46. Lich(リッチ)
[言ったろ、荒らしにもハッカーにも協力する気はない]
「冷たいねえ~
こっちは反省してるのに]
[ふん!
反省したからって、荒らしの罪が消えるわけじゃあないんだよ]
『マスターも翡翠もえさんスレで、荒らし行為してましたよね?』
ベッドに入り、画面に背を向けて寝ていたベルが振り向き、にたりと笑う。
「う、うるさいなあ……! もう!」
[はは、魔法使いのペケゾー君にフラれちゃったかな?
ちょっとショック]
ふん、ウソこけ!
[わたしのこと嫌いなのはわかったけど、仲直りの機会も与えてほしいな
良かったら、ここに来てよ、ブラマスメンバー達の交流サイト]
そう書き込みながら、美月こと■酒井カレンは、外部リンクへと飛ぶURLを貼り付ける。
しばし躊躇したあと、カケルはURLをタップする。
黒々ますく掲示板
[なんだ、これ?]
[言ったろ、ブラマスメンバーの交流サイト
ゆる~~い関係のサイトだから、肩を張らずに気軽に書き込んでくれると嬉しいよ]
[う~~ん……]気軽に……といっても、ハッカー達のサイトか……。近づかないほうが無難だな。
[あ、そういえば]と美月
[そこで■Lichのやつが、お前の個人情報垂れ流してたぞ]
[なんだよ、個人情報って?]
っていうか、Lichって誰?
[行って自分で確かめろよ ほっといていいなら、いいけど]
…………寝ようと思ってたのに面倒くさいなあ、もうっ!
カケルは黒々ますく掲示板のスレッドを見てみる。マルバナによく似た作りだが、巨大匿名掲示板であるマルバナに比べると仕方がないと言うべきか、スレッド数は極端に少ない。そのスレッドの集まりの中に一つ……。
【魔法使いペケゾーの正体】
これか!?
2X26/02/06 23:05 ■Lich
お前らに朗報
噂のペケゾーの名前がわかった
神楽坂かける
これが奴の本名だ
この後も判明した事実は、このスレッドに書き足していく
な……なんだ、これ!
ふざけんな!! 人の個人情報、垂れ流しやがって……!
というか…………。
カケルは■酒井カレンこと、美月とのゼータのやり取りに戻ってくる。
[おい! リッチとかいう奴に、おれの名前教えたろ!]
[なんでそうなる]
[ブラックマスクのメンバーで、おれが会話したの、お前しかいないぞ!
で、お前はおれの本名知ってた]
ま、まあ……おれが設定したトリップのパスワードが本名丸出しだったのが原因だったんだけど……。
[お前しかいないだろが! 人の個人情報、横流ししておいて、よく仲直りとか言えるな!]
[おい、落ち着けよ]
[落ち着けるか! この犯罪者!]
『マスタ~、声出しながらスマホでチャットするの、止めてもらえませんか?』
ぬいぐるみを抱いて寝ていたベルが、眠たそうな顔で口出しする。
「わ、悪かった……」
ゼータの画面では、美月が冷静に対応している。
[ちっとは冷静になれ
あのな、神楽坂 仮にわたしがお前の情報をLichに教えたとして、わざわざお前に言うかあ?
Lichがお前の情報、垂れ流してたぞ……って]
……………………言わないな……。
言うメリット、なんもない。
[すまん
おれの早とちりだった]
[わかってくれたなら、いいよ]
[いや、でも……
お前じゃないなら、どうやってバレたんだよ!]
[普通にトリ解析からバレたんだろ]
……………………[そうですね]
くそお~パスワード変えるかあ……トリップ番号も変わっちゃうけど、そこはヒキ板のみんなには伝えて…………
いや、待てよ……? 今さらパスワード変えたって、過去の書き込み消せないから、結局はトリ解析されちゃうじゃん!!
ああああああああああ!!
なんで本名パスワードにしちゃったんだ!! おれのアホ、アホ! 阿呆~~~!!!
[Lichには気をつけろよ]
布団の中で一人悶えているカケルに、美月が声をかける。
[あくまで噂だが、LichはDDoS攻撃の使い手だ]
カケルは布団の中で美月の話を聞いている。
ベルがブラックマスクについて説明した時にも出てきたけど……DDoS攻撃って、具体的になんだ?
[DDoS攻撃ってなに? 大量の通信データをパソコンから送りつけてサイトをパンクさせるってことで合ってる?]
[半分合ってる]
[残り半分は?]
[大量のデータを送りつけているのはパソコンじゃない マルウェアに感染し、ゾンビ化したIoT機器だ]
ゾンビ化……? っていうか、
[IoT機器、ってなんだっけ?w]
なんか聞いたことはあったけど、忘れた。
[インターネットに接続できる家電だよ ネットワークカメラとか、音声で家電の操作ができるスピーカーとか……お前の家にもないか?]
[リビングのエアコン、スマホで操作できるな 外出してる時でもオンオフができる]
まあ、おれは外出しないから、ほぼ使わないけど……。
[そういうネットに接続された家電を乗っ取るんだよ
パソコンと違ってセキュリティソフトなんて入れられないし、購入者のほとんどは工場出荷時の初期設定パスワードのまま使うから乗っ取りは容易さ]
[マルウェアを植え付けれられた家電はゾンビ化する 映画に出てくるゾンビのように、自らの意志を失い、ハッカーの命令のままに動くようになる]
……カケルの頭には、墓場から這い出してくる大量のゾンビの集団が浮かび上がる。
[時が来たら、攻撃者は配下となった何万ものゾンビ達に命令を下せばいい 命令を受けた家電はモンスターとなり、ターゲットとなるサイトに一斉に攻撃を仕掛ける 何千何万、場合によっては数十万のデータが津波となってwebサイトに放たれるんだ]
…………ゾンビの集団に襲われ……サービスは一瞬にして壊滅か……。
[Lichの奴は、それをいくつもの企業相手にやってのけたって話だ]
不死者の軍団を操る者……まさしく不死の王、Lichじゃないか。そんな奴に個人情報ばらされたのか……。
カケルは不安に襲われながらスマホを見る。スマホの中では、ベルが布団に入り、大きなクマのぬいぐるみとお喋りしている。
カケルは再び、黒々ますく掲示板に飛ぶ。
「おい、ベル。
このリッチって奴の情報をくれ」
『ちょっと待ってくださ~い』
ベルはクマのぬいぐるみを自身の横に置き、検索モードに入る。ベルの眼鏡が白く光る。
DDoS攻撃をいくつもの企業相手にやってのけたって言ってたけど……それって金銭目的か? だったら犯罪じゃんか……Black Maskは犯罪集団じゃないって、ベルは言ってたけど……。
『………………』
ベルの眼鏡は光ったままだ。グルグルと更新マークが回っている……。
あれ……なんだよ、まだか?
いつもならすぐに、個人情報持ってくるのに……。
『…………………………』
…………ベル?
『マスター……。
その■Lichとかいう者のデータを取得できません』
……なんだって!?




