11. セイイチロー
20X6年1月26日水曜日。
カケルが魔法使いとなって、4か月目。
元ミツボシ電機部長の富田とレスバトルを繰り広げた次の日……というか、
日付的にはその日の午後2時…カケルはようやく目を覚ました。
昼夜逆転を直そうと思いながらも、寝たのは結局朝の6時だった。
ベッドの上でなにをするでもなく、あぐらをかき、あくびをしたのち…のそのそとパソコンデスクに向かうとゲーミングチェアに座り、ぼ~~っとする。
怠慢な日常……。
このままでいいのか、という不安と
このままで、もういいや…という諦めが交差する。
パソコンの電源を入れたら、立ち上がるまでスマホをつける。起きてる間は…いや、ベッドに入った時もだが、ネットに繋がっていないと落ち着かない。
カケルが手に持った黒いスマホ。カマリ・橋本と名乗る魔術師から譲り受けたマジックアイテムだ。裏には鳥のマーク。ベルに聞くとそれはライチョウをもとにした在在センのマークだそうだ。
ライチョウには古来より雷よけの信仰がある。データベースへの落雷防止の縁起担ぎとして、在在センのマークとして採用されたらしい。
在在セン…。
日本国在住者及び在留邦人うんぬん……ある意味日本らしい、やたら長ったらしい名前のデータベース。
「君は選ばれた」
あのおじいさんこと、魔術師はそう言った。
「結果はあとから、ついてくる」
とも言っていた。しかしあれから数か月経っても、なにも起きない…。
………なんなんだろ、これ…まあ…荒らしの撃退には、便利だけど……。
カケルは数時間前の富田とのレスバトルを思い出す。
「あ……」
くっそ…やな事を思い出した。
富田のレスバトルで、SNSのゼータを開いたが…通知が結構溜まってたな……。
Z コメント文字数280文字以内のSNS。
カケルはゼータのアカウントは持ってはいるが、ほぼやっていない。
カケルがゼータのアカウントを作ったのは、クラスメイトの聖一郎に勧められたから。
聖一郎 セイイチロウではない、ヒジリイチロウだ
苗字が聖で、名前が一郎
キラキラネームとはまた別の意味で、分かりにくい名前
それを更にややこしくしてるのは、当の本人が自身のことを" セイイチロー "と呼んでいることだ
そのややこしい名前の主である聖一郎ことセイイチローの口癖は
「オレ、有名になりたい!」
であった。カケルがまだ高校に通っていた頃、聖ことセイイチローは
「オレ、ゼータのフォロワー数、10万人目指してんだ!
神楽坂、お前も協力してくれよ」
と言って半ば強引に、ただのクラスメイトでしかなかったカケルにゼータのアカウントを作らせたのである。
それからニか月後…カケルはいろいろあって学校に来なくなり、セイイチローのゼータフォロワー数は2000人ほどで動かなくなっていた。セイイチローはすでにゼータで有名になる事に飽きていた。しかしゼータでフォロワー達とお喋りするのは楽しかったらしく、ゼータ自体は続けており、時おりカケルのアカウント宛てに投稿をしていた。
セイイチロー @hegiri 1月21日
おい、カグラ引きこもり生活楽しいか?w
学校来いよ、楽しいぜ~~!
釜田の奴、桧山絵里にコクってふられてたわwww
セイイチロー @hegiri 1月25日
野球部みんなでカラオケ行ったぞ
女子マネの御子柴がパンツ見せてたw
げらげら笑うな、恥ずかしがれよ
おい、カグラ! 引きこもってんじゃねえよwww
引きこもってるカケルをからかうように、セイイチローこと聖一郎は楽しい学校生活の様子を写真付きで送ってきている。
補足するとカグラとは、カケルのゼータでのアカウント名だ。神楽坂だからカグラ。セイイチローにせかされ、数分で作ったアカウントの名前などそんなものだろう。
……腹の立つ!
カケルは苦虫潰したような顔で液晶画面を睨みつける。
画面の中では坊主頭のセイイチローこと聖一郎が、歯並びの悪い歯が見えるくらいに大きく笑っていた。
くっそがよお~~~朝っぱらから、やな気分だ…!
