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レスバの無双者 -ネットの匿名、全て見破ります!-  作者: シンザン34


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110/130

110. 神楽坂翔琉の脱ヒキ

 時刻は深夜2時……。

 外出を踏まえ、二日ぶりに風呂に入ったカケルは、布団の中でベルと話していた。


「ベル、明日……というか、今日の天気は?」


『ちょっと前にも言ったじゃないですか、快晴です』


「…………雨、降ったりしない?」


『降水確率は0パーセントです』


「ご、午後は……?」


『夕方まで雨降る確率はゼロです……。

 ますたあ~~、いい加減、腹くくってください!

 ちなみに月曜からは、ずっと雨か雪ですよ。雪が積もるなか、静岡まで行くんですか?』


「くうぅう~~~! よりにもよって、なんで日曜日……。

 しかも晴れって…………絶対、人いっぱいいるだろ」


『磯貝さんが住んでいる御殿山町(ゴテンヤマチョウ)って、人口一万人にも満たない町ですよ。観光地でもないですし……そんなに人、いないと思いますが』


「アホ~~。御殿山は田舎だから、城之谷市(シロノタニシ)から乗り換えなんだよ……。

 城之谷は富士山と箱根に繋がってるから、日曜なんか観光客でごった返してるぞ、ちくしょう!」


『乗り換えの時だけ我慢すればいいじゃないですか……もう、情けない』

 ベルがスマホの中でスマホをいじりながら答える。


「情けないとか言うなよ、くそ。

 ……っていうか、なにスマホなんかいじってんだ。話し相手なんていないくせに」


『……ゲームですよ、テトリス。

 ネットで対戦してるんです。やった、また勝った♪』


 …………世界のどこかに、AIと対戦してるプレイヤーがいるのか。

 ひょっとして……おれが掲示板でやり取りしてる相手にも、すでにAIがいたりするのかな。



『ますたあ~、明日何時に出発するのか知りませんが、そろそろ寝たほうがいいんじゃないですか?』


「………………ベル」


『なんです? よお~~し! あと少しで10REN!』




「おっぱい画像くれ」



『なに言ってんですか、もうっ!!

 あああああああああああ!!! 10REN失敗!!

 もうちょっとで二桁RENだったのにいい~~!』


「ベル……おれは今、脱ヒキという強敵と闘ってるんだ。慰めてほしいんだ……!」


『だからって、なんでそれがおっぱいなんですかあ!!

 サイッテーーーー!!』


「うるさい!!

 おっぱいは全てを癒してくれるんだ! 早くおっぱい画像よこせ!

 乳首見えてるヤツだぞ! あと巨乳」


『もう……! このエロショタ坊主は!! 


 ………………はい、どうぞ!』



 ベルがそう言うとエイト06の画面内に、大きなおっぱいを丸出しにした…………お相撲さんの画像が並ぶ。


 " どすこぉお~~~~~い! "



「…………なんだよ、これ……」


『巨乳で乳首も見えてるおっぱい画像ですが、なにか?』



「…………巨乳で、ちゃんと乳首見えてる若い女の子の画像持ってこい、ボケ!!」


『ふう~~しょうがないですねえ~~~


 ………………はい、どうぞ♪』



 エイト06の画面内には、大きな乳房を恥ずかし気もなく見せている、若々しい………………ホルスタイン牛の画像が並ぶ。


 " もおぉおお~~~~~~~! "



「……コノヤロ!!」


『あら? お気に召しませんでしたか? ぷぷぷ』



「……もういい! 寝る!!」



『はい、おやすみなさあ~~~い!


 …………もう一戦やろっと』




 ………………そして、朝となった。



 2月13日 日曜日 午前8時30分


 カケルはキッチンに居て、少し遅い朝食をとっていた。

 書斎に居る父親、神楽坂修(カグラザカオサム)は、こんな時間に起きてきた息子に少々びっくりしていたが、声をかけるのはやめた。下手に声をかけたのち不貞腐れて、また昼夜逆転の生活に戻られても困る……。

 早起き……という時間でもないが、朝起きてくれてるなら、そっとしておこうと思った。


 朝食を取り終えたカケルは、食器を流しへと持っていく……。そのあとは洗面所に行き、歯を磨く。

 廊下で暇していた黒猫のナツが、カケルの足にすり寄ってくる……カケルはナツの頭を撫でながら歯を磨き、終わると髪をとかし始めた。


 神楽坂修は一階の書斎で、町内会の次年度役員と班長の選出の資料を作成していた。ノートパソコンで文章を打っていると、同じく一回の洗面所からドライヤーの音が聞こえてくる……。

 修の妻であり、カケルの母親、神楽坂久美子は友人夫婦が経営している食堂したつづ味(シタツヅミ)のバイトに朝早くから出かけていた。


 それでは、息子のカケルがドライヤーを使っているのか……? ずっと家に引き籠っていて、最近は髪をとかしてる様子すらなかったのに?

