四十八・揺らぐ森の戦士たち
俺は長老の話を聞いた。
ここは**深緑の森**の中にある、ウッドエルフの郷――**常葉の庵**と言うらしい。
そして、俺が呼ばれた理由は、さっき三姉妹に聞いた話とほとんど同じだったが、さらに詳しい内容だった。
ウッドエルフは決して弱い種族じゃないはず。
遠距離では弓矢を得意とし、近距離では細剣を使いこなす。森に適応した戦闘力は高く、個々の技術も優れているはず……。
(そのウッドエルフたちが苦戦してるってことは……相当な相手なのか?)
俺の中に、不安が募る。
数週間前――突然、襲ってきた魔族。
それに対抗し、命がけで戦ったウッドエルフたち。
しかし、犠牲者は多く、未だにその脅威は去っていないという。
(……これは、思った以上にヤバい事態かもしれないな。)
俺はじっと長老の話を聞きながら、この戦いにどこまで関わるべきかを考え始めた。
「それで……相手の戦力はどれくらいなんですか?」
俺の問いに、長老はゆっくりと首を振った。
「厳密には分かりません……いえ、分かることができないのです。」
どういうことだ……?
俺は眉をひそめる。
長老の話によると、どれだけ魔族たちを倒しても、数が減っている気配がないのだという。むしろ、増えているようにさえ感じると……。
(……なるほど、召喚系か転移系だろうな。)
俺がここに飛ばされたように、どこかから魔族を送り込んでいる。
そして、あの魔族――俺をこの森に飛ばしたあいつも、おそらくこの村を襲っている魔族と無関係じゃないはずだ。
……繋がったな。
俺は静かに目を閉じ、思考を整理する。
この状況、放っておけばいずれ村は壊滅するだろう。
でも、どうしてここ 《常葉の庵》 を襲う?
目的はなんだろう……?
ウッドエルフの集落は確かに美しいし、森の中での戦闘にも長けている。だが、戦略的に見て、ここを襲う理由があるとは思えない。
すごいお宝を持っているとか……?
まさか、この村には何か特別な秘宝でも眠っているのか?
それとも、ウッドエルフそのものに価値があるのか……?
俺は長老の表情を伺いながら、問いを投げかけることにした。「あの……この村には、何か特別なものがあるんですか?」
俺の問いに、長老は少し黙り込んだ後、ゆっくりと口を開いた。
「えぇ……あるにはあるのですが……奴らの目的が“それ”だとは思えないのです。例え奴らがそれを奪っても、なんの価値にもなりませんから……。」
俺は少し気になったが、追求しないようにしよう。
(なんか面倒くさくなりそうだし……。)
だとしたら、他に理由があるのか……?
その時、長老が静かに続ける。
「……目的なら分かるかもしれません。恐らく奴らの狙いは“封印”の解除。」
封印……? 俺は思わず眉をひそめる。
この森には、太古の時代にウッドエルフの長が魔族を封印した場所がある。
その封印を解くためには、エルフの血や儀式が必要。
つまり――魔族は村を襲い、エルフたちを捕らえ、封印を解くための生贄にしようとしている可能性がある。
(……って、これじゃねぇかぁぁ!!)
こんなの確定でしょ……!!
どうやら昔は、この《常葉の庵》のウッドエルフたちは相当強かったらしい。だが、今は衰退し、魔族に抗う力を持つ者がほとんどいない。
……厄介なことになってきたな。
話を聞いたあと――
食事が提供された。
目の前には、ウッドエルフたちが用意した豪華な料理が並んでいる。
(……美味しそう。)
正直、エルフって草とか葉っぱしか食べないイメージがあったけど、目の前にはしっかりとした肉料理がある。
豪華なお肉……!!
これは嬉しい誤算だ。俺は遠慮なく箸を進め、存分に堪能した。
食事を終えると、一室に案内される。
ここに寝泊まりしていいらしい。
俺は腰をかけると、途端に睡魔に襲われた。
(はぁ……眠くなってきた……。)
今日は本当にいろいろあった。突如として飛ばされ、魔族と戦い、ウッドエルフたちと出会い、そして厄介な話を聞かされ……。
(また……明日……考え───────)
意識が沈んでいく。
まるで気絶するように、俺は深い眠りへと落ちた。
「——ヒナタ様!! 危険です!!」
……ん……?
「起きてください!! 早く!!」
何かが引っかかる。胸の奥がざわつき、脳が危険を訴えている。
「ヒナタ様ッッ!! 目を覚まして!!!」
――一瞬で全身が覚醒した。
「なんだ……!! ん……!」
瞬間、俺は飛び起きた。
同時に、視界の端に光る刃が映る。
(っ……!!)
剣が振り下ろされる——!!
「あっ……ぶっねぇ!!」
ギリギリのところで身を翻し、危機一髪回避する。
枕元の布団が真っ二つに裂かれ、鋭い切っ先が床にめり込んだ。
(……いきなり、襲撃!?)
俺は素早く体勢を立て直し、闇の中の襲撃者を睨みつけた。
ほんとに危なかった……。
俺は冷や汗を拭い、荒れた呼吸を整える。
(寝る直前に**《魔力感知》**を発動させておいて良かった……。)
もし何の対策もせずに眠っていたら、今頃どうなっていたか分からない。
しかし――
(……ただ、警告音がリリスの声なのは、相当俺も狂っちゃったな……。)
幻聴ってやつか? いや、もしかしてリリスが遠くから本当に何かを察知して知らせてくれた……?
どちらにせよ、今はそれを考えている場合じゃない。
目の前にはまだ、俺を狙った**“襲撃者”**がいるのだから。




