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再会

「お前は大袈裟なんだよ」

 そう言いながら、大島警部はホテルを出た。

 その後ろからキャサリンがやって来ると、

「昨日、ワンのところにチェンが来たのは本当ですか。

 二人の関係は…… 」

 と田辺警部補が尋ねた。

 すると、

「田辺警部補、歩きながら話す事じゃないでしょ。

 車に乗って、大島警部の説明を聞きましょう」

 と厳しい口調でそう言って、前を歩いて行った。

 叱られた事で肩を落とした田辺警部補は、二人の後ろから着いて行った。

 車の中では、大島警部が昨日の出来事を説明した。

 話を聞いて驚いた田辺警部補は、

「あのチャイニーズマフィアの二人の頭領が、警察に協力するなんて……。

 それで先輩は、その二人の言葉を信用するんですか」

 と、車の後部座席から身を乗り出して声を上げた。

 その行動に、

「危ないでしょう。

 車は動いているのよ」

 とキャサリンが叱りつけた。

 助手席に居た大島警部は、二人のやり取りを見て笑いながら、

「そうだよ、危ないだろう。

 ほら…… 座れよ」

 そう言って、話を本題に戻した。

「信用するしかないだろう。

 そのチャイニーズマフィアの二人の頭領が、こんな俺に頭を下げて頼むのだからな。

 あの真っ黒いボディースーツを着た奴が、二人にとって大事な存在なのだろうよ」

 その時、田辺警部補は肩に手をやった。

 それを見た大島警部は、

「さっきも痛そうだったけど、どうかしたのか」

 と訊ねると、

「大丈夫ですよ。

 ちょっと転んで、打ち所が悪かっただけですよ。

 ところで何処に向っているのですか?」

 と、田辺警部補は笑いながら話を替えた。

 それに大島警部が答えようとした時、キャサリンの携帯電話が鳴った。

 電話にでたキャサリンだったが、その内容に顔色が変わった。

 そして電話を切ると同時に、

「北京のホテルで、白人男性が殺されているらしいわよ。

 それがどうも、イタリアンマフィア『ジニーニョ一家』のところの幹部らしいわ」

 と言った。

「キャサリン、そのホテルに向ってくれ」

 とっさの判断で大島警部がそう指示すると、そのまま北京のホテルに向った。

 そこには、白人の大男の他にも、その部下と思われる男達が四・五人殺されていた。

「なぜイタリアンマフィアが、こんな所で殺されているのかしら」

 そう言うキャサリンに、

「イタリアンマフィア『ジニーニョ一家』と言えば、チャイニーズマフィア『蛇道』の頭領チェンを殺そうとしていたからな。

 ここで死んでいる男達は、そのチェンを殺す事が目的で、ここ中国に来たのかもしれないな。

 だが…… 」

 と、大島警部が小さな声で言った。

 その二人の会話を聞きながら、田辺警部補は男達の傷を見て何か疑問を感じていた。

 すると大島警部が、

「ここは中国警察に任せよう。

 俺達は、今から別の場所に向う。

 キャサリン、悪いが車を廻してくれ」

 と指示した。

 キャサリンが頷いて車を取りに走った時、田辺警部補が、

「別の場所とは、何処に向うのですか?」

 と訊ねた。

 すると、

「車で話す。

 こんな所で話せないだろう。

 キャサリンにも、さっき言われただろう」

 そう怒鳴りつけてホテルを出て行く大島警部だった。

 三人は、車中で今後の計画を練った。

「これから空港に向う」

 それを聞いた二人は、また驚いた。

 そしてまた、田辺警部補は身を乗り出して言った。

「なんで空港に、飛行機に乗って何処に行こうと言うのですか?」

 大島警部は、そんな田辺警部補の頭に手を当てて後部座席に押しやると、真面目な顔で話した。

「まあ、黙って聞きなさい。

 今から、飛行機でイタリアに飛ぶ。

 それは、チェンとワンがイタリアに行くからだ。

 俺達三人は、それに動向する事になった。

 もちろん、その事は極秘捜査になっている。

 マフィアと一緒に行動すると言ったら、止められるに決まっているからな。

 だから、周りに気付かれない様に行動をしなければならない。

 それで、チェンとワンはなぜイタリアに行くのか。

 それは聞いていない。

 しかし二人には、大勢の幹部が同行しているから余程の事だと思う。

 俺達も、気を引き締めて行かなければならない。

 それにイタリアと言えば、あの『ジニーニョ一家』の地元だからな。

 奴等にも、ワンとチェンがイタリアに来るという情報は入っているだろうからな。

 何も起こらないって事はないだろう」

キャサリンと田辺警部補は、大島警部の話を聞いて厳しい表情に変わっていった。

 三人は、中国を後にした。

 

