7 * 何でもクノーマスって付ければ良いって思うな
エイジェリン様の特注品は別として、ヤゼルさんの指示のもと木工職人さんや材木店さんたちの行動の速いこと速いこと。
透かし彫りのコースターと同時製作で、あっという間にミニチュア家具の試作品を完成させてくれた。
「これなら、お前の所に卸せるはずだ。材質は実際の家具に使われるものと一緒だが小さく薄くなって強度が落ちる、だが魔道具の『硬度強化』が付与された刃物で削るなり彫刻すれば僅かだが強化できるし、表面に艶だし程度にスライム液を馴染ませることで更に強度があがった。刃物は木工職人なら皆もってるし、スライムも透明のものだけだから一度に大量に仕上げれば普通の艶だし剤とそう価格は変わらねえよ」
そう言って目の前に並べられたものを見てびっくり。
いや、だってね。
想像通り、渡したデザイン通りのものがそこにあるからよ。しかも追加で作ってくれてた。
椅子二脚とテーブル。テーブルは丸と四角があって、椅子も足や背もたれが丸と四角に合わせて微妙に違う。
ベッドとサイドテーブル。こちらはシンプルだけど花柄の彫刻がされているお揃いのものと、なんと天蓋付きのベッドとそれに合わせたサイドテーブル豪華版の二種よ。
ローチェストとクローゼットは一種だけど、ローチェストの引き出し二段がちゃんと使えるしクローゼットの観音開きの扉もちゃんと動く。
そして希望だけ言っていた化粧台と椅子も一種類だけど、なんとちゃんと鏡がついてる!!
「実際には使えねぇぞ、濁ってたり歪みがある不良品を格安で買い取ったのをカットして填めただけだしな」
いや、十分よ。なんなのこのクオリティ。
「そりゃ、気合いいれたからな」
ヤゼルさんの仕事仲間の職人さんがそう言って快活に笑う。
「うちではなんで今まで思い付かなかったんだって工房で議論になったよ」
「僕のところでも薄い使い道の限られてた木材がこうも生まれ変わって用途が広がるのかって驚いてずっと盛り上がった」
「ということで、ジュリ。我々の勢いが止まらなくてこんなものをそれぞれの工房がつくったんだが」
って、奥から出された物を見て、驚愕。
「ひっひっひっ! これ、これは凄いですよ、へへへ、えへへへっふえっへへ!」
不気味過ぎる笑いに、初めて遭遇する職人さん若干名が引いてます。気にしません。
なぜなら。
ちゃんと布張りされた二人掛け? ソファー、ロッキングチェア、本棚がついている机と椅子のセット、二段ベッド、四段のハイチェスト、扉がないタイプの食器棚が。
うおおおっ!! 素晴らしい!!
なんとこれ、職人さんが自分の娘の遊んでるのを二日間観察して (ちょっと怖いと思ってしまった)各工房に提案して、私の渡したデザインの寸法を参考に皆で協力して作ったんだというの。
感動です。
「ただ、ここいらのは全部手間がかなり掛かるから売り出すとしたら価格は考えてもらわんとな」
「それは当然です、いいんですよ高くなっても。特別感って大事ですからね、下手に手を抜かれるより絶対いいです」
「エイジェリン様の分は材質ももっといいので作って彫刻や飾りも凝るつもりだ。だが一般ならこの見本用品質でいけるだろ? これなら模様を簡素化すれば価格はもう少しなんとかなるぞ」
皆で笑顔。
ここでは顔がひきつったけどね。
さっそく全部借りてエイジェリン様に会う約束を取り付けて屋敷にグレイと共に伺ったんだけど、怖い。
何が怖いって?
ピリピリ感が。殺気立ってる。
「エイジェリンだけ先にというのは、なんだか納得しがたいわ」
「なんです、母上。私がジュリに相談をしていたんですから当然ですよ」
「職人たちが承諾してくれるなら私たちがお願いしたい分も作れるのではなくて?」
「私のは特注品としてお願いするんです、後からにしてください」
「特注品と言っても一点モノというわけではないのだからいいのではなくて?」
「いつでもいいと言うわけではありません、私のは期限を決めて作って貰うんです」
って、母と息子がバトル始めた。
そしてそれをのほほんと、『あれは空気と変わらない』と言わんばかりに侯爵様とルリアナ様が
「今日も平和だな」
「平和ですね、お義父様」
って、お茶してる。
平和ですかね?