すでに朝でも昼でもなく、時計の針は午後の2時15分を指していたが……。
「………ベル、セイイチローの情報をくれ」
『セイイチロー…聖一郎さんの情報でよろしいですか?』
「…そうだよ、そいつの情報!」
カケルは悔し紛れに、聖一郎の" あら "を探す。
しかし……。
ベルが在在センより持ってきた情報は、学校の名簿でも見れば分かるような情報だけだった。
まあ…当たり前と言えば当たり前である。
聖一郎という名前は偽名で、高校生のふりをした殺し屋………な訳がない。
聖一郎は聖一郎であって、ただの高校生でしかない。
………ふん!
「ベル…セイイチローの購入履歴。
そうだな……12か月以内のデータをくれ」
まだ、あら探しに未練が残るカケルは、今度はネットの購入履歴に探りを入れる。
なんか恥ずかしいもんでも、買ってないかなあ~~
そんな淡い期待を胸に、少女ベルが持ってきた情報を閲覧する。
………………
特になかった。
陽キャ、といっていいセイイチローらしく、楽曲データを何曲か購入するなどしていたが、アダルトDVDなどの恥ずかしい商品の購入はなかった。
「……ちっ!」
カケルは最上級の舌打ちをかます。
「ス〇トロDVDの2,3枚くらい、購入しとけよ、アホ」
『マスター…昼間から下品な事言わないでくれます?』
「…すまんかった」
AIのくせして、人間の女子みたいなこと言いやがるな…。
セイイチローが買ったDVDは、アイドルのDVDくらいだった。
アイドル…ジュニアアイドルのDVDとか買ってないかなあ~ロリベド全開のやつ。
そう期待したカケルだったがセイイチローが買ったのは…
" MOE18 奇跡のコスプレイヤー翡翠もえ 18歳 禁断のスーパーショット! "
だった。
パケ写…パッケージ写真にはビキニ姿の際どい女性の姿が写っているが、対象年齢は全年齢になっている。
コスプレイヤーか……。
脱いでるわけじゃなし…指摘したところで、「だからなんだよ」って言われそうだな。
………というか
…可愛いな、この子…。
カケルはパッケージ写真に写っているコスプレイヤー、翡翠もえに見とれる。
綺麗な目をしていた。覗き込めば自分の顔が映るのではないかと思ってしまうほどのキラキラと輝く瞳。まさに翡翠だ。
肌は、せせらぐ小川のような透明感に溢れ、胸上までかかったセミロングの黒髪は、きっと彼女の自慢の髪であろう…手に取れば重力に何一つ逆らう事なく、サラサラと砂粒のように流れていくのが想像できた。
「…可愛い」
カケルは思わず呟く。
『スケベ』
ベルは冷静に呟く。
「う、うるさいなあ~もう!
AIのくせに、人間様に文句垂れるな!」
『勘違いしないで下さい、マスター。
AIは決して人間の奴隷ではありません。』
「い、いや…そうだけどさ……。
ごめん、気を悪くしたのなら謝る」
『いえ、謝罪はいりません。
気分を悪くしたわけではありませんから。
わたしはただ、事実を伝えただけです』
「…そう」
「……で、ベルは今、なにやってるの?」
カケルは液晶画面内で、なにかの作業をしているベルを見ながら問いかける。
『これですか? プラモを作ってます。
零式艦上戦闘機、いわゆるゼロ戦のプラモですね』
……この間は読書してたし、その前はコーヒー飲んでたな。
こいつ、ほんとにAIのキャラか?
なんか、スマホの中に住んでる妖精の気がしてならない…。
『…? どうしました、マスター』
「…なんでもないです。
君を創ったプログラマーは、ずい分と暇だったのか、それともこだわりが強かったのか……どんだけのパターンを作ってたんだろ」
『……? 申し訳ありません、マスターの言ってる事は意味不明です』
「分からなくていいです…朝食を食べてきます」
『今は午後2時17分ですよ、マスター』
「分かってるよ、もう…
とにかくご飯を食べてくる。その後は……どうしよっかな」
引きこもりに今日の予定はない。
毎日が日曜日…ただただ時間だけが過ぎていく…。
焦りはある。しかし………それに気づかぬふりをした。
気づいてしまったら…外に出ないわけにはいかないから……。
だけど外に出る勇気はない…だから。
気づかぬふりをずっとする……。