 イタリアに到着すると、ワンとチェンの泊っているホテルを探した。

 だが、二人はまだ到着していなかった。

 船で向っている為に、まだ海の上だったのだ。

 その事が解った三人は、イタリアの街を見物しながら待つ事にした。

「チェンとワンは、明後日にイタリアに到着する。

 それまでは、イタリアの街を見物でもしようか。

 『ジニーニョ一家』の動きもあるだろうしな」

 大島警部の言葉に、田辺警部補が申し訳無さそうな表情で近づいて来ると、

「すいませんが、ちょっと寄りたい所があるので時間を貰えますか」

 と言った。

「どうした?」

 と大島警部が尋ねると、

「イタリアに親戚が住んでいるので、ちょっと寄りたいのですが…… 」

 と田辺警部補が言うと、キャサリンが微笑んで、

「あら、いいじゃない。

 滅多に会えないから、その親戚の方達も喜ぶわ。

 行っておいでよ。

 ねえ、いいでしょ大島警部」

 そう言った。

 すると、何故か戸惑った表情で、

「お…… おう、その代わり明日の夜までには戻ってこいよ」

 と、大島警部が背を向けてそう言った。

 その言葉に、

「有難う御座います。

 では御二人さん、仲良く」

 そう言いながら、親指を立ててキャサリンに合図を送った田辺警部補だった。

 以前から、キャサリンが大島警部に好意を持っていた事を、田辺警部補は薄々勘付いていた。

 キャサリンも、田辺警部補の方を見てウィンクで返した。

 大島警部は、その二人の遣り取りには全く気が付いていなかった。

 そして田辺警部補は、二人に手を振りながらイタリアの街に消えて行った。

「先輩に、キャサリン警部の気持ちが伝わればいいけど…… 。

 しかし、親戚が居るなんて嘘を言ったけど、今からどうやって時間を潰そうかな」

 田辺警部補は、二人きりにしたかったのだ。


 その頃、ワンとチェンの乗った船の中では、食事の最中だった。

 以前から友好関係を結んでいた事もあり、部下達も違和感無く共に行動していた。

「ワンよ、こうして一緒に食事をするのは何年ぶりかな」

「そうだな、本当に暫く振りだ。

 あとは、ここにリュウが居たら…… 」

「あの頃が懐かしい。

 しかし、あのリュウが死んでしまったとは…… 十五年も経つのか。

 すまない、言ってはいけなかったな。

 もうリュウの話は止そう」

 チェンがそう言うと、

「だが、こうして二人がイタリアのマフィアに呼ばれるとはな。

 やはり、わし達を…… 。

 チェンよ、もしもそうだとしても後戻りは出来ない。

 奴らがどういった組織を、いや『アサシン』と繋がっているかどうかを、わし達が調べる。

 もしも『アサシン』、いや『ウィリアムス』と繋がっていたとしたら、わし等はイタリアンマフィアはもちろん、『アサシン』も潰す」

 ワンはそう言いながら、手に持っていた紙を握った。

「そうだな。

 だからわし等は、ドン・ジニーニョのパーティーの招待に乗ったのだからな」

 チェンの言葉に、ワンが頷いた。

 だが、その二人に危険が迫っていた。

 その時、操舵室では、

「船長、この船に不審なヘリコプターが近づいて来ています」

「直ぐに、無線で近くの乗船港に連絡をするのだ。

 それと、近づいて来るヘリコプターにも無線で確認しなさい」

 と、船長が船員達に指示を出していた。

 しかし現状は、悪い方向へと向っていた。

 近づいてきたヘリコプターからは、突然客船に向って機関銃の攻撃が始まったのだ。

 ガラスは飛び散り、甲板を歩いていた乗客たちも倒れていった。

 更に、トルネードランチャーの攻撃で、客室が破壊された。

「海上保安庁に連絡するのだ」

