101. AI専制派
カケル達ブラマスのメンバーは、それぞれの場所で動画のリンクをクリックする。
神奈川県のカケルは自宅の子供部屋から。
岐阜県のコジロウも同じく子供部屋から、食後のデザートとも言うべきチョコモナカを頬張りながらクリックする。
東京都の美月と大輔は二人でファミレスに居た。食事を中断し、それぞれスマホから動画を閲覧する……。
動画のタイトルは、【AIと歩む未来 日本AI専制党】
日本AI専制党!?
なんだそれ……初めて聞いたけど…………正式な政党なのか?
疑問を持ちながらも、とりあえず動画を見るカケル……他のメンバーも思惑は一緒だった。
その動画に映るのは、浅黒い肌の女性……流暢な日本語を話しているので日本人かと思っていたが、その顔立ちは…………外国人? いや、ハーフだろうか……若いとも思っていたが、年齢は30代くらいに見える。シンプルな会議室で彼女は力強く喋る。
[皆さん! 皆さんは、今の日本をどう思っているでしょうか?
数十年前の日本は、一億総中流と言われておりました。ところが今はどうでしょう?
総中流どころか、格差社会、競争社会、実力主義と言われております! 実力がない者は敗者となり、勝者に全てを絞り取られる社会……そうなってはいないでしょうか!?]
「なんだよ、これ……。よくある底辺負け組相手の再生数稼ぎかあ~?」
コジロウが暖房の効いた部屋で、アイスを食べながら呟く。
[親ガチャ、環境ガチャ、才能ガチャ……ガチャなんて言葉が、世間を賑わせております! たとえ生まれが不幸でも、環境が悪くても努力すれば成功する! そう言われて久しいですが、本当にそうでしょうか?
どうあがいても、才能がない人間はいます……野球少年全員が努力すれば、全員メジャーリーガーになれるでしょうか?
いえ、なれないでしょう……! 悲しいけれど事実を言うなれば、努力しても報われない人はいるんです!!]
東京都のファミレスで美月と大輔は、なんとなく興味を持ちながら、その動画を見ている。
[では、その人達は放ったらかしでいいのか……そんなわけはありません! 救わなければなりません!
どうやって……? 我々人間には無理です…………しかし!
世界最高峰の人口知能ヤオヨロズならば、できます!!]
…………yaoyorozは神になったとカマリさんは言っていたが、結局はAI……。
なにができる?
動画を視聴していたカケルは段々と退屈になっていく……。
[ヤオヨロズは……AIは、才能無き者に才能を与えることができます!]
[皆さん、動画配信サイトのタクサンネルをご覧下さい! そして検索して下さい!!
絵でも音楽でも、映画でも……AIで作られた動画をいくらでも探せるはずです!
そうです…………今まで才能はあっても創る技術がなかった者達が、AIの力によって、才能を開花させているのです!!]
……AI反対派の創作者連中に叩かれそうな動画だなあ~。
ゲーミングチェアの上であぐらをかきながら、電子タバコに手を伸ばすコジロウ。
………………煙を吐き出しながら呟く。
「まあ……そういうおれ様も生成AIには、エロエロ関係でお世話になってるけどな♪」
[これはまだ、はじまりに過ぎません……。
わたしは今、才能はあっても創る技術がなかった者達……と言いました。では、やはり冒頭で述べた才能がない人間は救われないのでしょうか?
いいえ、救われます! いずれ……いえ、もうすぐ全ての人間が救われる時代が訪れます!
たとえ才能がなくとも、こんな小説が読みたい、こんな漫画があったら面白い! こんなゲームを作れないか? そう考えるだけでそれらを具現化することが可能となるのです!
人工知能ヤオヨロズの手によって……!!]
…………これがAI専制派の……yaoyorozが創ろうとしている未来なのか?
カケルは、半ば拍子抜けした表情で動画を眺めている。
夜の蛍池公園で、神となったヤオヨロズとのレスバトルを頼まれた……。
神が創ろうとしている世界を阻むため、カマリ・橋本は仲間を探していたらしい。
それほどまでにして阻みたい、神が創ろうとする世界……どんな恐ろしい世界かと思いきや、全ての人間が平等になる世界を創ろうとしている。
それのなにが不満なんだ……? まあ、平等社会ってなんか胡散臭い響きはあるけれど、聞いてる限りでは特別おかしなこと言ってないよな…………。
カケルはパソコンの前から立ち上がると、部屋の隅にあるミニ冷蔵庫に行き、冷えたコーラを取り出し一本飲む……すると。
プルルルル!
