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過去

「チェン、聞こえるか。

 建物からザクロが出てくるぞ」

「おう、わかっている。

 こっちからも確認できた。

 そろそろスタンバイするぞ。

 ワンは三分経ったら、建物の右から来てくれ」

 当時、三十五歳のチェンと三十四歳のワンは、一緒に仕事をしていた。

 そして他にも、一緒に仕事をしていた男達が二人居た。

「リュウ、聞こえるか」

「ああ、俺は正面から行く。

 ザクロはウィリアムスに任す。

 聞こえているな、ウィリアムス」

「聞こえているよ。

 ザクロは俺に任せておけ。

 お前達は絶対にヘマをするなよ」

 一人は『リュウ・ファオ』といって、ワンと同じ三十四歳で若い時からの親友だった。

 そしてもう一人は、『ビクター・ウィリアムス』という男だった。

 彼だけは、三人と違ってアメリカから来た白人だった。

 そんな四人の『殺し屋』という仕事は、まだまだ駆出しだった。

 ザクロと言っていたのは、ターゲットの事を意味していた。

 その四人が今から殺そうとしているのは、アメリカ人の男だった。

 そいつは表の顔は上院議員という立派なものを持っていたが、裏ではロシアや北朝鮮と繋がりがあり、偽札や麻薬などをアメリカンマフィアが取引し易い様にしている男だった。

 ウィリアムスは、元海兵隊にいた為に射撃の腕は抜群だった。

 ワンを含む他の二人も、元は人民軍に所属していて腕も立つ。

 四人は役目を決めて仕事をした。

 先ずは、ターゲットのザクロが建物から出て来る。

 そのザクロには、必ず数名の警備が側についている。

 そこでチェンが、建物の左からザクロに向って走ってくる。

 もちろんザクロの警備が、チェンの方に気付いてザクロを守ろうとする。

 チェンはその警備を銃で撃つ。

 だが、警備全員を撃つのは難しい。

 それに警備と撃ち合いになれば、時間もかかるしその隙にザクロは逃げてしまう。

 そこへ、建物の正面からリュウが出てきて警備を銃で撃つ。

 二人なら、警備全員を撃ち殺す事は可能だ。

 そして警備を全員撃ち殺した時に、スナイパーのウィリアムスがザクロの頭を撃ち抜く。

 その後、建物の右からワンが車で来る。

 その車に、チェンとリュウを乗せて走り去る。

 最後に、ウィリアムスと合流する。

 これが四人の暗殺パターンだった。

 こういった暗殺を、四人は数年前からやっていた。

 しかし、この四人にも欠点があった。

 それはウィリアムスの存在だった。

 ウィリアムスは、四人のリーダー的存在でいつも威張っていた。

 性格も残虐で、女・子供にも容赦しなかった。

 報酬も、ウィリアムスだけがいつも多く取っていた。

 そんなウィリアムスを好くは思っていなかったリュウは、いつもウィリアムスと衝突していた。

 そして四人は、ある仕事を最後に解散することとなった。

 最後の仕事のターゲットは、当時イタリアンマフィアでは最大と言われていた『トルジーニ一家』のボス『ドン・トルジーニ』だった。

 四人にとっては、初めての大仕事だった。

 それに、最後の仕事に相応しい仕事だと、四人は綿密な計画を立てて暗殺の成功を信じていた。

 そしてついに、暗殺実行の日が来た。

 四人は、いつもの様に役割を決めて配置に着いた。

 暗殺の場所は、『トルジーニ』の屋敷だった。

 真夜中で街頭も少ない事で、辺りは闇の中だった。

 先ずは、ワンとチェンの二人で門番の男に近づき、刃物で殺す。

 そして門を開け、残りのリュウとウィリアムスを敷地の中に入れる。

 敷地内に入ると、また二手に別れる。

 チェンとワンの二人は、電源のある場所に行き屋敷の全ての灯りを消す。

 すると、見張りの為に起きているトルジーニの部下達が出てくる。

 それをチェンとワンが殺す。

 その隙に、リュウとウィリアムスが屋敷内に入り込み、中に居る部下たちを殺す。

 チェンとワンも後から屋敷内に入ると、各部屋に爆弾を仕掛ける。

 リュウとウィリアムスは『トルジーニ』の部屋に行き、二人で『トルジーニ』を殺す。

 そして、四人が敷地から出たのを確認して、仕掛けた爆弾を爆発させる。

 四人は頷くと、計画道理に行動を開始し、トルジーニを追い詰め殺した。

 作戦は見事に成功した。

 そして、殺し屋グループは解散した。

 それから五年の歳月が流れた。

 ワンとチェンはお互い中国で組織を築き、ワンは『王一族』の頭領となり世界中のチャイナタウンを制圧し、チェンは『蛇道』の頭領になり上海を拠点に世界にでた。

 だがリュウは、一人でタイの山に籠った。

 リュウには二人の子供が居た。

 十歳になる男の子と、八歳になる女の子だった。

 二人はリュウの子供ではなかったが、我が子同然に育てていた。

 二人とも、互いに親に死に別れとなった孤児だったのだ。

