102. 脱ヒキへのお誘いパート2
「む、娘って……えっと、その…………」
「そのままの意味だよ、カケル君……。
まあ例えるなら、そうだな…………スターウォーズのベイダー卿とルーク・スカイウォーカーの関係みたいなものだな」
「す、スターウォーズって……」
「ん? 知らんかね……スターウォーズ。
わたしは大好きなんだ、あのシリーズ」
「いや、知ってますけど……」同じく大好きだけど…………某ネズミ会社に買収されるまでは……。
「娘は暗黒面に堕ちてしまってね」
……AI専制派の言い分を聞く限りは、娘さんのほうが正しいように思えるけど…………。
というか、これ…………ひょっとして、ただの親子喧嘩……?
下らん争いに巻き込まれてるだけのような気がしてきた。
「…………娘さんとは……仲悪いんですか?」
「フフ……嬉しくない質問だが、答えねばなるまい。
仲は悪い。ここ数年……娘の声は、動画でしか聞いたことがないくらいにね」
「すみません……」
「君が謝ることではない。親である、わたしの責任だ」
「………………」
「さて……そろそろ電話を切らせてもらうよ。
カケル君、先ほど言ったこと……忘れないでくれたまえ」
「……娘さんが暗黒面に堕ちた話?」
「ハハハ♪ そうじゃない。
…………化け物と雛鳥の話だ」
「世の中をひっくり返す化け物は、最初は雛鳥の様におとなしい……」
「そうだ……。君はAI専制派の理想を正義だと思っていないか?
少なくとも、専制派が人間社会に害を成すとは思っていない」
「……はい」
「今はそれでいい……だが、いずれ気づく…………彼らが……いや、ヤオヨロズが創り出そうしている未来が、どれほど危険かがね」
そう言い終わると、カマリ・橋本はカケルとの通話を切った。
…………無言で通話終了の画面を見つめているカケル。
やがてホーム画面に戻ると、椅子に座ってくつろいでいるベルに向かって指示を出す。
「ベル、AI専制党党首、橋本佐代の情報をくれ」
『ふぇ……ふぁい! 少々お待ちください』
急に声をかけられたベルは、すっとんきょうな声を出しながら、在在センへとアクセスする。
ポオ~~ン
ゼータのグループチャット、ブラマス四銃士の部屋に誰かが書き込んだようだ。
ブラマス四銃士の部屋……コジロウが作ったグループチャットである。その名前の通り、一ノ谷家とレスバトルを繰り広げた、コジロウ、美月、大輔、そしてカケルが入室できる部屋だ。
[ペケゾーちゃん、いる?
AI専制党の動画見た?
ぶっちゃけどうよ?
おれ様的には、だからなに? って感じなんだが]
[ああ、自分もそんな感じっす!
平等な社会つくりたいって、なんかありきたりっつうか……]
『マスター、橋本佐代さんの情報です』
「あんがと」
カケルはゼータを見つつ、ベルが持ってきた橋本佐代の個人情報を覗いてみる。
千葉県の生まれか。父親は……やはりカマリ・橋本か。母親は瑠璃亜。珍しい名前だなと思ったら、日本人とフィリピン人のハーフか……。カマリさんはどう見てもアフリカ系だし、ひとり人種のテーマパークって感じだな……たしかに動画で見たAI専制党党首、橋本佐代の顔は、アジア人ともアフリカ人とも、場合によっては白人よりの顔にも見えた。
カケルがAI専制党党首のデータを眺めていると、グループチャットには美月と大輔が来て書き込みを始める。
[こん、お前らもそんな印象か
わたしと大輔も、そんな感じだ
AI専制派って、そんな脅威かあ? って思う]
[あれ……大輔さんって、グルチャにはまだ書き込んでないけど]
[こんばんは
今、美月さんとファミレスに居るんだ
今、一緒にAI専制党の動画見てた]
[おいコラ!
なにデートしてんだよ!]
[で、デートじゃないよ!
同じ稲田大学で、場所も近いから
夕食とってただけで]
[けっ! 仲良くなりやがってよお~~]
[みんなでいつか、食事したいね]
そう言ったのは、■red treeこと赤木大輔。
[ああ、オフ会とかやりてえよな
おれも東京見物とかしたいし……
なあなあ、東京でオフ会やらね!?
一ノ谷家潰した、四銃士のオフ会!]
…………え!?
とは、カケル。
[ああ、いいな!
みんなには直接会って、礼を言いたかったしな
今度やろうよ、オフ会
カケルもいいだろ?
お前神奈川住みだし、東京にはすぐ来れるだろ]
ち……ちょっと待てい!
[お……おれ、引きこもりだから
外に出れない……]
もえさんも、そうだったけど…………
どいつもこいつも引きこもりを簡単に外の世界に誘いやがってえ~!
そんなホイホイ外に出れたら苦労しないっての!
[ペケゾーちゃあん、外でろや!
他人はお前のことなんて、気にしてねえっての!]
[そうだぞ、カケル
彼女いるだろ、勇気を出せって!」
[いや、コジロウ君、強制はよくないよ
ペケゾー君、自分のペースで頑張るのが一番だよ]
[今、ファミレスで大輔に窘められた
すまんな、カケル
お前は、お前のペースで頑張ればいいと思うよ]
……大輔と美月がフォローを入れる。
それを神奈川の地から眺めるカケル……。
そりゃ……いつかは外に出て、脱ヒキしなきゃいけないんだろうけどさ…………それを今求められても……。
…………脱ヒキ……。
カケルの脳裏に、それは重くのしかかる……。
いつかは、しないといけない…………では、そのいつかとはいつだ!?
……わからない………………いや、今だろ……。
いつかはしないといけないんだ……しなければ、一生引き籠り…………。
今やれよ……!!
恋人のもえから誘いがあったろ?
ブラマスのメンバーからも、お誘いがあったはずだ……!
外に出る理由は揃ってる!
外に出ろよ…………夜ではなく、昼の外に……!!
みんなが待っててくれている…………今、外に出ないで、いつ外に出るんだ……!!
心の奥底で……何者かが、ずっと叫んでる!
カケルは耳を塞ぎたい…………だけど声は、頭の中に響き渡る!!
や……やめてくれ!
夜と違って昼間は、人がいっぱいいる……知り合いにでも会ったら…………引きこもってる惨めな自分を見られてしまう……! 恥ずかしい…………嫌だ……みっともない自分を見られるのは……。
…………じゃあ、一生引き籠ってるのか?
……………………それも嫌だ。




