94. 魔法使いは呪文を唱える
2X26年2月11日 〈2X24年度卒業生〉一ノ谷英磨
赤木大輔とやら!
貴様、めでたい正月の日に、わしの孫を殴りつけたな!
それだけのことをしておいて、なぜ保護観察処分で済んだのか分かるか!?
【東京都西伏見 稲田大学学生寮】
……口調から言って、英磨のおじいさんの意見か?
…………たしかに少年院にでも入れられるのかと覚悟していたが、保護観察で済んだ。それも一年ほどで前倒し終了した。
なんだよ……情けをかけてやったんだ、とでも言うのか?
2X26年2月11日 〈2X24年度卒業生〉一ノ谷英磨
あのあと、お前の両親が謝りに来たんだよ
父親と母親二人……我が家の門の前で土下座した
額を地面に擦りつけ、ひたすらわしに許しを乞うた
だから、お前を許してやったんだ!
な…………!
大輔はそれを初めて聞いた。
逮捕された時、両親が大輔に言った言葉は
「お前はずっとおとなしい奴だと思ってたが……クラスメイトの為に闘える、強い男だったんだな。やってしまったことは罪だが、その気持ちは正しい!」
その時、大輔は自分の気持ちを理解してくれた両親に深く感謝をしていた。まさか自分がしてしまった罪を償うため、一ノ谷家に土下座していたとは思いもしなかった……。
小太りで美人ではないが、明るい母親
無口で頑固だが、優しい父親
その二人が一ノ谷邸の門前で、縮こまるように土下座をしている姿が脳裏に浮かんだ…………。
大輔の目から、涙がこぼれ落ちた。
「父さん……母さん…………!」
そしてスマホが鳴る。発信者は不明…………しかし!
2X26年2月11日 〈2X24年度卒業生〉一ノ谷英磨
電話に出ろ、アニオタ!
…………大輔は、火傷痕が残る左手を伸ばしてスマホを手に取る。
「……もしもし」
「久しぶりだな、赤木……」
「…………英磨!」
「呼び捨てにしやがって……! まあいい…………手短に話すぞ。
告発はやめろ、大林にも言え! それとこのスレッドも削除しろ。今すぐやれ! 断るなら、どうなるか……わかってるよな?」
「……………………」
■酒井カレン@blackmask79 2月11日
おい、大輔
英麿が、お前に電話かけてるのか?
ゼータのPM欄に美月が書き込む。
■red tree @blackmask5g 2月11日
うん
英磨が、かけてきてる
告発をやめて、スレッドも削除しろってさ
電話口の英磨が、せかす。
「おい、デブ! 返事はどうした!!!
てめえんトコのネギ畑、今年からの収穫は0になるぞ!!」
■コジロウ @blackmask99z 2月11日
はあ~~?
なんで告発を止めなきゃいけねえんだよ!
■酒井カレン@blackmask79 2月11日
……ネギ畑だ
大輔の実家、若緑市のネギ畑を人質にとられた
そうだろ……大輔
東京都、稲田大学学生寮。
大輔が苦悶の表情を浮かべている……。
自分の身に危害が加わることは、覚悟していた。子供の頃からバカにされてきた……いまさらバカにされようが殴られようが、どうでもいい…………しかし!
危害が両親に及ぶことは想像できなかった……。
ネギ畑を荒らされる……赤木家の大事な収入源だ。それがなくなったら…………。
また両親は一ノ谷家に頭を下げに行くのか……今度は土下座だけではすまないだろう…………。年老いた両親に、今また屈辱を味合わせるのか……自分がした行為の為に…………!
■red tree @blackmask5g 2月11日
そうだ……ネギ畑と両親を人質にとられた
どうしたら…………
■コジロウ @blackmask99z 2月11日
なんだそれ……!
論破できないとわかったら、今度は脅迫かよ!
悪党が本性現してきやがったな!!
■酒井カレン@blackmask79 2月11日
もういい
降りろ、大輔!
ここまでよくやってくれた
すまない……巻き込んでしまって
■red tree @blackmask5g 2月11日
自分の意志でBlack Maskになったんだ
美月さんのせいじゃない!
「おいこら! 返事しろ、デブ助!!
そうだ……もう一個条件追加だ!
あの時の借りを返す! てめえ、一発殴らせろ!!
じゃなきゃ、てめえの母親を殴るぞ!」
この…………この……!!
悔しさで大輔の目から涙が溢れた。
しかし、その悔しさをどうしていいかわからない……!
そんな中、ペケゾーことカケルが発言する。
ペケゾー@wizard34 2月11日
大輔さんが降りたところで意味はない
連中の要求は告発をやめることと、このスレの削除だ!
大輔さんが降りたって連中の脅迫は終わらない!
■酒井カレン@blackmask79 2月11日
じゃあ、どうする!?
大輔が追い詰められているなか、神奈川では魔法使いが一人、冷静だった……。
ヒキ板の魔法使いが相棒のベルに指示を出す!
「ベル! 若緑市で一ノ谷家との繋がりを噂されている反社会的勢力はどこだ!?」
「…………緑龍会です」
ペケゾー@wizard34 2月11日
大輔さん、断っていい!
おれを信じてくれ!!
魔法発動だ!!
一ノ谷家の暗部を曝け出す!!
「カケル……!」
カケル君……。
…………わかった……君を信じる!!
「おい、アニ豚! 早く返事しろ!!
あと10秒だ! じゅう~きゅ……」
「断る!!」
「ああぁあ!? なんだって!?」
「……断ると言ったんだ!!
こっちには魔法の力があるんだ……!
お前らの脅しには屈しない!!」
赤木大輔が決断を下す時、魔法使いは反攻の準備を着々と整えていた!!
「ベル! 一ノ谷家の固定電話、一ノ谷十三の携帯、またはその秘書の携帯の通話記録を全部調べろ!!
その中で緑龍会の事務所ならびに、所属している人間の携帯にかけた記録をピックアップし、その中から次に述べる単語が含まれてる通話記録を多い順に並べるんだ!!
調べる単語は、" 潰す 潰せ 消す 消せ 邪魔 殺す 殺せ 脅す 脅せ 処分 "だ!!」
「了解です! マスター!!」
ベルが目を閉じると、大きな眼鏡のレンズが白く光る!
検索モードへの移行だ! 光るレンズには、次から次へと検索内容の文字が流れていく…………!
そして埼玉県若緑市、一ノ谷邸。
「なにが魔法の力だ!
アニメの見過ぎで現実との区別もつかなくなったか!?
好きにしろや! てめえの実家がどうなっても後悔すんなよ!!」
英麿は通話を切ると、東に頼んで掲示板に新たな投稿をする。
2X26年2月11日 〈2X24年度卒業生〉一ノ谷英磨
一ノ谷家に逆らうなら、覚悟はできてるだろうな!?
謝罪なんかしない!
告発も許さない!!
若緑市民は一ノ谷家の栄光によって、生活できてることを知れ!!
その投稿を睨みつける男、神楽坂カケル。
その顔は、引きこもりの顔ではない……闘う魔法使いの顔だった!
「覚悟するのはお前らだ!!」




