104. 配信者タヒ子
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夜の10時となり、タヒ子の動画チャンネルが配信待ちの画面へと切り替わる。
イメージキャラクターだろうか……萌え系といっていい、可愛らしいアニメの少女に『もうちょっと待ってね♪』と書かれた吹き出し。
[可愛い女の子が映ってるけど、これがタヒ子さん?]
[んなわけねえ~! ただのイメージキャラクターだよ、大輔さん
言ったろ、タヒ子は顔出ししない配信者だって]
[まったく、アニメの女の子見りゃ反応しやがって!]
[大輔さん、彼女がご立腹だぞ
美月ちゃんを怒らせんじゃねえよ、こええから]
[いや、彼女じゃ……]
……と、ブラマスメンバー達が雑談してる間にローディング画面が終わり、配信画面へと切り替わる。
そこに映っているのは、キーボードを前にして椅子に座っている女性……ただし顔は見切れており、画面に映っているのは胸上あたりから下……派手な絵柄の白いトレーナーに、下は黒のジャージ……トレーナーには金髪に染めた長い髪が胸までかかっている。
……なんか、ヤンキーっぽい人だな……指にドクロみたいな指輪はめてるし。でも…………
綺麗な指してるな……まだ若い人なんだろうなあ。
「ベル、おれが今見てる、タヒ子っていう配信者の情報をくれ」
『了解で~~す♪』
最近、ずい分と馴れ馴れしくなってきたなあ……このAI。
ベルが情報を持ってくる間、カケルはタヒ子の配信を見る。
画面横にあるコメント欄は、結構な速さで流れていく……。
……登録者数6万5千人か。
それなりに固定ファンは掴めてる配信者、なのかな…………しかし。
[ブスの配信、始まった!]
[おい、ブス! またやらせじゃねえだろうなあ~]
[ペケゾーって、ニュースに出てたアイツ? よく電話番号わかったな!]
[釣りに決まってんだろ! このブスはいつもそう]
…………しょっぱなから、酷い荒れよう……
コジロウパイセンは、しょっちゅう炎上してる配信者って言ってたけど……登録者6万5千人って、ファンというよりアンチだろ……。
『マスタ~
これがタヒ子さんの情報でえ~~す』
「あんがと
つうか、ベル……お前最近、ずい分と馴れ馴れしくなったな」
『え……ええええ?
い、いいじゃないですかあ~~別に……。
それともなんですか、マスターは従順なAIが好きなんですか?』
「そういうわけじゃない……。別に馴れ馴れしさに文句言ってるわけじゃない。
ただ最近、友達みたいにお喋りすることができて、悪くないなあ……って、思ってさ」
『……そうですか。
たしかに去年あたりだと、事務的な会話が多かった気がします』
……たしかにな。
昔を思いながら、カケルはエイト06に表示された配信者タヒ子の情報を見てみる。
岩田葉亜兎羅舞
女性 20歳
…………おい、ベル……
なんて読むんだ、これ……
『岩田葉亜兎羅舞、だそうです』
「…………本名?」
『…………はい』
……名付けた親の顔が見たい。
愛知県鬼崎町亀尻393-2在住
一人暮らしかあ……顔写真が添えてあるけど…………
金髪に染めた髪に、端正な顔立ち……一言で言えば、美人である。
切れ長の目に綺麗な髪、口紅は引かれていないであろう、桜色の唇…………つまり……
ほぼ、すっぴんなんだろうな。これをブスと呼ぶなら、全人類が超絶ブスになるだろう。
……なんで顔出し配信しないんだろ。顔出せば登録者数10万なんて、余裕でいくだろうに……。
カケルがそう思ってるなか、配信の主役であるタヒ子がようやく口を開き、コメントを読み上げる。
「もう、ブスとかやめて下さい……傷つきます」
「だったら顔出し配信しろって……いや、それは勘弁してください!」
「ペケゾーに電凸って嘘だろ……いや、嘘じゃないです! ほんとにします!」
……ほんとにするのかよ。
だったら、やってみろよ……おれの電話番号なんて、わかるわけないだろ!
「えっとお~~
電話かける前に、タバコ吸っていい? タバコ」
そう言って画面の中のタヒ子は、タバコを手に取って口に咥えると、マッチで火を点ける。
「いや、マッチがいいんだよねえ~~この、シュボっていうのがさあ~~」
[ライターでもシュボだろが、アホ!]
[中卒が風情を語るな、バカ!]
「高校には行きました!」
[中退してんだろが! 中退なら最終学歴中卒だ、大バカ!]
コメント欄で罵倒されているタヒ子を見ながらカケルは、エイト06にあるタヒ子こと岩田葉亜兎羅舞の素顔を見てみる。
……残念美人って、こういう人のことを言うんだろな。ほんと、なんで顔出ししないんだろ……顔出せば、罵倒してる連中の9割は黙るだろうに…………。
……って、逮捕歴あるけど…………なに?
2X21年8月3日 オレオレ詐欺の受け子をして逮捕(未遂)
ち~~~~~~ん!
………………しょうもな……。そりゃ顔出しできんわな……。
2X21年って……今20歳みたいだから、16歳……高校一年の時か? なるほど……それで高校中退か。
呆れ顔でカケルは、タヒ子の配信を見る。
一応、タヒ子はカケルより4つも年上なわけだが……カケルのタヒ子を見る目は軽蔑とまではいかないが、目上の人への敬いは完全に消えていた。
[おいブス、いつになったらペケゾーに電凸すんだよ!]
[どうせまたヤラセだろ]
[自作自演でもする気か、中卒]
……自作自演して再生数稼ぎってのが、一番しっくりくるけど…………。
まさかほんとに、かけてこないよな!?
「自作自演なんてしません! ちゃんとかけます!!」
そう言うと画面に映る配信者タヒ子は吸い終えたタバコの火を灰皿で消し……ちなみにその灰皿には、吸い殻の山ができていたわけだが…………。
自身のスマホを右手で取り、左手ではメモ書きを取る。
「えっとね、それじゃあ……教えてもらったペケゾー君の電話番号に、かけてみようと思いまあ~~す」
……教えてもらった電話番号? だ、誰だよ…………教えた奴って……!
い、いや……これ自体が" 演出 "って可能性も…………。
画面ではタヒ子が番号を打ち終わり、スマホを耳へと当てる……すると。
プルルルルゥ……!
「うわああああ!!」
カケルのスマホに、着信が入った。




