7 * 木材の更なる活用
先日提案した透かし彫りのコースターから、小物や家具に応用出来るということでヤゼルさんの声掛けで集まって貰ったジャンル問わずの職人さんたちは、工芸品としてククマットから発信出来る可能性があるとその目で確認すると食いついて来た。
物を立体的に作る技術はあってもそれの上に物を乗せるという発想がいままでなかったからね。それはやっぱり硝子など、透明で均一な厚み、しかも薄いものを作る技術が確立されていなかったことが大きい要因だと思う。
ガラスはあれど平らで透明なものは高級品。私の店で使っているものは小型のものが殆どで職人さんに直接お願いして、さらに安定したそれなりの量の注文が出来るからこそ、格安での仕入れが出来ている。それでもまだまだ高級品から脱することは出来ていない。
その代用品になりうるのが擬似レジン。使い方次第では用途はもっと広がるはず。
ただ、だからといって万能かと言えばそうでもない。
スライム様は物を完全に消化吸収し終わった直後にプチっと潰さないと必ず不純物 (食べ残しみたいなもの)が残る。しかも乳白色の核と呼ばれる部分だって直ぐに取り出さないと一緒に溶けて混じってしまう。
その処理に成功しても流し込みの時や、他の素材と合わせる時に粘性があるゆえに気泡が入りやすい。高級ガラスのような見た目を目指すなら丁寧に取り除く、もしくは入らないように慎重に作業する必要が。しかも数時間後には完全に硬化するんだから一度その作業を始めたら途中で止められない。
世の中そうそう万能な物なんてないってこと。
それでも、木材とスライムを合わせるという新しい技法は職人さんたちのインスピレーションを十分に刺激する効果があった。ヤゼルさんを囲んでどういうデザインがいいか、家具や小物ならどんなものから売り出せそうか、次から次へと意見が飛び交う。
いいねぇ、こういう活気ある光景。
これなら新しい透かし彫りコースターの本体部分をすぐいくつかの工房に製作依頼して近々売りだせそうだね。
あ、そうだ。
この勢いで提案とお願いをしてみよう!!
「なんじゃい、こりゃ」
ヤゼルさんが実にいい反応をしてくれた。
家具のデザインをいくつか書き込んだ紙を渡したの。侯爵家やグレイの屋敷のお洒落なのをお手本に簡素にしたデザインよ。
でも大きさに問題がある。
問題というか、皆から見ると疑問かな。
「おい、寸法の表記が間違ってるじゃねえか」
「間違ってないです、それでいいんですよ」
「……誰が座るんだ、こんなの」
ヤゼルさんが困った顔をして、そのデザインの紙を覗き込む職人さん達が、声を揃えた。
「「「「妖精にでも売るつもりか?」」」」
おお、妖精!! やっぱりそういう反応ね!! グレイもそう言って首を傾げたわよ。
一度でいいから会いたいわ、妖精。ファンタジー。
って浮かれたら怒られた。
「説明しやがれ!」
ごめんなさい。
「『ミニチュア』です」
「『みにちゅあ』?」
「子供の遊び、おままごとや人形の着せ替え遊びのために家はもちろん、家具や食器を人形に合わせたものにするんですよ」
理想はシ◯バニアファミリーですよ。
動物の可愛い人形たちの、可愛いお家や家具。
あれをね、ゴーレム様の白土が手に入った時からこちらの世界でもできないかな? と思案してたんですよ!!
すでに今現在、白土作品部門の責任者 (最近役職与えました)のウェラと重役感が滲むキリアに試作をしてもらっている。
人形は元々布製の綿が詰められた可愛いのが出回っている。もしこの計画が実現するならば 《ハンドメイド・ジュリ》オリジナルの人形も開発して同時に売り出したいと思ってたの。
出回っているその人形は大小様々で規格は決まってない。人気があるのは価格が影響して二十センチ未満のものが多いかな。庶民の女の子たちの昔からのおままごとの相棒として、雑貨店なら必ず売っている。
でも、その人形で遊ぶというよりお友達感覚で持ち歩いたり一緒に寝たりする程度。せいぜい着せ替え用に母親が洋服を作ってあげるだけらしい。
それだけなの? つまらないよね?
なんて考えてから罪悪感が芽生えたのは内緒。
それだけ私は、恵まれた世界に生まれ、恵まれた環境で育ち、そして当たり前のことだったのよね。物が溢れる世界で、その中から選ぶ楽しみがあるのが当たり前のそんな環境の人間が子供の遊びに『つまらないよね?』なんて言っていいはずがないから。
でもね、工夫しだいだよ。そしてそれを提案することは出来る。
プラスチックならどんな形にも出来る。工場で大量生産できて、価格も抑えられる。
この世界は手作りが生活を、世界を支えてるしプラスチックだって存在しない。
だからたかがおもちゃと言っても手の込んだ嗜好品に近いものとなれば、自ずと価格は上がる。
それでもいいのよ。
とにかくやってみなきゃ、何も生まれないんだから。
家具や家はシ◯バニアファミリーのものよりかなり大きくなる。むしろそれでいい。木製や白土で一つ一つ手作業で作るものだから、小さすぎても拘った分だけ価格が跳ね上がるでしょ。
「食器は型を作ってしまえば表面を滑らかにして色付け、強度を上げるために擬似レジンで塗装すればいいんじゃない?」
と、心強いお言葉をキリアからいただきました。
「鍋やフライパンも本体を白土で作って、取っ手を木材にして、接着すればいけそうだね」
ウェラなんてその場で手作業でデザイン画と寸法見ながら白土捏ねて試作をしてた。頼もしいよ、うん。
「例えばですけど、うちの店の従業員たちで作れそうなものだと食器と台所用品なんですよ。なので食器セット、台所セット、と単品ではなくいくつかまとめたものを売り出す計画があります。一セットが三十リクル以上と子供のおもちゃとして高額ですが、誕生日祝いに、ご褒美に、そういうのがあってもいいと思うんですよね」
「……ほう」
あ、ヤゼルさんが食いついて来た。いいぞ!