 そういえば…………夜中、風呂場から物音が聞こえてたな……。カケルの奴、風呂にも入ったのか。



 …………どこかに出かける気なんだろうか?


 父親は不思議そうに、一階の廊下へと続く書斎のドアを見る。

 その扉を開けた先には、洗面所がある……。


 様子を見に行くか…………。

 役所のカウンセラーも、用がなくても声をかけるのが大事……と言っていた。


 …………しかし……


 自分で" なにか "をしようとしてるのだ……。

 下手に干渉しないほうが、いいだろう…………。


 そう思い父親は、視線をドアからノートパソコンへと戻す。結果的に父親の、その判断は正しかったと言える。

 カケルの心はすでに決まっていた…………しかし、その決心は、綱渡りのように不安定だった。ちょっと風が吹けば、奈落の底へと真っ逆さまの危うい綱渡りの決心…………。



 行かなくっても、別にいいだろ。


 もえには、行って来たよお~~と嘘つけばいい……。



 そんな言い訳が、カケルの脳裏にチラホラと浮かび、カケルを誘惑する……。

 カケルはそんな誘惑を無視するが如く、淡々と外出の準備をする。まさに綱渡り…………余計なことは一切考えず、ただひたすらに前を進み、綱から落ちぬよう、バランスを取る……。



 逃げたい


 行きたくない……


 明日でもいいじゃないか…………そもそも、行かなくても死にはしない……。



 沸騰した泡のように、フツフツと湧き上がる、逃げの言い訳……。

 湧き出るその言い訳にフタを押しつける…………が、そのフタを押しのける勢いで、逃げの感情が次から次へと溢れ出てくる……!


 しかし………………



 カケルは、その感情を押し込めた! 押し殺した!!


 それができたのには、訳があった……。




 午前9時15分……カケルは玄関の前に立つ。眩しい午前の光が、玄関に降り注いでいた……。


 …………昨日……カケルには、脱ヒキの誘いが三つあった。


 もえからのデートの誘い

 ブラマスメンバーからのオフ会

 磯貝寿美子への謝罪



 その中でカケルは……磯貝寿美子へ謝罪をする為、外に出る決意を固めた。


 もえからの誘いも、ブラマスメンバーとのオフ会も、自分の為だった。

 自分の為なら、いくらでも妥協できる…………自分が不幸になったって、別にいい……だって、自分のことだから。

 幸せになれると言われても、そこに努力と犠牲が伴うなら、遠慮したかった…………そんな苦労してまで、自分は幸せになりたいとは思わなかった。

 だから自分のことなら、いくらでも妥協できた。



 しかし…………他人のこととなると別だった。他人が不幸になった時、その人にとってそれが、どれだけ辛く苦しいかなんて、カケルにはわからなかった。

 磯貝寿美子はタヒ子のインタビューで、鬱病にかかっていると答えていた。彼女は……苦しんでいた。その苦しみがどれほどのものかなんて、他人であるカケルには、想像もつかなかった。

 だから…………妥協など、できなかった。だからカケルは、逃げたいという感情を押し殺せた……!




 日曜日の朝……カケルは靴を履き、玄関の扉の前に立っていた。

 一年近く、自分の為には開けなかった外への扉…………しかし。

 他人の為と思った時……その扉を開けるのに、自然と勇気が湧いた。逃げたいという感情に打ち勝てた。



 …………ドアノブを手に取り、扉を開ける……。


 扉を開ける音は静かな朝の時間に、書斎にも聞こえた……。




 カケル…………外に出るのか!?


 父親は驚きと喜びの感情で、それを受け止めた。



 玄関のドアを開け、カケルは午前の日差しを身体いっぱいに受ける。遠くからは車の走行音と、かすかな人の話し声……。


 恐い……誰にも会いたくない…………。



 そう思いながらもカケルは、冬の青空の下、一歩踏み出す……。

 その一歩は自分の為ではない。自分が傷つけてしまった、他人の為。

 他人の為に、その歩を進めるカケルは思う……。


 ああ、そうか…………。




 だから……家族がいる人

 恋人がいる人

 仲間がいる人は…………強いんだ。



 自分以外の人の為に勇気を出せるから……!



 自分を守る為に家に引き籠っていた少年は…………他人の為に、閉ざされていた世界へ一歩、足を踏み出した……!

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