「彫刻のデザインの違い、材質の違いだけで基本の工程は同じ、急ぎでなければここにある一式をククマットにある木工職人なら通常の仕事の合間で作業しても二ヶ月で四組までなら確実に仕上げられるそうです。ただし、現段階でのことで、透かし彫りとスライムを組み合わせたコースターの本格的な販売が始まって売れ行き次第ではどうなるかは不透明ですよ。それにミニチュアを売り出すとなればジュリの一般販売が優先ですし、それも売れ行きしだいでは職人の増員も急務になるはずです。なのでとりあえず出来る範囲でやることにしますよ、文句は言わせません、いいですね? 母上、兄上」
「私もか?!」
「当然です、納期はこちらに任せて貰います。それでなくてもジュリと関わるようになってククマットでは職人の数が足りなくなって来ているんです、それだけ仕事が増えたんです。波に乗り始めたこの状況を妨げるようなことを侯爵家がしていいと思いますか?」
「うっ、それは」
「いちいちジュリに私的なお願いをするのは今後控えてください」
ピリピリしてるのは、彼氏もだった。
別に私は構わないんだけどね。でもエイジェリン様が動くと自ずとグレイが巻き込まれることが多いのよ。だって弟なので。エイジェリン様が忙しいと『次期侯爵の代理』としてグレイが侯爵家のお付き合いを代行することがある。するとね、必然的に 《ハンドメイド・ジュリ》の裏方を一手に引き受けているグレイなのでそれが滞りがちになるわけで。
要するに、代行が終わって帰ってくると仕事が山積み。他にいる会計士さんたちがやってくれてるけど、最終的な判断はグレイと私、そしてローツさんが話し合って独断にならないようにしていることも多いから、どうしても溜まるのよ。そして私もそれに時間を割くことになるのよねぇ。
だから確かに、特注品などは大変。それだけ通常の仕事の予定が狂うし、グレイもそれに合わせて動くことになる。
エイジェリン様だってきっとご友人へのミニチュアはただ送りつける訳じゃなく、ご本人が久しぶりの再会ついでに持っていくはず。そうなればね、グレイが侯爵家に戻って代行することは増えちゃうから。
侯爵家からのものはなるべく請けてあげたいけど、ここは彼氏に乗っかっておこう。
エイジェリン様を黙らせ、そしてシルフィ様を黙らせ、彼氏はご満悦。
「私のこの屋敷のミニチュアは」
「そんなの後に決まってるだろ馬鹿侯爵」
と、暴言を吐く息子と今度は父が睨み合い。
しかし、この家族はよくもめる。
「私のはいつでもいいわ、その代わり素敵なデザインの物を作って貰うから」
最後まで平和だったのはやっぱりルリアナ様でした。大物。
さて。ミニチュアだけでは味気ない。せっかくなので合わせて人形も開発したいと周囲に相談。
すると早速恐ろしい速さで、人形はおばちゃんトリオがあーだこーだと言い争いながら超豪華、ちょっと豪華、基本のやつ、の三つを作ってくれた。基本のお人形は明るい色の単色のワンピースでスカートのすそにレース、ボタンに 《ハンドメイド・ジュリ》で販売している擬似レジンの板に螺鈿擬きを張り合わせてからカットして穴を開けたボタンがついている。ちょっと豪華なのは同じく単色のワンピースなんだけどちょっと艶のある布でスカートと袖、襟にレースをあしらい、ボタンは同じだけど、服と同じ布とレースで作った帽子がついている。
そして豪華版。
これは明らかに富裕層に買わせる気満々のもので、刺繍で模様が入れられ、ふんだんに使われているレースも価格は高めのもの。ワンピースというよりドレス風に仕上がってる。ボタンの代わりにヘアピンのピンがついていない色付きスライム様が嵌め込まれた飾りを改造してネックレスにして着けさせているし。頭には金属パーツを並べて即席でライアスに作らせたカチューシャ? ティアラ? のようなものを乗せてある。
……。
うん、凄い。
彼女たちがいる限り 《ハンドメイド・ジュリ》とそろそろ開店の《レースのフィン》は富裕層までもがっちり掴んで合法的にしっかりとお金を巻き上げそうである。安泰安泰。
「で、この人形名前どうするんだい?」
「ん? 名前?」
「他と差別化するんだろ? 名前がなきゃ」
「ああ、なるほど」
デリアの指摘に、私は頭を捻るけど。
人形に名前かぁ。バー○ー、リ○ちゃん、的な奴よね?
名前かぁ。いきなり言われてもこれは困る。
「覚えやすくて、ブランド化してもおかしくない名前、だよね? なにかある?」
こっちの世界だとどういうのがいいんだろうね? だから質問をしてみた。
そしたら。
「「「「「クノーマス人形」」」」」
皆が声を揃えて言った。
……。
え?
本気?
本気で言ってる?
その前に、名前じゃなく、それは名字だよ。
しかもなんか、可愛くないよ。
というか、他にはないの?
「覚えやすくていいじゃないか」
「ブランドとして最高ですよね」
「ここで作られてるって分かりやすいし」
「変な名前よりよっぽど格好いいよ」
いや、まって。それはクノーマス領に住んでるから言えるんだからね、他の領地の人だとちょっと微妙じゃ? その辺考慮して。
後日、名前が決定した。
どうしてもクノーマスから離れてくれない皆と、女の子らしい名前を付けたい私とでしっかり議論して。いや、議論というより私が断固拒否して徹底抗戦して。
「可愛いじゃない、『ノーマちゃん人形』。販売日教えてよ! 娘に買ってあげたい!」
「えー! 名前付きなの?! スッゴいいいよぉこれ!!」
友人のシーラとスレインからお墨付きいただきまして、『ノーマちゃん』に決定した。
それに準じて、人形に合わせたミニチュアも、『ノーマ・ハウス』シリーズとなり、全てにそのロゴが入れられ、ククマットから世に広まっていくことになる。
そして。
何かに名前を付けるとなると、なんでもかんでもクノーマスにしようとするか、地名を使おうとすることが判明したので、今後は名付けが必要な場合は話し合いする前に候補を考えようと決めた。
次話から八章になります。




