二十三・三昏畢
「タナトスまで、あと何分だ?」
「え、ええと……約三時間ほどかと……」
魔獣の背にまたがり、疾風のごとき速さで大地を駆けるカイラナ。その目的はただ一つ——勇者を殺すこと。
風が唸る。眼前には、勇者一行の姿が脳裏に焼きつくように浮かぶ。カイラナの口元が歪む。
「首を洗って待ってろよ、勇者ども……! オレの手で、全員ぶっ殺してやるからなぁッ!!」
タナトス王国を目指し、闇の中を疾走するカイラナ。その戦いの火蓋が、今まさに切って落とされようとしていた——
─────── 一方その頃、自らの危機を知らない勇者達はいち早く強くなる為に訓練に励んでいた。
「ふぅ…少し、休憩にしよう!瞬!」
「はぁぁ…疲れたぁ。やっぱ凄いよ蓮は…俺なんか追い付ける気がしないよぉ。」
「そんなこと無いさ!瞬だって最初に比べたら見違える程強くなってる…!それに僕達はチームだ!誰か一人でも欠けたらダメなんだ…!」
意気揚々としていたのも束の間、
勇者一行に緊急の報せが入る。
「はァ...はぁ...ここに居られたのですね...!
勇者様方!」
ネチェルが息を切らしながら駆け寄ってくる。額には汗が滲み、その表情にはただならぬものがあった。
「どうしたんですか?ネチェルさん」
ネチェルは一息をつくととても恐ろしい形相の顔で言葉を放った。
────── 〝魔王〟バフォメット配下
【三昏畢】の一人...悪臨のカイラナが
こちらに向かってきています.....!!!
その言葉を聞いた勇者一行は直ちに状況を判断し、戦闘の準備を始める。異世界に来てから2ヶ月程度...こんなにはやく魔王軍との関わりを持つことを予測していた者は居なかった。勇者達は浮かない表情だ。無理もない、死暗竜との戦いで自らの弱さ・危うさ・脆さを知っているのだから。──────だが
「ここにいる民達は絶対に傷つけさせはしない!!」
蓮の放った一言に周囲のものたちも前を向いたのだった。
〝さぁ...!みんな、行こう...!!〟
勇者一行はネチェルと共に現場に急行して行った。他の生徒はネチェルの判断の元、その場で待機を命じられた。勇者では無いと言っても異世界からの来訪者、特別な能力を持っている者達だ。万が一、勇者が敗北した際の王都を守護する為の保険なのだ。
──────── 数分後
勇者一行は馬車でカイラナの元へと向かっていた。
案内係の若者が口を開いた。
「カイラナもこちらに凄まじい速度で向かってきています...!半刻もすれば衝突するかと...」
「大丈夫です。僕たちは黒死竜との戦いから強くなった...!!相手がどんな強い敵であろうとも、必ず勝って護ります...!!」
蓮の言葉にパーティ全員が頷いていた。
決戦の場は王都から隣国へと通ずる森の中。
────── 〝緊急停止〟!!
突如、馬車が止められた。勇者達はついに来たかと、外へと飛び出す。勇者達の前に居たのは────
血に染った戦闘狂、
【三昏畢】 カイラナだった。
「─────── はじめましてェ!!
勇者共ォ...!!私は魔王バフォメット様配下の一人、【三昏畢】カイラナ!またの名を【悪臨】とも呼ばれているゥ!!んん...あぁ、お前らの挨拶はいいや...どうせ全員死ぬんだし、精々私を楽しませてくれよォォォ!!!」
カイラナが微笑みながら放ったその叫び声は、勇者達にとてつもない威圧感を与えていた。
「(なんて圧だ...死暗竜の比じゃない...!)みんな!!
戦闘態勢...!!!」
蓮の掛け声により、素早く戦闘のフォーメーションを組む一行。
「(蓮...正直、こんな化け物には勝てる気がしないぞ...正直舐めてた...魔王の配下の一人くらい勇者パーティである俺たちなら余裕だって...!!一目見てよく分かった...!俺たちは井の中の蛙に過ぎないのだと...!)」
駿は怯えていた...自身の弱さに...
彼だけでは無い。ここにいる〝カイラナ〟以外は皆...
これから起こるであろう未来に...
〝死の恐怖〟に──────────




