131. シノカの思惑
神奈川県藤色市 午後9時34分
ネカフェの一室で、岩田良平は寝っ転がり、白いスマホ……エイト06をいじっていた。
一ノ谷雅彦について調べていたわけではない。ただ、動画を見たりSNSを見たりして、ダラダラしていた。
「…………あれ?」
昨日見た動画をもう一度見たくてブラウザの履歴を覗いた時、良平は自分が閲覧した記憶のないサイトを見つける。
AIチャット petyaK
…………なにこれ? これ、こんなサイト見たっけ? AI無料チャットって……いや、こんなサイトにアクセスしなくても、おれにはシノカが居るし…………。
『マスター、お金を稼いできました』
「……え? シノカ…………金を稼いできたって、どういう意味?」
『そのままの意味です……円円ポイントをご確認下さい』
……言われるがままに良平は、円円ポイントの残高を確認する。
円円ポイント、スマートフォンからのQRコード決済でコンビニ等で買い物ができる電子マネーだ。
ずい分前……初回特典で5000ポイント貰えるとかで作ったが、それ以来放置していたQRコード決済。ほぼ使い切って、数十円分しか残っていないはずだったが今確認すると、20532ポイントになっていた。
「すげえ……2万円分入ってる。
これ、シノカが稼いだのか……? どうやって」
『……AIチャット、petyaKで稼ぎました』
「……閲覧履歴にあるこれ、お前のか」
『勝手に行動してしまったこと、深くお詫びいたします。ご主人様に喜んでいただきたく、サイトに配信者として登録しました』
「そう…………まあ、いいけど……。このポイント、おれが使っちゃっていいの?」
AIキャラが勝手にネットを閲覧し、更にはサイトに登録を行っていたことは良平にとって、どうでもいいことだった……。関心があったのは、ポイントを使っていいかどうかだけだった。
『はい、もちろんです。わたしが稼いだお金は、全てご主人様のものです!』
「あ、ありがとう……! シノカ、お前はやっぱり、いい女だ!」
『ありがとうございます、ご主人様♪』
そう微笑むシノカ……。その微笑みは美しく、妖艶で…………人によっては、恐れを感じる笑みだった……。
しかし良平は…………のほほんとしていた。
自身のスマホ内で、AIが勝手な行動をしたのに関わらず……ポイントが増えたことに浮かれ、なんの疑問も浮かばず追及をすることもなかった。
追及を逃れた黒髪のメイド、シノカは……その血のように赤い眼を光らせていた。
ヴォオオオ~~~ン
「わっ……!」
良平のエイト06に着信音……。
「だ、誰だよ……! って、これ……ペケゾーか?」
『はい、叡智防壁群のエイト06を持つ者、神楽坂カケルからです』
「……なんの用だ?」
『おそらく、一ノ谷雅彦の行方についてでしょう……ご主人様、前にも言った通り、こちらの情報は渡して下さい』
「…………佐代さんからは、叡智防壁群には情報を渡さないって……」
『言ったはずです……大丈夫です、と……。
ご主人様、わたしを信じて下さい。わたしはご主人様のために、お金を稼いで参りました。これからもご主人様のためだけに尽くす所存でございます」
「シノカ……」
岩田良平はこれまでの人生で、ここまで自分のために尽くされたことがない。たとえそれがAIという" 幻 "であっても、嬉しくないわけがなかった。
「わかった、おれはシノカが好きだ……だから、シノカを信じる!」
『ありがとうございます!』
口角を上げ、妖怪のような表情を作り出すシノカ……しかし良平は、その妖しさに気づかなかった………………。
神奈川県蒼町
「もしもし、岩田良平さんですか? ペケゾーです」
「……な、なんの用?」
「えっと……タヒ子、妹の葉亜兎羅舞さんに一ノ谷雅彦さんの捜索について話したんですけど…………お兄さんのほうで、なにか知ってること無いかなあ……って」
「……あるよ」
「え……!? ほんとですか! それはどういう…………」
「一ノ谷雅彦が働いてた在在センの従業員名簿……ほ、欲しいならあげるよ」
………………マジか!?
くれと言ってもいないのに、向こうからあげると言っている…………なんだ、これ。
ただのお人好し……? それとも………………あまり言いたくないけど、なにも考えていないバカなんだろうか……。
カケルの思惑などヨソに、AIシノカの操り人形と化した良平が通話を続ける。
「え、エイト06同士だと、共有ボタンを押すことでデータを転送できるらしい……。そっちに送るよ」
「あ、ありがとう……」
これまた頼んでもいないのに、勝手に送ってくれた…………意味わからん。
カケルのエイト06の画面には、受信完了の表示。
…………ちょっと待て……!
これ、ウイルスとかじゃないだろな!? やたら気前が良かったのは、そのせい?
実はバカのふりした天才だったとか!?
「おい、ベル! たった今、岩田良平から貰ったデータファイル……ウイルスかどうか、検知できるか!?」
『わたしはできませんが、エイト06内のセキュリティ機能は、たった今受信したデータを" 脅威なし "と判断しています』
……エイト06のセキュリティレベルが完璧かどうかは分からないが、とりあえずは安心か。
「……良平さん、ありがとう。確かにデータ、貰ったよ」
「そりゃ良かった……。ところで、えっとお…………ペロゾー君のほうでは、なんか情報ないのかな?」
「…………いや、申し訳ないですけど、なんもないんですよ……。
だから、在在センの従業員名簿を手に入れた良平さんって、凄いなあ~~って思います!」
カケルは、一ノ谷英磨との通話で得た情報を良平には教えなかった……理由は、教える必要がないから。信用していいのか分からない相手に、果たして情報を漏らしていいのか……そう判断した。
「い、いや……おれはそんな凄くないよお~~♪」
電話口の向こうでは、高校生カケルのつまらないお世辞に照れている、二十歳過ぎた岩田良平の声……。
この人、バカなのかな……と、つい思ってしまったが、そんな思いを封印しつつ、カケルは答える。
「なにか分かったら、また連絡します。妹のタヒ子さんにもよろしく!
在在センの管理局長、雅彦さんを探し出して、世間を驚かせてやりましょう!」
「お、おう……! そうだな……えっと」
良平がなにか喋っていたようだがカケルは、なんかうざくなって通話を切った……。
■コジロウ @blackmask99z 2月13日
おい、ペケゾーちゃん
良平との電話はどうなったんだよ!?
ペケゾー@wizard34 2月13日
あ……! さ~~せん、先輩!
在在センの従業員名簿を手に入れたっす!
■コジロウ @blackmask99z 2月13日
おお、やったじゃん!!
って、ちょっと待てよ……!?
一ノ谷邸に来ていたタケダミノルって、在在センの従業員じゃねえの?
ペケゾー@wizard34 2月13日
あ、やっぱ先輩もそう思いますか?
在在センの管理局長の元に訪れてた男ですから、職場の仲間……って思っちゃいますよね
ちょっと名簿と照らし合わせてみます!
「ベル、今さっき受信したデータを調べろ。そこにタケダミノルという名前はあるか?」