 との船長の指示に、船員が無線で助けを呼んだ。

 そんな中、武装集団がロープを伝って下りて来るのが見えた。

 ワンとチェンの部下達も、銃を手にして戦っていた。

 二人は、幹部達に守られて奥の客室に逃げ込んだ。

 甲板では、武装集団とチャイニーズマフィアの銃撃戦が繰り広げられていた。

 しかし完全武装の集団に、船は占領されつつあった。

 だが、廊下の隅の方にいた武装集団の一人が倒れた。

 それも、喉を深く切られていたのだ。

 そしてまた、一人の武装兵が柱の陰に消えた。

 また一人、また一人と、その数は増えていった。

 だが、前方の武装集団は、その事に気付いていない様子だ。

 戦っていたチャイニーズマフィアも、あと数名となってしまった。

 そして、チェンとワンの居る部屋の前まで、武装集団が押し迫って来た。

その時、武装集団の後方に黒い影が見えた。

 その黒い影は、素早い動きで機関銃の攻撃を交わしながら、武装集団を次々に倒していた。

 二人の居る部屋の外にいた部下達は、みんな殺されてしまった。

 そして部屋の入り口は、武装集団に囲まれてしまった。

 ドアの内側に居た幹部が、ドア越しに機関銃で撃たれて死んだ。

 残りは二人だけになってしまった。

 すると、突然銃の音が止んだ。

 そして、ドアの向こうで硬い物が転がる音がした。

 次の瞬間、船が揺れるほどの大きな爆発が起こった。

 その上、銃撃が始まったのだが、その音は別の方向に向けられていた。

 そして一人、また一人と、機関銃の音が少なくなっていった。

 再び爆発が起こった時、部屋のドアが開いた。

 そこには、武装した男が二人、廊下の方に銃を向けて立っていた。

 だが次の瞬間、その二人の額にナイフが刺さっていた。 

 そして、武装集団は居なくなった。

 チェンとワンが入り口まで来ると、そこには黒いボディースーツを着た者が立っていた。

 武装集団は、たった一人に全滅させられたのだ。

 二人の前に来た黒装束の者は、そこで頭に被っていた物を脱いだ。

 その時、黒く長い髪が舞っていた。

「お前は、リュウの所に居たあの…… 」

 チェンの言葉に頷いたのは、少し小柄な女性だった。

「リュウが死んで、お前達を引き取りに行ったのだが、お前達は既に居なかった。

 今まで何処に行っていたのだ」

 女性の両肩を優しく掴んで、ワンが問い掛けた。

 すると、

「私の名前は『フェイ』。

 そして、もう一人いた男の子の名前は『ジン』と言います。

 私達は、おじ様達が来る事が解っていました。

 それで、山の奥に隠れていたのです。

 私達は、二人で仇をと思っていましたから、おじ様達に邪魔をされたくなかったから…… 。

 それから私とジンと二人で、リュウ恩師の家で生活をしていました。

 毎日、毎日、リュウ恩師の仇をと思いながら、鍛錬を重ねてきました。

 だけど五年ほど前に、ジンは一人で仇を取ると言って、私の前から姿を消したのです」

 フェイの言葉に、二人は顔を見合わせていた。

 そしてワンが言った。

「そうか、そうか。

 お前の言うとおり、わしらはお前たちの事を止めるだろう。

 しかし、そんなお前に命を救って貰った。

 苦労したんだな、強くなった」

 そう言って、フェイを抱きしめた。

 そして、

 「わしは、その『ジン』に、北京で命を助けてもらった」

 ワンがそう言うと、フェイはその言葉に声を失った。

 そしてその目には、涙が溢れていた。

「ところでフェイ、もう直ぐ海上保安庁の役人達がここにやって来る。

 そのような格好では怪しまれてしまうだろうから、早く洋服に着替えた方がいい」

 チェンがそう言うと、三人は部屋から出ていった。

