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21. 血塗られたファン

 [あ、あのお…もえさん?

 なんで、おれの本名知ってるの?]


 本名話したっけ?

 ………いや、言ってないはずだ。


 ……………………まさか!?



 もえさんも、おれと同じ、黒いスマホを持ってるとか…!?




 [あ、やっぱりカケル君であってたんだ

 ごめんね、実はペケゾー君のこと、気になっちゃったからいろいろ検索しちゃって…そしたらヒキコモリ板で、名前がカケルだから固定ハンドルネーム、×にします、って書き込み見つけたから]


 あ……!

 おれがペケゾーのコテハン名乗るきっかけになったスレッド…。

 カマリ・橋本さんが家の前で倒れてて、実況してた時のあれか。

 もえさんも黒スマホ持ってるかも…って、そんなわけない。



 [ああ、そういえば本名晒しちゃってたかなw

 この際だから自己紹介します

 ヒキ板の魔法使いペケゾーこと、神楽坂カケルです]


 [苗字まで晒すことないのに、律儀~~w

 改めまして、上楽坂カケル君

 翡翠もえこと姉川萌ちゃんです♪]



 [えっと……神楽坂、カグラザカです

 ひょっとして、もえさん…カミラクザカって読みました?]



 [ぶう~~~!

 神楽坂って読めませんでしたあ~~

 はいはい、萌ちゃんはバカですうぅ~~~!

 ガリ勉のカケルとは違いまあ~~す

 ごめんなさあ~~~~い]


 [別にガリ勉じゃねえし

 眼鏡は、かけてるけどさ]


 [ぷぷぷw 陰キャww

 メガネ、くいっ!w]


 [うるさい!ww つうか相談することが、あるんじゃないんかい!]



『なんだかねえ…この二人』


 間にベルが入ってくる。

 もちろん姉川萌には、ベルの存在は分からないが…。


「茶々を入れるな、本を読んでろ!

 フランケンシュタインだっけ?」


『今読んでるのは、ハインツ・グデーリアンの電撃戦です』


「あっそ…」


 電撃って……電気の話か?

 ミリオタ少女かと思ったら、化学にも興味があるんだな…変なの。



 [そう、それ

 ヒキ板の魔法使い君に、相談したいことがあってさ]


 ウンほじこと、姉川萌からの返信。


 [えっと…うん、なに?]


 現実? に戻されるように、カケルは姉川萌との会話に返信する。



 [率直に言うとね…わたし今、ストーカー被害にあっててさ]


 [それは……具体的に言うと、どんな感じ?]


 [まずは…動画観てもらっても、いいかな?

 忠告すると、血がかなり出る動画なんだけど…

 カケル君、グロ動画耐性とか大丈夫?]


 [動物虐待とかじゃなければ、たいてい大丈夫です]


 いつだかアニメのmad動画と思ってクリックしたら猫を撲殺する動画で、トラウマになったことがあったな。


 [動物じゃなくて人間

 リストカットしてる動画]


 ……え?


 萌がPM欄に張り付けた動画には、2本の腕が映っている。近くにはカッターナイフ。それ以外はなにも置かれていない、シンプルなテーブル…奥に見える壁は真っ白だ。

 声が流れる…成人した男の声。


 [僕は、もえさんの気を引くことすらできない、情けない男なんですね

 自分が本当に嫌になります!!]


 そう言い終わると同時に画面に映る右手がカッターナイフを握り、カチカチと刃を出す。刃幅は20ミリ以上はあるだろう。


「あ……」


 カケルは思わず声を漏らす。



 ナイフを握った右手が、仰向けになった左手の手首をザクザクと切り始める!

 男が唸る……断定はできないが、若い感じの声。


 [もえさん…! もえさん、好きです! 大好きです!!

 でも、もえさんは僕のことを見てくれない……!

 自分が情けないです!! う…ウウウヴヴゥウ!]


 …おいおい、マジか、これ……。


 男の左腕から血が大量に流れ出る…。

 テーブルは、たちまちに血で溢れかえる。

 しかし、それでも男は自傷行為を止めない…!

 切る場所を変え、まるでそれは自分とは関係のない物体のように、自分の腕を切り刻む!


 [もえさん、好き! 好き好き! 大好き!!

 でも自分は嫌い!!

 今度生まれ変わってくる時は、もえさんに振り向いてもらえる男になります!!

 その時は…! 僕のPMに、『大好きだよ』って言っでぐだざぁい!]


「…………………」



 男が自傷行為を止める………そして叫ぶのも止める。

 音がなくなった動画に、カッターナイフをテーブルに置く音が静かに響く。

 そしてそこで動画は終わった……。



 [ごめんね

 気持ち悪い動画、見させちゃって]


 [いや、大丈夫]

 ほんとは大丈夫じゃない………。

 血が溢れる映像は、別に問題ない…。問題は………

「もえさん大好き!」なんて連呼しながら、嬉々として自傷行為に及んでいる男だ…。気が狂ってるとしか思えない……。



 [この人ね、アヤ丸ってアカウント名の人なんだけど]


 萌がメッセージを送る。


 [はい]


 [最初はねえ、凄い腰の低い人だったんだ

 アヤ丸って名前も、謝るが元になってるって言ってた]


 [うん]


 [会ったことはないんだけど、イベントにも来てくれてるみたいで、ライブ配信すると必ず来てくれて、スパチャもしてくれてた。1万円超える時も、あったかな]


 [熱心なファンだったんだね]


 [そう だけどね…

 段々エスカレートしてきてさ

 ほら、こないださ…翡翠もえの公式アカは男性のスタッフが対応してるって言ったじゃん]


 [ああ、言ってたね]


 [去年までは、わたしがちゃんと対応してたんだよ]


 [え? そうなの?]


 [そう、だけどさ…アヤ丸君が公式のPM欄に、しつこくメッセ送ってくんの

 大好きとか、会いたいとか、わたしに彼氏ができたら死ぬとか]


 死ぬって……それ脅迫にはならないのか?


 [もう対応しきれなくってさ…

 それで男性スタッフと交代したの]


 [そういう経緯があったんですか…ただ]


 [ん?]


 [それでもアヤ丸さんは、さっきの動画を送ってきたと]


 [そう

 わたしと付き合えないなら死にます! みたいな動画を何度も送ってきたんだ]


 ……何度も? 重症じゃないか…。



 [だからさ…カケル君

 というか、魔法使いのペケゾー君に助けてほしいんだ

 ヒキ板の荒らしを黙らせたみたいに、アヤ丸君を黙らせてくれるってこと、できないかな?]



 ………なるほど。



 カケルは妙に納得した。


 フォロワー数10万人以上のコスプレイヤー翡翠もえが、ただの引きこもりでしかない自分と仲良くする理由……。

 毒親に育てられたという共通点はあるものの、人としてのレベルが違い過ぎるなかで、なんで自分を気にかけてくれたのか………。



 そっか……もえさん、おれの魔法の力が欲しかったのか。



 納得した。

 まあ、そうだよな……。

 本来なら、なんの接点もない日本のどこかの引きこもりと人気コスプレイヤーが仲良くなるなどあり得ない。

 そういうことか…。



 [わかりました

 そのアヤ丸ってやつを黙らせればいいんですね?

 お安い御用ですよ]


 [うん、ありがとう…できる?]


 [もちろん! ヒキ板の魔法使いですからね!

 楽勝です!]


 名前と住所晒してやれば、びびってやめるだろう……楽勝だ。

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