「で、家具なら、椅子二脚とテーブルとか、ベッドとサイドテーブルとか、元々セットにしやすいものがいいんです。女の子が好みそうな物だと、化粧台と椅子、ローチェストとクローゼットもですね。そして、ゆくゆくはそれらを全部並べて遊べる家も売り出せたらと」
「おいおい、そうなるとかなり高級なおもちゃじゃねえか」
「ええ、それこそ富裕層が好むと思います。それで構わないんですよ」
職人さんたちがびっくりした顔をした。
普段の私は、誰でも買える楽しめる物をモットーにしてる。
でもさ、そこに拘り過ぎると出来ないことも増えてきた。
やりたいこと、やれるだけやらないと後悔するよね。せっかくそれが許されている環境にいるのに、勿体ない!! 工夫でなんとかなるよ。
「ただ思い付いた事を言ってる訳じゃないんです。じつはエイジェリン様から相談を受けてました。王都の学院で過ごした時にお世話になった先輩がいらっしゃるそうです。その方の奥様が妊娠されたとかで、無事出産されたら何か特別な物を贈りたいと」
「男か女か分からねぇのに?!」
「だからですよ。男の子だった場合は他の物がいくつか既に候補が上がってるそうで問題ないらしいんですけど、女の子のものがどうしてもいいものがないと。それで、以前私が作ってみたいと話したのを覚えていて、作れないか? と相談をされました」
「それは作れってことだろ?」
「え? 無理ならやりませんよ私は。店の経営の方が大事ですから。皆さんだって無理ならやらないでしょ」
「「「「……」」」」
なによ、なんで皆でドン引きしてんのよ。
ヤゼルさんが頭をかいて、ため息。
なんでよ?
「はぁぁぁ、侯爵家の方々の相談をそんな風に足蹴に出来る奴なんざ、お前くらいしか見たことねえよ」
「足蹴にしてませんけど?」
「してるだろ。普通言えねぇからな」
「ええ? ……侯爵様に好きにしていいって言われてるんですよ?」
「それでもやらねぇのが暗黙の了解だろ」
「……聞かなかったことにします!!」
笑顔で押しきってやった (笑)。
「富裕層が買えて当然、でも、誰でもちょっと特別な時に買えるもの、そういうのを目指してます」
「特別な、時に」
「はい。誕生日やご褒美に大事なお人形のための特別な家具や食器が貰えたら、嬉しいんじゃないですかね?」
「たしかに、な」
「……そして目新しい、他にはない玩具を子供に買ってあげたい親心、それと富裕層ならなおのことプライドを刺激するんじゃないですか?」
「……」
「まずは、特別誂えの、侯爵家特注のミニチュアセット、一緒にやってみませんか? そしてそれよりも簡素な物をある程度量産出来そうかどうか、それでもって検討してください」
「お前のところは、既に特注用と一般用、試作をしてるんだろ?」
「当然。多少高くても売り方次第で売れると見込んでいます。一般で難しくても販路はあると侯爵夫人のシルフィ様とルリアナ様からのお墨付きです。家具は皆さんが一手に引き受けることになりますよ、前向きに検討してもらえませんか?」
万が一、という覚悟を決めてやろうと思ってたのに、エイジェリン様依頼のものが製作出来る目処が立ったらお二人も欲しいって言い出したんだよね。しかもグレイとローツさんからも。
「姪のお誕生日に贈ったら私きっと両親よりも好かれる気がするわ」
と、シルフィ様。
「いずれ子供が出来たとき用に。あと単純に私が集めて飾りたいわ」
と、ルリアナ様。
「学院時代からの友に去年娘が生まれた、プレゼントして恩を売っておきたい。王宮勤めの出世頭だから」
とはグレイ。
「兄夫婦にプレゼントしたいんだよ、そんなの絶対他では手に入らないだろ? 絶対喜ぶ」
そしてローツさん。
若干一名、他の人たちとは違う用途に欲しいようだけど、結論からして。
富裕層の心は掴めそう。
ということが分かったわけよ。
侯爵様は
「どうせならこの屋敷のミニチュアがほしい」
とか言い出してたから、そのうちククマットの職人さんたちと私たち 《ハンドメイド・ジュリ》の従業員総出でとんでもないミニチュア作ることになりそうなんだよね。
つまり、すでに需要がある。
「よし、やるか」
ヤゼルさんの一言に、職人さんたちの目が変わった。
うーん、この雰囲気いいわぁ。
ものつくりに携わる人たちのやる気に満ちたこの雰囲気に飲まれると、私も気分が高揚する。
いいものデザインしないと。
いいもの作らないと。
そしてなにより。
楽しみだぁぁぁ!!
ふと思った。
エイジェリン様の特注だって家と家具、そして食器などの小物、更には布製品全て素材に拘ったものになるから数千リクル (感覚としては数十万かな)になるはずなのに、侯爵様のいう『クノーマス侯爵家のミニチュア』になったら、いくらになるだろう。
もちろん、簡略化したものになるだろうけど。
家だけで横幅数メートルになるよね……。
物や家具は凝ったものになるよね……。
なんだか、とてつもない金額になるような。
いっかぁ! 侯爵様がお金出すんだし!! 作れるかどうかも未定だし!! 今は頭の片隅に追いやっておこう。うん、それがいい。
あ。予算だけ聞いておこう、どうせ『上限はないよ』っていつものように言われるだろうけど。
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