ライチョウマークがついたスマホ……エイト06に着信。発信者はカマリ・橋本……。
エイト06を手に取り、出るべきか少しの間考え込むカケルだったが、出ない理由も特になく画面をスワイプして電話に出る。
「動画を見てくれてるようだね、カケル君」
「……在在センには、個人が視聴している動画のシークバーの動きまで記録されてると聞きましたが、なるほど……本当なんですね。今は再生時間8分40秒のところです」
「フフフ……! 相変わらず状況把握が完璧だ。君のような頭の回転の速い人間との会話は実に楽しい……ストレスが溜まらないからね!」
「……動画の感想を聞きにきたんですか?」
「その通り!」
「神となったyaoyorozが創ろうとしている世界は、全ての人間が平等になる世界……それを支持しているのが、あなたや一ノ谷十三が言う、AI専制派っていう理解でよいですか?」
「それでよい!
……で、動画の感想はどうかね?」
……カケルはカマリの話を聞きながらも、動画も見ている。
[ヤオヨロズの統治によって、全てが変わります!
人類の……世の中の進化は、全てAIの手によって進められていきます。我々人類が汗水を垂らして社会を良くしていこうという行動はもう、しなくてもいいんです。それらは全てAIが考え、実行プランを提示するでしょう。あとはそれに従えばよいだけ……。
近い将来、人間は労働の義務から解放されます!」
「労働しなくていいなら、おれはAI専制派を支持します」
「フフ……引きこもりの君らしい意見だ。
では…………AIが人類の行く末を決めることも、小説、絵画、音楽……文化を創作することも認めるかね?」
「……よくわかんないですけど、自分もわからないことがあったら、ベルとかAIに答えを聞きますし……。
まあ、いいんじゃないですか?」
カケルはそう答えながら、日本AI専制党の登録者数を見てみる。
登録者数1.2万人
もえさんのタクサンネルの登録者数は9万人だったような……。
コスプレイヤーよりも、明らかに低い登録者数……ほんとに脅威なのか、AI専制派。
電話口からは、カマリ・橋本の声。
「……ふむ、なるほど。まあ、それも一つの考えだ。
だがカケル君、これだけは言っておくぞ……。
世の中をひっくり返すような化け物は、最初から化け物の姿をしていない」
「……………………」
「名前は濁すが……今、世界を混乱させているアメリカ大陸の某大統領」
……全然、濁してない。
「彼が大統領選に出馬した時……皆、色物候補だと思ってた。
日本の与党関係者も、どうせ落ちると思ってた……ところが彼は当選した。
彼が大統領になったことを嫌い、アメリカ本国から海外へと移住した人々もいた……そんな彼らを当時は多くの人が笑っていたが…………今も笑えるかな?」
「…………なにが言いたいんです?」
「さきほど言った通りだ……世の中をひっくり返すような化け物は、化け物の姿で現れない……最初は、卵からかえった雛鳥のような姿で現れる…………。
よちよち歩くその姿を見て人々は笑い、同情し……その雛鳥を助けようともする……哀れな雛鳥を助けている自分こそが善人だと思うわけだ」
「………………」
「しかし、やがてその雛鳥は…………世界を焼き尽くす怪鳥へと成長する……!
第二次世界大戦開戦前……イタリアの独裁者ベニート・ムッソリーニが初めてアドルフ・ヒトラーと会談した時、彼はドイツの独裁者を小物と評した。
しかし、その数年後……彼はその小物の言いなりになるしかなかった」
「…………えっと」
「……気をつけるがいい。今は小さな火種かもしれないが……やがてそれは大きな業火となって、世界を焼き尽くす……!」
……不必要に不安を煽りやがって…………!
カケルが視線を向けるモニター画面では、AI専制党の動画が終わろうとしていた。
「ご視聴ありがとうございました。AI専制党党首、橋本佐代でした」
「動画の最後は視聴者に対して頭を下げるべきだな」とはカマリ・橋本
「……突っ込むところ、そこですか? 別にいいじゃないですか、そんなの」
「よくはない。わたしとしては日本国の価値観を尊重し、礼儀正しく育てたつもりだからね」
「……は!?」
い、いや……それってつまり………………。
「出来の悪い娘ですまんな……カケル君」
む、娘!!?




