王宮闘争・終 * さあ帰ろう
王宮闘争……長かった!!
◇お知らせ◇
作者お休みいただきまして、次回更新は5月16日(土曜日)となります。よろしくお願い致します。通常通り本編更新となります。
女王陛下との謁見時、私への賠償金についての話し合いがリンファのおかけでスムーズに決まったものの『あれ、ちょっとまって』となった。
希少な素材もらったとしても扱いに困るけど?
という疑問をぶつけたらリンファはそれでもいいのよとなんてことない顔したの。
「今まで加工すら難しくてまるで解明されていない素材よ」
「?」
「その研究に、ジュリ、あなたが介入すればいいわ」
「ええ? 研究?」
「そう、アストハルア公爵家の次男が愉快なキャラらしいじゃない」
あ、レオン氏のこと言ってるのね。愉快……かなぁ (笑)?
「あなたとキリア、そしてロディムの三人で加工した物を研究に回せばいいのよ。公爵家なら安心でしょ」
「うーん、まあ、確かに」
三人じゃなく、ロビエラム国王太子も入れると四人だよ、という事は言わない。一人増えた所で希少素材を常に扱える人間が四人しかいないならそんなに世の中変わらないでしょ、と思って曖昧な相槌を返すと不満げにリンファが眉を吊り上げた。
「宝石図鑑作ってその角で無能な研究者たちをぶん殴るんでしょ?」
「なんでそこだけ切り取って言うのよ」
「やりなさい! 思う存分に! それを希少素材でもやるのよ!!」
「物理的な攻撃を嬉々として進めないでよ」
「いいのよ、それで『自分たちが間違っていた』って気づいて自分たちでこの世界を発展させる人が一人でも生まれたら。【彼方からの使い】は必要なくなるんだから」
「!!」
息が止まりそうになった。
「ジュリがそっちで忙しくて大変なら、リハビリ施設のことは私が請け負ってもいい。あなたが提案してくれた、あなただからこそ閃いたアイデアでだいぶ形になったし、本格的に事業としてバールスレイドで展開していけそうなところまで来たの。勿論アドバイスは今までのようにして欲しいし共同事業なのは変わらない……でも、これからはジュリ、あなたはあなたの得意な分野を、思う存分発展させて。そうすることで少なくとも私やジュリのような【知識と技術】を持つ人が全てを奪われてこの世界に召喚されることはなくなるはずよ」
リンファのその考えは、口にせずとも【彼方の使い】なら誰もが一度は願った事があるかもしれない。
国が、時代が違うなんて次元じゃない。全く別の世界の発展を担わされた私たちは、死を回避したという『幸運を押し付けられて』ここで生きている。
私たちには本来発展を担なう義務などないのに。
そんなの勝手にしろ、押し付けるな、その言葉で本当は済む話。
でもここにいる。
神に望まれ選ばれ召喚され。
私たちの意思など、あってないようなもの。
「―――……リ、ジュリ?」
「え?」
グレイの声でハッと我に返った。
加工されるために集められた希少素材で私が欲しいものの選別を行っていたのに、いつの間にか手が止まっていてグレイに心配をかけてしまっていたみたい。
「大丈夫か? 少し座って休むか?」
「あ、大丈夫。ちょっと考え事」
「……それは、私に言えないことか?」
「?」
離婚騒動以降、互いに何でも話そうと決めてから気になったことは何でも話してきた私たち。だからか、グレイが少し不穏な顔をする。
「何がジュリを悩ませている? 始末してくる、教えてくれ」
「すぐそういう発想しないでくれる?」
苦笑して、リンファに言われたことをグレイに話す。すると彼はなんと、満面の笑みを返してきた。
「宝石図鑑の時もだが、希少素材もしくは魔物素材図鑑を作って無能を殴るなら私がやってやろう、ジュリでは力が足りず殺せん」
「殺さんわ!!」
いちいち物騒……。この手の話は不毛だな、と常々思う。
でも仕方ない。こういう人だし、こういう人の隣にいるのも私の意思。不毛だろうがなんだろうが、一生こうして騒ぎながら折り合いつけていくしかないわ。
「元の世界に今でも帰りたいと思うか?」
「思うときはあるよ」
「そうか……」
今度はグレイが苦笑した。
「あ、でも心配しないで。帰れたとしてもグレイも一緒に連れて帰るから」
「は?」
「今更グレイと別れる人生って私には選択肢として存在しないし」
「……いいのか?」
「うん、絶対にそんなことは起きないって分かってるけど、もしも強制送還なんてことが起きたらその時は何が何でも連れてくから」
ニコォ……と、子供のような無邪気な笑顔でグレイが頷く。
私たちはお互いに依存し、執着し、生きている。
今更なかった事にされては困る。
生きていけない。
そう考えれば、元の世界に帰りたいと思う気持ちとかこの世界ではどこまでいっても異物でしかないとか、そういう事に対する不条理さは以前よりずっと薄れたことを自覚している。
それだけ、大事な存在になりたいと思えることでこの世界で生きていく事への辛さや苦しさが押しのけられているんだと、感じている。
「じゃあ、その時は遠慮なく一緒に行くからな」
「そうして」
二人で少しふざけた口調で言ってから笑った。
私だけじゃなく、リンファたちもこの世界で大切な人が出来た。一生を共にしたいと思える『覚悟』が出来た。
とても幸せな事だろう、そう思うけれど、やっぱり振り向く私がいる。
『この世界は、これからもそれでいいの?』
と。
今後召喚される【彼方からの使い】。
【思想の変革】でこの国が、大陸が一瞬で変わって発展するわけじゃない。数年、数十年、時として百年を要するかもしれない。その間に人間は醜い争いを起こすし、馬鹿な事を考えるし、どこかで混乱を起こす。そのたびに停滞や衰退を招いて、神様がきっと【彼方からの使い】を召喚する。私は『きっかけ』に過ぎなくて、その先はこの世界の人達に委ねられていることは未来永劫変わらない。
そんな世界で【彼方からの使い】に愛する人が、大切な人たちが出来なかったら?