 リュウは、そんな二人を学校にやれない代わりに、生活の糧を教えた。

 そして、身を守る為に武術も教えた。

 リュウは、ワンやチェンに武術を教えるほどの達人だったのだ。

 山の生活はとても厳しかった。

 しかし二人の子供は、リュウを信じ、本当の父親の様に親っていた。

 そしてウィリアムスは、アメリカに残った。

 その後は、何処で何をしていたか解らず消息不明になっていた。

 ところがある日、リュウの所に一枚の封筒が届いた。

 リュウがその封筒を開けて確認すると、中から一枚の紙が出てきた。

 それは、髑髏の模様の掻いた紙だった。

 その時、周りの林がざわめいた。

リュウは、良からぬ気配を感じ、子供たちの事を心配した。

 子供達は、山の奥に槙と食糧を取りに行ったままだった。

 しかし、リュウの胸騒ぎは収まらなかった。

 リュウが家に入ろうとした時、周りの林から大勢の武装した男達が出てきた。

 そのころ子供達は、家の近くまで帰って来ていた。

 子供達の心にも、何か悪い予感がはしっていた。

 リュウが危ないと感じた子供達は、持っていた物を捨てて家に走った。

 家の傍まで来ると、庭に立っているリュウが見えた。

 だが、何か様子がおかしい。

 悪い予感が的中したのだ。

 林の中に隠れている武装集団に囲まれていたリュウを見て、それを知らせに行こうとした瞬間、何者かが二人を抑えた。

 そして二人は、林の奥に引っ張られていった。

 二人とも、必死に抵抗して振り払おうとしたが、凄い力で動けなかった。

 叫ぼうともしたが、口を塞がれていた為に声も出せなかった。

 暫くして、無数の銃声が辺りに鳴り響いた。

 そして、子供達の動きも止まった。

 二人の子供と、抑えていた大人達は、数分間その場で静かに息を潜めて、時が経つのを待った。

 そして、あの武装集団の気配が無くなった時、抑えられていた手を振り解いた二人は、リュウのところに走った。

 二人が向かった先には、家の入り口で蜂の巣の様に撃たれて倒れているリュウの姿があった。

 子供達は、そんなリュウに覆い被さって泣いた。

 その後ろから、抑えていた男達がゆっくり歩いてきた。

 そこに居たのは、チェンとワンだった。

 リュウが何処かの組織に狙われているという情報を聞いて、ここまで来ていたのだ。

 しかし、二人は間に合わなかった。

 リュウは殺された。

 そしてリュウが手に持っていたのが、『髑髏の描かれている紙』だった。

 その後、それが『アサシン』という殺し屋組織の犯行だという事が解った。

 その『アサシン』を支配しているのが、あの『ビクター・ウィリアムス』だという事も解った。

 ウィリアムスは、あの殺し屋グループを解散するのは反対していた。

 しかし、リュウが拒んだ為に解散した事を根に持っていた。

 そんな時、リュウの暗殺の依頼が『アサシン』にきた。

 それで、この様な事になった。

 数日後、子供達を引き取ろうとチェンとワンがタイにやって来た。

 しかし、既に子供達は居なくなっていた。

 それから十五年。

 北京の高級レストラン『王道』に現れたのは、その時の二人のどちらかだ。


「だから、先ほどの者には何もしないで欲しいのだ。

 どうかこの通りだ」

 ワンは大島警部に、深々と頭を下げた。

 横に居たチェンも、大島警部に頭を下げていた。

 目の前の二人を見て、困った顔でキャサリンを見る大島警部に、

「チャイニーズマフィアの、それも二人の頭領から頭をさげられたのでは、そうするしかないわね」

 キャサリンは両手をあげた。

 大島警部は考えた。

 そして、考えた末にチェンとワンに頼んだ。

「よし、解りました。

 その代わりと言っては何だが、あなた方には今回の事に協力して頂きます。

 それでいいですか」

 ワンとチェンは暫く考えたが、

「それでいいなら、そうしよう」

 と答えてきた。

 そして、その日は終った。


 次の日、大島警部とキャサリンが泊っているホテルに、田辺警部補が帰ってきた。

「先輩、キャサリン警部、お早う御座います」

 すると大島警部は、溜め息をつきながら、

「なにやっていたんだ。

 帰って来るのが遅いぞ」

 そう言った。

 田辺警部補は頭を掻きながら、

「すいません、チェンの居所を探していたのですが、さっぱり解らなくて…… 」

 と言うと、その言葉に大島警部は、

「もういいよ。

 昨日、ワンの店にチェンも来たよ」

 そう言って、手に持っていた新聞で田辺警部補をかるく叩いた。

 すると、

「あぁ、痛ぇ」

 と大声で腕を抑えた。

「どうした、怪我でもしたのか」

 大島警部が心配そうに言ったが、

「なんてね」

 と言って、舌を出して笑う田辺警部補だった。

 しかし、その右の肩は小刻みに震えていた。

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