39. 翡翠もえスレッドpart3
翡翠もえが帰ってから一時間後……カケルはイラついていた。
アクリル板のテーブルには、手つかずのお弁当。
午前中、もえとジャンクフードを食べていた為、まだ腹は減っていない。なんなら、その時食べていたフィッシュバーガーもテーブルの上に残っている。
匿名掲示板マルバナの翡翠もえスレッドを睨んでいるカケルに与えられた選択肢は二つ。
一つは三日後の水曜日の夜、外に出て、もえと夜のお散歩に行くか、それとも……べろちゅう動画をヒキ板に上げられ、ヒキ板を永久追放となるか。
…………どっちも嫌だ!
外に出たくない! ずっと引きこもってたい……!
引きこもってヒキ板で、同じ境遇のみんなと傷を舐めあいたい。それが一番幸せなんだ、ベストなんだ!
16歳のカケルは、そう思っていた。
腹が減ってきたので、視線がテーブルの上の弁当にいく。志村武則が作ったお弁当。
「働けよ、バーーカ」
カケルは子供の時、そう志村を馬鹿にした。ふらふらと遊び歩いてた志村だったが、父親の死をきっかけに彼は変わった。父親が遺した弁当屋を守るべく、毎日のように働いた。「味が変わった……」そう言って離れていった常連の客もいたが、地元の人の多くは、不器用なりに頑張っている志村を応援した。カケルも志村の頑張りは、なんとなく知っていた。
弁当には手を付けず、カケルは午前中に残したフィッシュバーガーにがぶりつく……。すっかり冷めてしまって美味しくなかったが、腹の足しにはなった。
志村も頑張ってんだ、お前も頑張れよ
そう心の声が聞こえる……。無視しようと、あれこれと言い訳を考えるが思い浮かばず、イライラする。そしてそのイライラをインターネットの掲示板にぶつける……。
『マスター、セイイチローさんからゼータにメッセージが届いてますよ』
「なに? なんだよ……今度はなんの用だよ!」
イライラしながらスマホを取り、メッセージを確認する。そこにはセイイチローのメッセージと共に画像が一枚。
セイイチロー @hegiri 2月6日
おい神楽坂~これ見ろよ!
いいだろ~~! 土曜の三つ角カメラ店でのイベントで
もえちゃんと写真撮影したんだ~~!
そん時もえちゃん、オレの手をぎゅって握ってくれたんだぜ!!
ヒッキーのお前じゃ、一生できねえよなあ~~~ギャハハハハwwww
……うるせえ~~~~!
なにが手を握ってくれた、だ! こっちは手を握ったどころの騒ぎじゃねえんだよ……!!
カケルは下唇を嚙みながらセイイチローのメッセージを睨みつける。
その下唇からは、まだかすかにリップの匂いがした……。
ああああああ!!
また水曜日のこと思い出して、イライラするぅう~~!!
……っていうかよ…………!
数時間前の" あれ "
あれ、男女逆だったら、どうだよ……!
おれが逆にキスしてたら、セクハラどころじゃないだろ!!
くそ……! 女はいいよな…………。
そう悔しがりながら、カケルはカタカタとキーボードを叩く。
2X26/02/06 13:28 ID3315
女はいいよなあ~~!
ちょっと悪さしても、可愛いってだけで許されるんだから!
女はクソ! 翡翠もえはウンコ!!
[コテつけてねえから、ウンほじじゃねえのかと思ったが、この口調、やっぱウンほじだわ]
[つうか、なんでそんなに翡翠もえのこと嫌うんだよ
めっちゃカワイイじゃん
スタイルいいし、ファンサも評判いいしな]
2X26/02/06 13:37 ID3315
なにがスタイルいいだよ
翡翠もえは昔、ぶくぶくに太ってたデブ女だぞww
右手見てみろよ、吐きダコがあるから
『マスター、それは言い過ぎです』
在在センより、カケルのパソコンの通信を眺めていたベルが指摘する。
「ぐっ……!」
カケルも言い過ぎたかな……とは思ったが、20世紀にできた掲示板、マルバナには投稿者側からの削除機能はない。
[ああ、もえちゃんの右手にある赤いアザみたいなの、あれやっぱ吐きダコなんだ]
[おいおい、荒らしの言うこと真に受けんじゃねえよ
もえちゃんはそんな、やさぐれた女じゃねえよ]
[いや、でもあれ、吐きダコじゃね?
今ほとんど消えてるけど、去年の春くらいだと、はっきり出てる]
匿名の名無しさんが二枚の画像を添えて書き込む。
去年の翡翠もえの全身写真と右手をアップにした写真。アップにした写真には、人差し指と中指の関節部分に赤いアザがはっきりと見える。
[あのな、手が赤いからって吐きダコとは限らねえし]
「つうか、吐きダコってなに?]
[やめろよ、お前ら
ウンほじの言うこと信じてんの?
もえちゃんがデブなわけねえだろが]
[ああ、でも >>592の画像見ると、これたしかに吐きダコだわ
昔付き合ってた彼女もそうだったから、間違いない]
[お前の頭の中の彼女の話は、どうでもいいんだよ]
[お前と違って恋愛経験ありますけど、なにか?
>>595
指、口に突っ込んで吐く時にできるタコだよ
過食症とかのデブがそうなる]
[もえちゃんをデブ扱いするなって言ってんだよ、タコ!!]
[うるせえよ、イカ!]
「……なんか荒れてきたな」
『いや、最初にマスターが荒らしたんですけど……』
ベルが当然のツッコミを入れる。
「ま、まあ……そうだけどさ……」
2X26/02/06 14:07 もえちゃん党党首
おいおい、荒らしの相手してスレを荒らすとか、党首としてそれは見逃せねえなあ~!
ん? なに……こいつ。変なコテが出てきたぞ……?
[おお、党首来たかあ~!
今、荒れてんだよ……ウンほじの奴が久しぶりに現れてさ]
2X26/02/06 14:11 もえちゃん党党首
みたいだな!
コテつけてないけど、トリップのパスワード忘れたのか?
まあいい おい、ウンほじ!
お前の相手は、このオレだ!!
来いよ! レスバトルといこうぜ!!
……レスバトル、だと?
おい、貴様……喧嘩売る相手、間違えてないか?
お前が喧嘩売ってる相手は、ヒキ板の魔法使いペケゾー様だぞ、コラ!
そう思いながら魔法使いペケゾーは、偉そうに発言する。
「おかヘル、もえちゃん党党首の情報、よろしく」
『おかヘルって、誰のことですか!!』
「……すまん、ベル。
もえちゃん党党首の情報を頼む」
『次言ったら、マスターのネット閲覧履歴……翡翠もえさんに送りますからね!」
……恐ろしいことを言うんじゃない!
『…………出ましたよ。
もえちゃん党党首の情報です、スマホからの書き込みです』
聖一郎 性別男性 16歳
神奈川県蒼町 武留地区072
…………セイイチロー、お前かよ……。
「ここで会ったが百年目だ、ゴラァ!!」
『セイイチローさんからのメッセージは、先ほど見たと思いますが……』
「……ものの例えだ。
党首だか、なんだか知らんが……こっちはいろいろあってイラしいてんだ……。
知らぬとはいえ、ヒキ板の魔法使いに喧嘩売ったこと……後悔させてやろうか!!
『………………』
誰も望んでいない、どうでもいいレスバトルが始まった……。




