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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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8 * 講座開講間近です

8章に突入です。この章は新規事業と後半に新素材のお話が来る予定です。



 


  《ハンドメイド・ジュリ》で透かし彫りコースターやミニチュア、ノーマちゃん人形の本格的な販売計画が進む中。


 いやぁ、侯爵家に丸投げしたネイリスト育成専門学校だけど。思わぬトラブルが発生しまして。

 なんでも侯爵家へ各方面からの問い合わせと入校希望が殺到し、処理が追い付かずパンクしたそうな。

 大変、じゃなくてパンクよ。

 情報を得たいために侯爵夫妻と次期侯爵夫妻への夜会や舞踏会への招待状と、お抱えの侍女を必ず入校させたい夫人や令嬢達が侯爵家の賛辞を長々としたためた『うちの侍女入校させて』という思惑盛り盛りの手紙 (何通も送ってくる)攻撃、そして、マニキュアならぬ爪染め液やネイルアート技術への投資を望む投資家達からの面会申し込みなどなど……。その対応が追い付かなくなり、このままでは開校どころではないと侯爵様が開校延期を宣言したのよ。


 ……凄いよね。テレビもインターネットもないこの世界でどうやってそこまで広まったのか?

 単に執念よ。

 女の美への執念。

 ついでにこの世界の富裕層の『流行に乗り遅れる奴は小者』的な価値観も相乗効果として。

 そしてその欲望や恐怖をなんとか解消するには手紙を書いて読んでもらって返事をもらうしかないわけ。だから手紙が届く。もはや『クノーマス郵便局』と言っても過言ではないくらい。

「手紙見たくない」

 と、エイジェリン様が手紙恐怖症になりかける量の手紙ってどんだけよ?

 中には自分が侯爵様のお友達やご学友と知り合いだということを全面に押し出した手紙もあって、そうなると地位や権力でもって軽くあしらうわけにもいかず、丁寧しかも慎重な対応を求められることも。


「で、先に『領民講座』を開講してほしい」

 と、なんだかげっそりとした侯爵様のお願い。

 手紙攻撃のことをグレイから聞かされたとき、実はそれはすでに考えてた。

 何故なら、講師が既に確保出来たから。

「全然オッケーですよ」

『領民講座』の講師についてはグレイとローツさんが選考したの。もちろん私もね。元々ネイリスト専門学校は侯爵家主体で行うことになっていて、同時に『領民講座』事業を平行して設立からするのは難しいと話し合っていたから講座に関しては私が監修、経営関連はグレイとローツさんがやることに。

 あ、ちなみにネイリスト専門学校の監修に【彼方からの使い】仲間のケイティが就いてくれた。なのでついでとばかりにそのまま顧問という役職に就いてもらって、色々アドバイスしてもらうことに。ほかの副業は嫌だけど、口出し出来る立場なら最新のデザインなどが一番に試せると気づいた彼女は喜んでなってくれた。なのでケイティは今やこの世界初のネイリスト二人に『顧問様』と呼ばれている (笑)。

 その顧問は。

「別にいいんじゃない? 私はネイル出来れば文句ないし」

 わあ、寛大。いや、これは寛大とは言わないわね。単にネイルに御執心で都合がいいだけだ。


 ネイリスト育成専門学校の開講が延期になったのは悪いことではない。

 爪染めの原料が取れる特殊な樹木がとある子爵領なら育つかもしれないと判明し、そのことでも侯爵家は交渉などで忙しくなったのよ。出資ともなればかなりのお金が動くことになるから慎重に進めるべきところ。ある意味いいタイミングで延期になったと言える。講師二人もまだまだ修行したいと、その時間が出来たとケイティ筆頭にククマット地区の女性相手に爪を磨きまくり、マッサージしまくり、そしてネイルアートを施しまくり、と奔走。

 ついでにネイルアートに使えそうなデコパーツの開発も余裕が出来たとその手の職人さんたちが講師二人と相談しながら品質向上を目指すことにもつながった。

 いいことです。


 なので、ネイリスト育成専門学校の開校は延期となり、その代わり改築と修復により生まれ変わった建物を早速有効活用するため『領民講座』が先行して開講することになった次第。












 今回、講座は十講座。もっと数も多く講師も確保出来たけど、まず様子見することに。その後講座は増やしつつ、流行や人気に合わせて入れ替えしていく。

 講座は、一回限りのもの、週一回で何回か通って貰うもの、そして月一回もしくは二回で通ってもらう長期の三タイプ用意。

 講座用教室は八室あり、うち一室は調理も可能になっている。一つの教室がそんなに広くないので座学なら最大で二十名、物を作ったりすると十名くらいが限度になるだろうから、一度の受け入れが少ない分時間割りをしっかり組み、ローテーションで教室をどう回していけるか確認しながらになるので最初は十講座でも問題なし。

