことは、もう叶わない…………。

 だけど、あなたとわたしは若緑市の学び舎で共に学び、遊び、お喋りをし……ともに青春の風を感じ合った、かけがえのない友達…………




 親 友 だ !




 ありがとう、酒井可憐。


 あなたのことは、ずっと忘れない……!

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