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80. イベントハンドラの偽装

 ロシア連邦 中国と国境を接する都市、ウラジオストク

 午後11時(日本との時差は1時間)日本時間午後10時


 初老の男性、加藤正幸は薄暗い部屋で一人、ノートパソコンを開いてチャットをしていた。

 チャットの相手はAI。カトウには恋人はもとより、友達と呼べる存在すらいない。唯一の話し相手は人のふりをしたプログラム、AIだった。


「ふぁあ~~あ…………そろそろ寝るか」


 大きなあくびをしつつ、加藤はチャット画面から抜ける。ノートパソコンの隣にあるテレビには、ウクライナ侵攻のニュースが流れていた。モスクワにウクライナ軍のドローンが爆撃をしかけたようだ。



「よくやるな……とっとと終わりにしてくれ」


 そう呟いた加藤正幸の国籍、守るべき祖国は、ロシア連邦である。2X24年4月にロシア国籍を取得したこの男の本名は、


 Като(カトウ) Масаюки(マサユキ) Кенджиевич(ケンジエヴィチ)


 そしてそのカトウの年齢は、56歳だ。

 ロシアの予備役上限年齢は法律改正により55歳まで引き上げられたが、現在のカトウはそれを" 運よく "クリアしていた。



 寝る前に、お気に入りの動画でも見るかな……。


 何年か前、海外のポルノサイトを探索していた時に見つけた動画……元々は、Japanese Teen foursome というタイトルだった。さして期待もせずに開いた動画に映っていたのは、明らかなレイプだった。しかも被害者は、可愛らしい女子高校生。


 誰がどういう理由で撮ったかは知らないが、これはお宝動画だ!


 そう思ったカトウは、動画が消される前に直ちにダウンロードし、万が一に備えてオンラインストレージにもアップロードした。

 以来この男は、この動画を自身の欲望を満たす為に何度も再生した。罪悪感など微塵もないまま、下半身にも白髪が生えたこの男は、自身を何度も慰めた。


 そして今もまた、その醜い衝動にかられようとしていた……。



 ズボンを下ろし、醜悪なものを出そうかとしていた矢先、ゼータに通知が入る。


 ……なんだよ!?


 カトウのゼータのフォロワー数は、一桁だ。数年前、気に入ってたアイドルのゼータを追いたくてインストールしただけで、ゼータを通じて話す相手などいない。コメントを付けたこともないので、いいねも当然来ない。

 " お楽しみタイム "を邪魔され、不機嫌になっていたカトウだが、なんで通知なんて来るのかと興味本位に通知欄を覗いてみる……。



 ■コジロウ @blackmask99z 2月10日

 Добрый веч( コンバンハ)、加藤正幸さん!

 垢名のピロシキって、あんたの好物?

 いや、あんたの好物って、女子中学生とか高校生だよなあ~~!

 ロリコンの変態野郎さん、ここであんたの個人情報バレてるぜ!!



 そのゼータのポストには、■コジロウと名乗る者の書き込みと、URLが貼られていた。



 ……おい、なんだこれ…………。このコジロウとか言う奴、なんで俺の本名知ってんだ……!?

 ……ぶら、ぶらっくますく…………?


 カトウは、■コジロウのあとに続くユーザー名を読む。



 Blackブラック Maskマスク……。

 ああ、あれか! コロナが流行った時、マスク着けようぜ~ って、掲示板のマルバナにコピペしまくってた連中。ミツボシ電機の社長とも喧嘩して、ホームページをハッキングとかしてたよな……?

 マルバナから生まれた日本のハッカー集団……そいつらがなんで、俺んとこに来てんだ!? 俺は一流企業の社長でもなんでもないんだぞ!!

 俺の個人情報がバレてるって、どういうことだ……



【ダークウェブ 掲示板ネギバナ】

 ■Blackブラック Maskマスクスレッド


 [で、コジロウ

 どういう手を打ったんだ?]


 [イベントハンドラの偽装 

 scriptスクリプトタグじゃなく、onerrorオンエラーで発動するコードを書いた]


 [先輩、まったくわかりません!! 泣き]


 [泣くな! いいか、ペケゾーちゃn

 まずJavaScriptジャバスクリプトコードを実行させるにはなあ]


 [まて、コジロウ! わたしが説明する

 お前は人にものを教えるのが、超絶下手くそだからな]


 [ちぇ、ひっでえの!]



 [いいか、kペケゾー

 簡単に言うとコードってのは、プログラムという魔法を発動させる為の呪文だ

 呪文コードを唱えることで、魔法プログラムが発動される

 そしてそのプログラムはサイトに必要なプログラムだったり、ハッカーが仕組んだ悪意あるプログラムだったりもするわけだ]


 [うん なんとなくイメージできた]


 [つまり、サイトのセキュリティにしてみれば、魔法プログラムを発動させる呪文コードを制限してしまえばいいわけだ

 サイトに必要な魔法プログラムは残し、悪意ある魔法プログラムを発動させる呪文コードのみを封じ込める]



 [だけどよ、ペケゾーちゃん

 必要な呪文コードを残して、悪意ある呪文コードだけを封じるなんて都合良いこと、できねえのよ

 全ての呪文コードを封じられない以上、必ず穴ができる……世のハッカー達は、そこを突くのさ!!]


【ロシア連邦 ウラジオストク】

 カトウは■コジロウのポストに張り付けられたURLを凝視する……。



 https:×/bit.ly/3xY7k9Z



 ………………とりあえずEXEファイルじゃなさそうだけど……。


 多少のネット知識があるカトウは、リンク先がEXEファイル……実行ファイルではないことを確認する。実行ファイルを踏まなければ、ウイルス感染は防げるだろう……というのがカトウの考えであり、知識の限界だった。


 …………踏んでも、大丈夫だよな?

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