 人気が出て、定着するならば手付かずで残してある部屋もまだあるのでそちらを用途に合わせて改装すればいい。

 とにかくやってみて傾向と対策を取ればいいのよ。だって学校じゃないからいくらでも修正のしようがあるんだもん。


「早まるんですか、そうですか。……緊張してしまいますね」

 侯爵家で元執事をしていたエリオンさんが穏やかに笑う。

「生徒どれくらい集まるんだろうな? あ、内容もう少し見直してみるかな」

 元冒険者で 《ハンドメイド・ジュリ》関連の運送部門や護衛として雇い入れたゲイルさんがソワソワとし始める。

「今さら慌てたって仕方ないだろ、なんとかなるよあはは!!」

 我らが愛すべきおばちゃんトリオの一人であるデリアが快活に笑う。

「ごめんねぇ、急に来てもらって」

 講師をお願いする予定の人たちには開講が早まったのでそのお知らせを手紙で送り、変更になったスケジュールに不都合がないか確認してもらうために随時来てもらってる。今日はこの三人が来てそれぞれのスケジュール表を見ている前にお茶を出す。

 デリアは会って伝えればいいんだけど、そこはやっぱりちゃんとしたいと思って手紙でお知らせした。そしたらグレイ専用の侯爵家の紋章が入っているレターセットだったから嬉しかった! 家宝! とわりと斜めな方向のことで喜ばれたわ。


「それで問題ないかな?」

「はい、問題ございません」

「俺も大丈夫ですよ」

「私は当然問題なしだよ!」

 グレイの問いに三人が笑顔で答えてくれる。

「市場の掲示板と両ギルドの掲示板、飲食店の一部には明後日から、そして近隣の地区、領全体、近隣の他領にも随時掲示板に張り出してもらうし宣伝もしていく。当面は近隣の住人だけだろうがいずれ……数ヶ月後には各地から人が集まるようになればと思っている、そうなるよう全力で出来ることをするので、そちらも頼むよ」

 講師になる人たちにこうしてグレイが言うわけだけど……。

『頼むよ』

 が、どうもプレッシャーに感じる人が多い。今日はゲイルさんが顔をひきつらせた。まぁ、侯爵家の令息に言われればねぇ。仕方ない。

「あはは! 頼まれちゃったよ!」

 デリアは豪快に笑う。うちで働く女性陣の一部はグレイの扱いがそれでいいのかと疑問な強者がいるけど、その最たる人物の一人がデリア。

「おばちゃんトリオだからな。そういうものだと思っている」

 と本人も気にしてないからもういいや。










 実は、一つ未だに議論になっていることが。

 それはククマット編み講座。

 何故かというと特別販売占有権に登録しているからよ。教えるということは覚えた人には販売許可が出せる訳で、そうなると講座に殺到して許可くれ!! となる恐れがあるとグレイやローツさんに指摘されたのよね。

 別にいいじゃん? と思ったけどよくよく考えてみるとさ、許可は誰が出すのか? って思い至った……。

 フィンと登録者の私じゃん。

 てか、殺到してそれにかかりきりになったらどうするの、もしかして何も出来なくなる? それダメだぁ!! となりまして。

 それでなくても、侯爵領内はもちろん他所からも教えてもらえないかと問い合わせがしょっちゅうあるわけで。

 現在受け入れしているのは他所からでも条件を満たした一部の人以外はククマット周辺の地区に住む人に限定してる。そうしないとそろそろ準備が大詰めの 《レースのフィン》開店に影響を及ぼしてしまう。主力のフィン編みメンバーにはそちらの準備段階から関わらせるようにしているので許可を出すために教えたり、許可を出す前の選考に時間を割くわけにはいかない状況。現状として月に数人と制限をかけてる。そうしないとちょっと大変なのよ。


 で、そんな状況でククマット編みの講座で習えるとなったら……。

 うーん、無理だよね。


 なのでこういうときこそ単純に。

「基礎の基礎、いくつか絞りこんで。とりあえず三種類にしよっか。それぞれ編み方を一回限りの体験講座にして、さらに材料持ち込みの格安講座とこちらで用意するちょっとお高め講座とか、糸の色や飾りも随時変えるだけにして、とにかく基本だけだけどバリエーション豊かに臨機応変に講座を受けたい人が飽きないように工夫するしかないかな。デリアだけじゃなくメルサやナオたちには 《レースのフィン》の開店後も交代でこっちの講座で動いてもらうけどいい? 」

「あたしはかまわないよ」

「じゃあ、当面はそれでいこう。開店後のスケジュールと講座の内容、後続の講師は誰にするかは様子見てこっちが徹底して組むから安心して」

 という『取り敢えずやってみるかぁ』な臨機応変型講座にすることに。

 だってねぇ、極論やってみないとなんとも言えないのよ。『講座』自体が初の試みなんだから。


 その都度修正していく、それがこの世界に持ち込んだ物を発展させる条件の一つ。なんでもかんでもそのまま馴染ませられる訳がないのよ、発展途上な世界だし何より忘れちゃいけないのが。

 ファンタジーな世界!

 ってことよ。

 地球の、日本の常識とか知識が通用しないことが多々あるんだから。


 なので行き当たりばったり、これがベスト。というかそうするしかない今日この頃。

 いいのよ、それで。

 だって異世界、ファンタジーなんだから (ここは何回でも強調して言う)!!


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