四十九・誤断
相手は……4人か……。
俺は襲撃者たちを冷静に見渡す。
「で、お前たちはどこの誰だ……!」
鋭く問いかけると、リーダー格の男――先ほど俺に剣を振るった奴が、一瞬驚いた表情を見せた。
(……俺が気づいていたことに驚いてるな。)
ここ、《常葉の庵》に誰にも気付かれずに侵入するなんて、本来不可能なはずだ。
近くには強力とは言えないが、最低限の結界が張られている。
それを突破し、俺の寝込みを襲った――それはありえない。となると元々この地にいた人物。
つまり、……ウッドエルフたちは、はなから俺を殺すためにここに招待したのか……?
一気に腹が立ってきた。
人の善意を無下にしやがって……。
「正体を表せ……! 卑劣なる魔族よ……!!」
……はぁ? 何言ってんだこいつ。
剣を構えながら、リーダー格の男が睨みつけてくる。
「分かっているんだぞ! 貴様から放たれるその黒き魔気……魔族や魔人とまったく同じではないか……!!」
(……ふざけんなよ。)
俺は魔族なんかじゃない。魔人? ある意味否定はできないけど……!
俺は人間だ。突然異世界に飛ばされた、ただの可哀想な人間なんだよ!!
「もういい……黙れ。」
静かに、だが確かな怒りを込めて言い放つ。
もし**《常葉の庵》**の連中が全員グルだったのなら、もう遠慮する必要はない。
怒りとともに、俺の周囲に禍々しいオーラが溢れ出す。
黒き焔が揺らめき、空気が震え、異様な静寂が場を支配する――。
その瞬間─────────
“《バリィィン》”
鋭い音を響かせ、窓ガラスが粉々に砕け散る。
吹き込む夜風とともに、颯爽と駆けつける影――。
(なんだ……!? 新たな敵襲か……!?)
思わず身構える。だが、違った。
そこにいたのは――あの三姉妹だった。
長女・ラミアは、一瞬で剣を持っていた男の懐に潜り込み、力強く壁に押し付ける。
「動くな。」
冷たい声とともに、鋭い刃が男の喉元に突きつけられた。
次女・リーリャは静かに敵の背後をとり、迷いなく一撃で気絶させる。
「……終わった。」
淡々とした口調でそう告げる。
三女・ルルンは2人の相手をしながら、軽やかに指を振るった。
「《フロスト・スパイク》!」
氷の槍が床から突き出し、敵の動きを封じたかと思うと、すぐさま氷結の魔力が炸裂し、2人をまとめて吹き飛ばした。
「間に合ったぁ!!」
ルルンは満面の笑みで拳を掲げる。
この三姉妹、普通に戦闘力高いじゃん……!?
ていうか... この集落ごと吹き飛ばそうとしてたなんて、絶対言えない……!!
ごめんなさい……!!!
俺は心の中で全力で土下座しながら、静かに視線を逸らした。
俺が呆気に取られていると、ラミアが壁に押し付けたまま、鋭い視線を主犯格へ向け、怒声を放つ。
「何をやっているんだ……貴様ァ!!」
「くっ…なぜここに…お前らが…!」
男は苦しそうにうめきながら、壁に押し付けられたままラミアを睨みつける。
「あれだけのオーラを感じれば、気づかないほうが難しいでしょ?」
ラミアは冷たい視線を向けながら、静かに言い放った。
「何故…こんなことをした…!! タリオンッ…!!」
ラミアが怒りを滲ませながら、主犯格の男を睨みつける。
タリオン…?
俺はその名前に引っかかり、頭の中で記憶を探る。
(えっと……確か、長老の部屋にいた若い男のウッドエルフか?)
そういえば、あの場にいた二人の若い男のうち、一人はずっと俺を睨んでいた気がする。
(……まぁ、確かに最初から俺に敵意むき出しだったしな。)
でも、まさかこいつが襲撃の主犯格だったとはな……。
──そして、数分後。
静寂に包まれた夜の森の中、俺たちは屋敷の外に立っていた。
闇に照らされた広場の中央、襲撃犯たちは縄に囚われ、無力な姿を晒している。
緊張感が張り詰める中、足音が響いた。
「……申し訳……御座いませんでした……!!」
長老が俺の前に歩み寄ると、そのまま膝をつき、深々と頭を下げた。
土下座――いや、これは謝罪の極みとも言うべき深い礼。
思わず息をのむ。
(……え、マジで?)
夜風が静かに吹き抜ける中、長老の声だけが、重く響いた。
「だ、大丈夫ですから、顔を上げてください。」
俺は焦りながら長老に声をかけるが、彼はなおも深く頭を下げたまま、震える声で続ける。
「そうはいきません……!!
この《常葉の庵》を護ってくれようとする貴方様に、こんな仕打ちをするとは………!!!」
長老の顔は涙と泥でぐしゃぐしゃだった。
そのとき――
「何やってんだ! 長老…!!」
縄に囚われたままのタリオンが怒声を上げる。
「三姉妹も見ただろ…!? あの禍々しいオーラ! コイツは魔族のな────────」
“《ドンッ》”
鈍い衝撃音が響いた。
「……黙れ。」
長老の拳が、タリオンの頬を撃ち抜く。
見た目に反するほどの威力。
タリオンの身体がぐらつき、縄に縛られたまま地面に崩れ落ちる。
こ…こえぇ……。
俺は無意識に喉を鳴らした。
見た目はただの優しげな老人――でも、今の一撃……完全に武闘派のそれだろ。
(この爺さん……魔力を隠してるから気づかなかったけど……相当な実力者だな……?)
静まり返る空気の中、長老は微動だにせず、ただタリオンを見下ろしていた。
(……ヤバい。怒らせたら一番ダメなタイプかもしれない。)
俺は心の中でそっと警戒レベルを引き上げた。