勿論、元の世界で不遇な人生を送り召喚されたことで全てから開放されて幸せになれる人もいるかもしれないけれど、その確率は低い気がする。
そう考えると。
(……もう、いらないんじゃないかな。【彼方からの使い】は)
お見送りらしいお見送りは全て断った。
大体、ここに来た理由が強制連行だったし。
良いことなんて一つもなかったこの王宮から去るのに見送りされて『ありがとう』と返すのも変だし、嫌。
そして女王陛下の復権から既に一週間も経てば私も流石に帰りたい。貰うもの貰ったのでさっさとおさらばよ、という私の気持ちが最優先されたことで、最低限のお見送りの構図が奇妙な状況。
見送る側にいるのはツィーダム侯爵夫人のエリス様とヴァリスさん、そしてネルビア首長国レッツィ様が先頭にいて、その後ろにズラリと並ぶのが騎士団の人たち。
見送られる側には私の隣にグレイとリンファ、その後ろに王宮で侍女見習いと書いて人質と読む立場にいたラッジェ男爵家の令嬢と、近衛騎士団副団長ニールさん。
ツッコミどころ満載な面子が対面している。
まずレッツィ様。さも当然のようにいるのよね、凄いわ。
「邪魔をしない、余計な事をしない、出しゃばらない、私の前に出ないなら良いわよ」
とリンファに言われて従っている。大混乱中のベイフェルア王宮が面白くて仕方ないのと、【思想の変革】でどう変わろうとしているのか興味があるそうで、女王陛下の側に暫くいるかもしれない、とのこと。リンファに『ウザかったらシバいていい』と預けられたエリス夫人はサラッと了承し、ヴァリスさんは遠い目をしたらしい。……そこに至る経緯ですらツッコミどころ満載で、お腹いっぱいになる。因みに騎士団はエリス様の子分みたいな扱いになり始めているので、私は関与しない、うん。
で、こっちだよ。
「その子誰よ」
「貰っていくことにしたの」
「ちょっと、人攫い駄目でしょ」
「失礼な!! ちゃんと女王から許可も取ったしラッジェ男爵家にも伝えてあるし本人も快諾してくれたんだから!!」
「ええ……なにそれ。なにしに来たのよリンファは」
「ベイフェルアに圧力かけに来たわ」
「それで何で令嬢を一人バールスレイドに連れて行く流れになるのか意味不明」
リンファの後ろに無言で立っているご令嬢から一礼されて反射的に私も頭をペコリと下げたものの、そこにいるのが当たり前なその空気感は一体どうしたら生まれるのか、やっぱり良く分からない。
「観察力があるし、身体能力も辺境伯令嬢やシャーメインが認めるレベルだし、この国で腐らせておくなんて勿体ないじゃない」
この子もか、この子もソッチ系の女の子だったか!!
