108. 苦悩する魔法使い
■コジロウ @blackmask99z 2月12日
ペケゾーちゃん
それはちょっと、やり過ぎじゃねえか?
いや、荒らした奴が悪いのはわかるけどよお~
ペケゾー@wizard34 2月12日
はい……
後悔してます
2X26年2月12日現在
カケルは昔のことを思い出し、自身の部屋でうなだれていた。
■酒井カレン@blackmask79 2月12日
お前がどれだけ、いい奴かってのは知ってる
自ら可憐のために闘ってくれたしな
だけど、それはいただけないなあ
■red tree @blackmask5g 2月12日
カケル君まだ若いし、しょうがないよ
人生いろいろある
次、頑張ればいいじゃないか
ペケゾー@wizard34 2月12日
フォローありがとう
あの時はイラついてて……って、それは言い訳ですね
すみません、16歳童貞が調子に乗ってました
■酒井カレン@blackmask79 2月12日
謝るんだったら、その磯貝さんのとこに行って謝ったほうがいいんじゃないか?
え……!?
磯貝さんのとこに行けって…………ちょっと待ってくれ!
そんなこと言われても…………。
■酒井カレン@blackmask79 2月12日
ああ、カケル
なにもほんとに行く必要はないよ
ちょっと言葉の勢いで言っただけだ
本気にせんでいい
…………大輔さんとファミレスに居るって言ってたし、大輔さんがフォローしてくれたのかな。
■コジロウ @blackmask99z 2月12日
つうか、荒らしたほうも悪いしな
同族嫌悪ってやつかあ~
港区女子もイプの日にイラついて、ヒッキーに八つ当たりしたんだろうなあ
■red tree @blackmask5g 2月12日
その磯貝さんは、現在無職みたいだね
え……!?
赤木大輔の発言にカケルは驚くが、すぐにタヒ子の配信のことを思い出す。
モニター画面の向こうでは、タヒ子が自称港区女子だった磯貝寿美子に電話でインタビューしている。
[鬱病が原因で退職されたんですか?]
う、鬱病……!?
画面から電話越しに聞こえるのは、中年女性の声……カケルは初めて聞くが、磯貝寿美子の声だ。
[はい……職場に行っても、わたしがその……性行為をしたことがないんだってバレてるんじゃないかって…………職場の人達以外にも、お客さんにもバレてるんじゃないかと思うようになって、それから…………スーパーに行けなくなりました」
………………そんな……。
うなだれてるカケルなど気にせず……いや、タヒ子はカケルがどんな心境かなんて、知る由もないわけだが……。
[じゃあ今は、無職なんですね? 実家に引き籠ってると……]
[はい……恥ずかしながら…………。
まあもともと、働いてた時から、実家暮らしでしたけどね……
カウンセリングを受けながら、社会復帰を考えてますが……なんとも言えません]
[なんとも言えませんと言うのは……?]
[道筋が立てられません……もともとわたしの人生、希望なんてなかったし……この先、なにを希望にして生きていけばいいのか……]
…………おれのせいか……?
………………おれのせいだな……。
一人の少女の尊厳を守るために一ノ谷家と戦った正義の魔法使いはどこへやら…………電気の消えた暗い子供部屋で一人うなだれているのは、孤独な中年女性を侮辱した醜い魔法使いだった。
ペケゾー@wizard34 2月12日
ごめん……
おれ、落ちる
力なくカケルがグループチャットに書き込む。
■コジロウ @blackmask99z 2月12日
港区のおばさんのことなら気にすんな
荒らした向こうも悪いんだからよ
■酒井カレン@blackmask79 2月12日
おつかれ
悩んでるなら、相談に乗るぞ
いつでも電話かけてこい
■red tree @blackmask5g 2月12日
一ノ谷家と一緒に戦った仲じゃないか
いつでも相談に乗るよ
お疲れ様
ペケゾー@wizard34 2月12日
みんなありがと
グループチャットの画面を閉じるカケル。その画面の後ろにあったブラウザが前面に表示され、タヒ子の配信が大きく映し出される。
タヒ子が磯貝に問いかける。
「磯貝さんはハッカーペケゾーについて、どう思ってますか? 世間では一ノ谷家をぶっ潰した、正義のハッカーと言われてますけど」
「……彼を憎んでいないと言ったら、嘘になります…………何度も心の中で、彼を、その……殺しました」
その言葉はカケルの心臓に突き刺さった。
「憎くて、悔しくて…………だけど、悪いのはわたしなんです……。あの日、掲示板を荒らしたのはわたし…………だから、酷い目にあってもそれは、自分の責任です」
…………磯貝さん……。
「ペケゾーさんというか……ブラックマスクとかいう人達は、レイプされて自殺した女の子のために一ノ谷家と戦ったんですよね……立派だと思います」…………ぐすっ……。
電話越しに僅かだが……磯貝寿美子の涙を流す声が入った。
しかし、その涙をあざ笑うかのように配信のコメント欄には、辛辣な書き込みが流れる……。
[少女のためには戦うけど、ババアのためには戦わないハッカー、ペケゾーwww]
[そりゃ、行き遅れのババアのためには戦わねえよなあ~~ww しかも荒らしw]
[つうか、この人ほんとにペケゾーとレスバした人? ぶつかりオジの時みたいにヤラセじゃないだろな]
[掲示板荒らしといて、被害者ぶってんじゃねえぞババア!]
「おい、お前らやめろ! せっかく磯貝さんがインタビューに応じてくれたのにいぃ~~!
ああ、磯貝さん……あたしのリスナーの言うことなんて気にしなくていいですからね! こいつらいっつも、こんな感じなんですよお~~多分全員、童貞ですから。キャハハハ!」
そう発言したタヒ子への罵倒コメントが流れるなかで、磯貝が答える。
「いえ……わたしも誰かに話せて、どこかホッとしているというか……胸のつっかえが取れたような感じもします。
最初に電話がかかってきた時は、どうしていいか戸惑いましたけど……話せて良かったです」
「お前ら、聞いたかあ~~! タヒ子さんと話せて良かったって、言ってるから!」
配信者タヒ子とリスナーとの罵り合いが始まったが、カケルは興味なく、ブラウザのタブを閉じた。
タヒ子がなぜ、自分やレスバした相手の情報を知っているのか……その疑問についてもカケルは関心を無くしつつあった。
今のカケルの頭の中は、自分の行いのせいで一人の女性の人生を壊してしまった……それだけだった。




