二十四・絶望
駿は怯えていた...自身の弱さに...
彼だけでは無い。ここにいる〝カイラナ〟以外は皆...
これから起こるであろう未来に...
〝死の恐怖〟に──────────
「(確かに...こいつは強い...目の前に居るだけで立っていられなくなるほど圧倒される...!でも皆の不安感(拭えない限り掴み取れる勝利も無い...!)皆!!必ず勝とう!僕たちはこんな所で死ねない!
いくぞぉぉぉ!!!」
“オォォォォ!!!”
蓮の掛け声の元、一斉にカイラナに向かって飛び出す勇者一行。初撃は蓮の剣がカイラナに届きそうになっていた。
「(奴は武器を持っていない...!神帝剣は防げない!!) ༅光刃༅!!!」
神帝剣は光り輝き、カイラナの首筋を狙っていた
はずだった...
その刃の先にはカイラナの姿は無く、蓮は空を切っていた。
(何処だ...!!何処に消えた...!?)
「ふ〜ん...剣筋は素人...それに、遅すぎる!!」
突如、蓮の背後から現れたカイラナは瞬速とも言える速度で蓮を蹴り飛ばした。
駿はその隙をつき件を突き出す。同時に朱莉も炎を纏う矢で援護を行う。
「༄《迅速駿馬》༄!!
この速度なら...遅れはとらない!!」
「༄《深紅弓矢》༄
(駿を援護...!一つの隙も与えない!)当たれェ!!」
「だからァ...遅いって言ってん───」
「༄《絶対憎悪》༄」
駿の攻撃を容易く避けたカイラナだったが、伊集院和真の放った能力・絶対憎悪に標的を変更させられたことにより一瞬...判断を誤った。回避した先に居たのは獅子王 豹牙だったのだ。
「何がァ!遅いってェ!!?
〖 ༅極魔拳༅〗!!(七瀬未来のバフで破壊力は数倍だァ...!)」
“ドォォォォオン”
豹牙の拳はカイラナに直撃し、追い討ちをするように朱莉の矢も爆発を起こしながら命中した。辺り一面は砂埃に包まれカイラナの所在を分かるものは居ない。
「くたばったかァ...!!イカレ女ァ!」
豹牙が意気揚々に叫ぶが、今までの攻撃は全て無駄だったと思い知らされる。
「フフふっ...オイオイ...まじかよォ...これが、勇者共の力ァ...?嘘だろ...?これじゃァ...まるで...!
まるでェェェ────────!!!
“弱すぎる”!!!!!!!」
そう──────────
カイラナにはかすり傷一つ付いていなかったのだ。
カイラナの禍々しい威圧感により、勇者一行は身震いせずには居られなかった。誰一人動くことすら出来ずに数秒...彼等にはあまりにも長く感じる程の時だった。しかし、その恐怖に打ち勝つべく立ち上がる者が一人...
神宮寺蓮だ。
「僕たちは...!お前のような悪意ある者を倒す為に異世界に来た......!!だから...こんな所で!!負けてる暇は無いんだ.....!!!」
蓮は口から溢れる血を拭いながら自らの使命を叫ぶ。まるで自分自身を鼓舞するかのように。その言葉に反応するように仲間たちもカイラナに立ち向かう意志を示した。
「はァ...威勢だけで...このカイラナに勝てると思ってんのかよォ!!青臭い餓鬼共がァァ!!全員まとめてかかってこいやァ...!!!」
“いくぞォォォ!!!”
勇者一行の一斉攻撃がカイラナを襲う。勇者である蓮、カイラナと唯一対抗出来る速度を持つ駿、常人離れした怪力を持つ豹牙が前衛・朱莉、和真による矢と魔法による遠距離攻撃・未来による味方への加護。パーティとしてはそれなりに形になっていた。しかし、簡単に遇らわれてしまう。
「(ふん...勇者って言っても、発展途上のコイツらじゃこの程度かァ...こんな奴らがいずれバフォメット様の脅威になるとでもォ...?つまらねェな...出来れば成長仕切った勇者達と戦いたかったァ)じゃあ先ずはァ...!小賢しいハエでも潰すかァ!!」
”ドッドッド“
「駿......!!!」
カイラナは凄まじい速さで駿に数撃を入れ、地面に叩き潰した。駿の意識は一瞬にして消えた。
「絶対に...!!許さないぃ...!!!」
「だからァ、遅いんだって。」
蓮は決死の一撃を放つ暇もなく、カイラナの暴力の餌食になってしまう。
“グァ...”
【勇者】神宮寺 蓮は倒れてしまった。
「み...んな.....逃げて...」
蓮の今にも絶えそうな囁き声はその場の勇者一行に勇者の敗北を伝えたのだ。
「ちッきしよォォ!!オィ... 伊集院 和真...!女共連れて...逃げろォ...!」
「な...何を...!?」
和真はその提案を断ろうとするものの、豹牙の顔を見て言葉を失った。そう、あの豹牙が戦慄し苦悶の表情をしていたからだ。
「わ、分かった...!私が必ず...彼女達を安全な場所まで連れて帰ると約束しよう...!!」
「誰がァ!生きて帰って良いって言ったよォォ?!」
和真が動き出そうとした瞬間、同時にカイラナも和真に向かっていた。
「てめぇの相手は、オレだろォがァァ!!」
それを食い止める為に豹牙はカイラナの進行方向に飛び出る。しかし──────────
”ドカッッ“
「(な...なんだァ...今...何が起こったンだァ...?時間稼ぎすら...出来ねェのかョ...!!)」
豹牙は身に起こったことを理解出来ずにいた。無理もない。一瞬にして数十を超える殴打を食らったからだ。戦闘不能になった豹牙を前に和真は悟った。ここから脱出することは不可能だと...
「くッくそ...!攻めて...わ────────」
“グシャッ”
────── 数分後
「なんだよォ...つまらねェ戦いだったなァ...」
カイラナの足元には見るに堪えない勇者達の姿があった。流血し、今にも息絶えそうだ。その光景は”絶望“以外の言葉では言い表せれないだろう。
“ハァッ...ハァ...”
「やっぱり...最後まで立つのはお前かァ...!!」
カイラナの前に立ち塞がったのは...
【神宮寺 蓮】だった。
「蓮...くん...」
「蓮.....」
他の勇者たちも、まだわずかに息をしていた。しかし、その目に宿るのは恐怖と絶望だけ。彼らはかすれた声で「やめろ、蓮……」と懇願した。けれど、その言葉は虚しく宙を彷徨うだけだった。
蓮は悲しい眼差しで彼らを見下ろす。かつて共に戦った仲間たち。
「僕…が…やるしかない…!!」
その一言が静かに響く。力を求め、運命に抗った蓮が選んだ結末は、誰にも止められない。
しかし────────
蓮の勇気も、カイラナの圧倒的な力の前では、あまりにも無力だった。
“スパッ”
乾いた音が静寂を切り裂いた。
「きゃああああ!!」
悲鳴が響く。その瞬間、蓮の首は宙を舞い、地面へと転がった。鮮血が噴き出し、地面は赤黒く染まっていく。それはまるで、勇者としての彼の証すら無情に塗りつぶすかのようだった。
誰も動けない。ただ立ち尽くし、唇を噛み締め、恐怖に凍りつくしかなかった。
カイラナは冷ややかな目でその光景を見下ろし、ただ一言。
「弱すぎる…」
勇者一行は、ついに知ることとなった。
自らの無力さを。圧倒的な力の差を。そして、理不尽とも言える世界の残酷さを——