「だから貰っていくのよ」
いい笑顔だね、リンファ。
「結局ニールはグレイセルの側近になるのね?」
「断じて違う」
「それでも構いませんよ」
リンファの問いに同時に答えたグレイとニール副団長。
「今回は賠償金代わりの魔物素材の運搬の責任者で来るだけだから」
二人に代わってそう返したらリンファが『んー』と首を傾げながら唸る。
「一人も二人も変わらないからそのまま貰って帰れば?」
「変わるから、王宮史上稀に見る人不足でブラック企業も真っ青な状態だから」
「ツケが回って来ただけよ、この国に。自分たちでそうなるようにしてきたんだからブラック王宮でせいぜい死ぬまで働かせておけばいいのよ」
ニール副団長、それに深く頷くんじゃない。
グレイは虚無な顔。副団長は素材を届けたら勿論こっちに帰ってくるんだけど、朝からグレイに一軒家の価格とか、税金とか、福祉とか、ククマットの事をずっと質問していて、移住前提の会話のみ。ロイド団長からは止めて下さいと懇願する目を向けられたものの私にはあの勢いを止める術がないのでスルーしている。
「娘が生まれたばかりなので直ぐには無理ですからちゃんと帰って来ますよ」
そう笑ったニール副団長に対して、
「私がククマットに転移で送ってあげるわよ?」
なんて余計な事を言ったリンファをグレイが凄まじい目で睨んだけれど時既に遅し。ニール副団長はパアッと笑顔になってそう遠くない未来にククマット移住が彼の中で決定した。
とりあえず無責任に仕事を放り出したりしなければ好きにしたらいいよ、もう。
「これからが大変だぞ」
グレイのその言葉にロイド団長が一つ頷いた。
「かなりの数の貴族が裁かれている。その者たちが表舞台から消えるんだ、代わりを早急に見つける必要がある。女王陛下の復権で全てが整うなどあり得ない、これからが勝負となるぞ。暫く王都は荒れる、より一層の引き締めが必要となるが覚悟は出来ているか?」
決意の籠った目で真っすぐグレイを見るロイド団長がまた頷いた。
「心配ない」
何故かここでエリス様が何か含みのある笑みを浮かべてそう一言発して。
「もう後戻りの出来ない所に立っている。生きたければ進むしかない、それが今のこの王宮だ。ここにいる者は嫌でも様々な覚悟をしなければな。出来ぬものは自然と淘汰されていく、今後この国はそうなっていくだろう。グレイセル・クノーマス、お前が気にする必要はない。お前はジュリの尻を追いかけていればいい、それが一番お似合いだ」
余計な事を言わなければカッコいいのになぁと思ったら、グレイは嬉しそうに笑んで頷いたわ。私の尻を追いかけたいの? 変態じゃん……知ってるけども。
「頃合いを見て私も領に戻るが、それまではここでコイツらの根性を叩き直す。せめて女王陛下が存命の間は治安のいい場所であると言われるよう、コイツらには踏ん張ってもらうさ」
グレイも私も苦笑。女王陛下も認める女剣士が侯爵夫人なんだから、世の中面白いなぁとしみじみ思う。
「さて、お話はここまでかしら」
リンファの一言に、私はエリス様やロイド団長たちの後ろに聳える王宮を目に映す。
(あ、こうして見るの、初めてだ……)
不思議なほど、何も感じなかった。
その事に驚いて、自然と瞬きを繰り返す。
色々あった。
とにかく、この場所に立ってこうして眺めるまでに本当に色んな事があった。
ここは全てが理不尽で、不条理で。
(ああ、理解した)
縁のない場所。
ここに私は必要ないし、私も必要としない。
きっと最初から交わることのない場所だった。
【彼方からの使い】で【変革する力】と【技術と知識】があっても私と交わることのなかった場所が、交わることになったのは、それが神様の望みだったから。それだけのこと。
それがなければ永遠に私は関わることはなかったのだと不意に思った。きっと、何かほんの少し違っていたら私はここに来ることはなかったんだろうな、って。
「帰ろう」
隣にいるグレイの顔を見上げて自然とそう呟いた。
「そうだな、帰ろう」
名残惜しさなどまるでなくて、再び城に目を向けたけれど、目に焼き付けようなんて思うはずもなく私は直ぐにグレイに視線を戻した。
「ここに私は必要ないから」
背を向ける。
グレイに肩を抱かれ、歩き出した。
一度振り向いたけれど、エリス様やロイド団長達に手を振るため。それ以外の理由はなくて、見送りの人達をその目に映せば私の心は直ぐに『離れた』。
興味はもうない。
今後どうなっていくのかククマットから静観する、それだけ。
私の心はククマットを向いている。
やっと、帰れる。
―――帰りましょう、ジュリ―――
セラスーン様の声を久しぶりに聞くことがてきて、私は空を見上げて笑った。
「はい、帰りましょう」
今、この場所との縁が切れた気がした。
振り向くことなく、私は馬車に乗り込んだ。
「寄りたい所、見たいところはあるか?」
扉を閉めて隣に座ったグレイからの問い。
「ないよ」
迷いも躊躇いもなく出たその一言に、グレイは穏やかな表情で頷いた。
「では、帰ろう、ククマットへ」
こうして王宮での出来事は女王陛下の復権と大貴族二家の独立宣言などベイフェルア国にとって大きな転機を迎える形で一応の区切りとなった。
勿論、全てが丸く収まったわけでもないし、国内だけでなく燻るものが残ったり問題が山積みだったりするけど私の手はもう離れたので。
気にしなーい。
よしっ、帰る!!
ようやくククマットに戻ります。
あの話、この話、入れなくても良かったかなと思うのが数話ありましたが、せっかく執筆したし!と掲載し続けたらここまで長くなりました。
とか言いつつまだ補足を……。なので、ちょいちょい後日談とか関連する事が今後も入ってきますのでジュリ達のワチャワチャと共にお読み下さい。
◇改めましてお知らせ◇
ちょうど区切りでもあるのでここで長めのお休み頂きます。次回更新は5月16日(火曜日)となります。よろしくお願い致します。