 やがて、海上保安庁の船と代わりの船が到着した。

 そして、武装集団の攻撃で生き残った乗員と乗客は、代わりの船に乗り込みイタリアへ向った。

 その中には、チャイナドレスを着たフェイの姿もあった。

 そして、船がイタリアに到着する日を迎えた。

 イタリアの大島警部達にも、チェンとワンの乗った船が襲われた情報は入っていた。

 そして、港の近くで待機していた。

 そこへ田辺警部補が戻って来た。

 しかし目の前の二人は、何故か揉めていた。

「そもそも俺達は、買い物に来たんじゃないからな」

「いいじゃない、少しぐらい。

 街を見物しようと言ったのは大島警部なのよ。

 街を歩いたら、やっぱり店の中を見たくなるでしょう」

 かなり揉めている二人に、恐る恐る田辺警部補が声をかけた。

「先輩達…… 如何なさったのでしょうか…… 」

 すると大島警部が、

「田辺、聞いてくれよ。

 俺はイタリアの街を見物しようって言ったのに、キャサリンは店に入るなり、中々出て来なくて。

 それも一軒や二軒じゃないんだぜ。

 入る店全部だよ。

 もう疲れたよ」

 と、泣きそうな顔で言った。

 そんな大島警部を押し退けて、

「だって…… せっかくイタリアまで来たのに、何も買い物しないなんて。

 そんなの、絶対に有り得ないわよねえ田辺警部補」

 と、鬼の様な形相で訴えるキャサリンだった。

 田辺警部補の思惑は、完全に失敗だった。

「まあ、まあ、御二人さん。

 少し落ち着いて。

 そろそろ、ワンとチェンの乗った船が到着しますよ」

 その田辺警部補の言葉に、我に返った大島警部は、

「そうだ、田辺。

 その船が、何者かに襲われたという情報が入った。

 かなり遣られたらしいぞ。

 助かった乗務員と乗客は、代わりの船に乗り換えたらしい」

 と言った。

 すると、田辺警部補の顔色が変わった。

〔おかしいな。

 ジニーニョ一家の所では、別にかわった動きもなかった。

 怪しい奴の出入りも、これと言って無かったが…… 〕

 田辺警部補は、ここに来るまでジニーニョ一家を単独で見張っていたのだ。

 そうこうする内に、船が港に到着した。

 襲われた船の乗務員と乗客が降りてくると、その中にワンとチェンの姿もあった。

 だが、二人をガードしていた幹部達の姿は一人も居なかった。

 それを見た三人は、襲撃の凄惨さを感じ取っていた。

 そして、人込みを掻き分けながら二人の所に向った。

「ワンさん、チェンさん、ご無事でしたか」

 その声に、二人は大島警部に気が付いた。

「おお、君か。

 わし達は大丈夫だ。

 しかし見ての通りじゃ、部下達は全て殺されてしまった。

 誰がこの様な事をしたかは、中国にいる幹部達が調べているところじゃ」

 ワンがそう言うと、

「ここでは人目に付きます。

 何処か違う場所で」

 そう言って、二人を先導した。

 キャサリンも田辺警部補も、護衛の為に後ろから行こうとした。

 すると、後方からチャイナドレスの女性が降りてくるのが見えた。

 そして、田辺警部補がその女性に気付いて振り向くと、二人は顔を見合わせて驚いた。

 暫く、二人は動けなかった。

 それに気付いたキャサリンは、

「何を見惚れているの、早く行くわよ」

 と声をかけた。

「先に…… 先に行って下さい。

 後で追いかけますから…… 」

 田辺警部補は、震える声でそう答えた。

 キャサリンは気を使ったのか、そのまま大島警部の所に足早に歩いて行った。

「フェイ…… 」

「ジン…… 」

 それは、思いがけない再会だった。

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