90. 美月と陸
[ごっこじゃない!
こっちが正義だ!!]
ペケゾーこと、カケルが思わず書き込む……!
[ギャラリーのペケゾーさん、これはあなたが日頃読んでる漫画じゃないんですよ、現実です
現実の社会では、法律に基づいて話を進めていただかないと困ります]
弁護士の東の書き込みに、カケル……いや、ここにいるBlack Maskメンバー全員が苛立ちを覚える。
法律に基づいて………。不正アクセスによって入手したファイルを証拠として告発したところで、警察が動いてくれるかはカケル達には判断できなかった。
東京都西稲田 稲田大学女子専用学生寮
トゥルルルルル……!
夜の7時過ぎ……通話は、なかなか繋がらない。
なんだよ……家に居ないのか?
「もしもし……どうした、美月」
「陸……!
ひょっとして、まだ仕事中か?」
「そうだよ……営業マンの辛いところだ。今、取引先だ……どうした?」
「昨日の夜、話したろ? 英磨を追い詰める動画を見つけたって!
それで今、英磨と……いや、奴の弁護士とチャット中だ」
「………………」
「陸! もう少しなんだ……! もう少しで可憐の無念が晴らせる!
一ノ谷家を……告訴してくれないか? 可憐の兄である、お前が!」
「……昨晩話していた、動画を証拠にか?」
「そうだ! この動画があれば、可憐がレイプされたという証拠になる!」
「……それで英磨君は捕まるかもしれないが…………そのあとはどうなる?」
「…………どうなるって?」
「一ノ谷家の長男、英磨君が捕まったあと、一ノ谷家はどういう行動に出る?」
「…………なにが言いたいんだよ、陸!」
「なあ、美月……オレは今、株式会社グリーン食品で営業を任されている」
「そんなことは知ってるよ!」
「今、若緑市のスーパーにいるんだよ……自社の商品を取り扱ってもらうためにな」
「……………………」
「若緑市は、一ノ谷家の" お膝元 "なんだ……わかるだろ」
「…………陸。
可憐は……可憐は、お前の妹だろ!」
「可憐が生きてるんだったら、全力で戦う!」
「……………………」
「だけど…………可憐は、もう……戻って来ない」
「………………だから、なんだ……!」
「…………なんで、可憐にこだわる?
もう……戻ってこない…………」
「可憐は……可憐は、殺されたんだぞ!!
自殺とか言うな!! 殺されたんだ!!」
「……言いたいことはわかる! だけど…………
もう、可憐はいない……亡くなってしまった以上、なにを求める? 求めた先に、なにがある!?」
「なにがあるって…………!」
スマホで通話しながら、自然と美月の目には涙が溜まっていった……。
「陸、妹の可憐が死んで……ぐす…………悔しくないのか?」
「……悲しいよ。だけどな…………恨んでどうする?
" 汝の隣人を愛せよ "
カトリック教徒の可憐なら、そう言うだろう」
………………………………
「カトリック教徒とか言うな!!
性欲に任せて、わたしの身体さんざ抱いたくせに!!!」
「昨日だって……昨晩だって…………!!」
「美月……落ち着け」
「落ち着けだと!?
可憐より、仕事が大事か!!」
「……言ったはずだ。
可憐が生きて助かるなら、一ノ谷家だろうが全力で立ち向かう。だけど…………」
「だけど…………なんだよ!」
[今現在、可憐はもういない………………。
そして……オレは営業マンとして、若緑市に居るんだ……一ノ谷家には、逆らえない」
「…………情けないこと言うな! それでも男か!!!」
「……性別で人を責めるな」
「うるさい! ちくしょう、ちくしょう!!
…………もういい……もういい!!」
「……スーパーの店長が待ってる。もう行くぞ」
「………………どこにでも好きなところに行けよ……ぐす。
さよなら……」
涙声で、美月は返事をする……。
「………………ああ、さよなら」
酒井陸は……結末を知っていたかのように淡々と…………いや、寂しげに応えた……。
■red tree @blackmask5g 2月11日
美月さん!
告訴は、できそうか!?
ゼータでのグループチャット。
■酒井カレン@blackmask79 2月11日
…………無理だ
可憐の兄、陸に協力を求めたが無理だった
告訴ができない以上、告発だけでなんとかするしかない
■コジロウ @blackmask99z 2月11日
すまん!
おれが出しゃばったばっかりに、不利になった
ペケゾー@wizard34 2月11日
先輩のせいじゃないですよ!!
■酒井カレン@blackmask79 2月11日
ああ……■コジロウのせいじゃない
証拠さえあれば、なんとかなると思っていたわたしの責任だ
■red tree @blackmask5g 2月11日
美月さんのせいじゃない!
みんな思ってたさ……あの動画さえあれば、問答無用で英磨を追い詰められるって!!
【神奈川県蒼町】
ああ、そうだ……こちらが圧倒的に優位だと思っていた。だけど…………違った!
専門の弁護士を前にした時、流れは向こうに行ったきり…………こちらに主導権が渡ってこない。




